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紫外線によって損傷したDNAを光で治すタンパク質の機能を人工的に転換することに成功

カテゴリ:プレスリリース|2016年07月25日掲載


 大学院生命・応用化学専攻およびオプトバイオテクノロジーセンターの神取秀樹教授・センター長、山田大智博士(お茶の水大)らのグループは、紫外線によって損傷したDNAを光のエネルギーを使って治すタンパク質について、簡単なアミノ酸変異を行うことにより、治すことができる損傷DNAの種類を制御することに成功しました。本研究は、東京大学分子細胞生物学研究所の北尾彰朗准教授らのグループとの共同研究の成果であり、米国生化学誌 Biochemistry電子版に掲載されました。

 

紫外線によって損傷したDNAを光で治すタンパク質

 光に含まれる紫外線は、生物に害を成します。それは、紫外線が生物の持つDNAを損傷させてしまい、この形成した損傷DNAが細胞死やガンの原因となるためです。生物はこの損傷DNAを修復する幾つかの機構を持っています。その一つに損傷DNAを同じ紫外光(あるいは青色光)を使って修復する光回復という機構があり、それを担っているのが、光回復酵素と呼ばれる酵素です。また、損傷DNAには、CPD型と(6-4)型と呼ばれる2種類が存在し、それぞれを単独に治すことができる光回復酵素が報告されています(図1)。これらの光回復酵素の研究は、昨年のノーベル化学賞の対象研究にも含まれており、世界中で盛んに行われていますが、未だにそれぞれの光回復酵素が治すことができる損傷DNAの種類を決定する要因についてはほとんど明らかになっていませんでした。

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図1 紫外線によって損傷したDNACPD型、(6-4)型)を光で治すタンパク質(光回復酵素)

 

光回復酵素の機能の相互交換

 そこで、神取教授らのグループは光回復酵素を構成するアミノ酸に着目し、いくつかのアミノ酸のみが損傷DNAの修復に関わり、治すことができる損傷DNAの種類を決定しているのではないかと考えました。特に、光回復酵素が損傷DNAと相互作用する結合サイト付近のアミノ酸に着目しました(図2)。損傷DNAを比較すると、CPD型の方が(6-4)型に比べ、嵩高い構造をしています(図2A)。実際、それぞれの結合サイトを見ると、CPD型の方が(6-4)型のものより結合サイトが大きいように見えます(図2B)。そのため、結合サイトの大きさを調整しているアミノ酸が、治すことができる損傷DNAの種類を決定する上で重要な役割をもつのではないかと考えました。

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図2 (A) CPD型と(6-4)型の重ね合わせ図 (B) 各光回復酵素の結合サイト

 

 神取教授らのグループは、先ず(6-4)型を治す光回復酵素に対して結合サイト周辺のいくつかのアミノ酸をCPD型を治すものへと置き換えた変異酵素((6-4)型修復→CPD型修復)を作製し、その機能を測定したところ、最低3つのアミノ酸を変異させれば、CPD型を治すことができることを見出しました。一方で機能転換に成功したものと逆方向の変異(CPD型修復→(6-4)型修復)については、損傷DNAの結合サイトを構成する全てのアミノ酸(11つ)を置き換えても、機能の転換は起こらず、さらにはもとの機能も消失し、何も修復できなくなる結果となりました。このことから、光回復酵素間の機能転換は非対称的であることがわかりました(図3)。

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図3 非対称的な光回復酵素間の機能転換

 

計算による構造再現

 これらの結果に対して、北尾彰朗准教授らのグループがコンピューター上で機能転換に成功した変異酵素((6-4)型修復→CPD型修復)の構造を見たところ、CPD型の損傷DNAとの結合状態が再現され、CPD型の損傷DNAの修復機構について、実験及び計算から明らかにすることができました。一方、機能転換が成功しなかった変異酵素(CPD型修復→(6-4)型修復)について、コンピューター上で構造を見たところ、(6-4)型の損傷DNAとの結合状態が天然型の構造とは異なる結果となりました。このことが機能転換に成功しなかった原因だと考えられ、(6-4)型の損傷DNAの修復はより複雑な反応機構により実現されていることが、実験と理論の両面からその正しさが立証されました。

 今回の研究から、CPD型修復への機能転換は、結合サイトのアミノ酸を置換するだけで実現したことから、結合サイトのアミノ酸が機能において最も重要なアミノ酸であると言えます。しかし、(6-4)型修復への機能転換は、結合サイトのアミノ酸のみを置換しただけでは成功しませんでした。(6-4)型修復への機能転換を成功させるには、広範囲に渡ったアミン酸の置換が必要であることがわかました。これらの結果は、光回復酵素の治すことができる損傷DNAを分ける制御機構を知る上でも重要な知見となります。また今回得られた結果から、紫外線損傷修復系欠如由来の遺伝的疾患の改善、ひいては皮膚がん予防薬の開発につながる新規分子開発にも役立つことが期待されます。

 


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