名古屋工業大学パンフレット
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13神取秀樹 Hideki KANDORINagoya Institute of Technology Report 2022研究対象である動物ロドプシンと微生物ロドプシン。いずれもレチナール分子(黄色)が光を吸収すると、タンパク質の構造が変化して、機能が生まれる大学院工学研究科 工学専攻(生命・応用化学領域)特別教授オプトバイオテクノロジー研究センター センター長言ではありません。 解析には、①人の目から採取し試料を調製するのが難しい②光の受容で色がなくなるタンパク質なので作業が難しい③従来の解析法では解析が難しいと、3つの困難がありました。長い時間をかけて、霊長類の色覚視物質を培養細胞に作らせる方法や、暗室で作業できる環境、そして赤外分光法という解析方法の開発を行ってきました。その甲斐あって、赤・緑・青を見分けるという当たり前の仕組みを、構造レベルで解き明かすことのできる世界でオンリーワンの研究室になりました。 ロドプシンは、藻類、菌類、ウイルスなどにも存在しており、我々は次々と新種を発見しています。中には有効な機能を持つものもあり、目の病気や脳の疾患に効果が期待されるものもあります。実は私は、実用的な研究に全く興味がなかったのですが、深刻な目の病気を持った人から研究室に、「期待しています」と電話をもらったことがあり、人の役に立つ研究も進めたいと、気持ちを改めました。 昨年、ロドプシン研究が生物物理学功績として認められて内閣府より紫綬褒章をいただき、周囲に感謝するとともに、しみじみ光栄に感じました。 私の研究者人生は決して順調だったわけでなく、一度は研究をあきらめかけたこともありました。本学の応用化学科に採用され、研究室を立ち上げたのが2001年。それ以降、私はマネージャーとして若手研究者を育てることにも注力しています。 研究室にはとても意欲的な学生が多く、研究テーマも出し甲斐があります。私と同じように「ロドプシンを知りたい」「色覚視物質の構造を明らかにしたい」という好奇心で、自分の研究として進めてくれる後進たちが心強い存在です。そのうち彼らが、私をびっくりさせるような発見をしてくれたら嬉しいですね。 本年より「特別教授」という肩書を賜り、学長からは「ますます研究にまい進するように」との声かけをいただきました。65歳で一区切りと思っていたリタイアの時期も5年ほど後ろ倒しに。国からの研究経費で、高額で高性能な機械を導入し、言い訳のできない環境にもなりました。もう少し、ロドプシンの夢に向かって走りたいと思います。特 集  |CLOSE UP 教員研究紹介2021年春、生物物理学研究の功績を認められ紫綬褒章を受章した神取秀樹特別教授。タンパク質「ロドプシン」とともにあるその研究者人生を振り返ります。ロドプシンのはたらきを解き明かしたい! 出合いは大学院、修士課程に進む春でした。人の目や微生物に存在するロドプシンというタンパク質に興味がわいて研究を始め、かれこれ35年以上、追いかけています。 初めは、光を受けたロドプシンがもたらす変化を知りたくて、超高速分光法という手法で解析をしていました。しかし研究を進めるうちに、ロドプシンの構造とその変化に興味が移ったのです。人間に9個あるロドプシンのうち4つは目にあって、明暗を認識するロドプシンの構造は明らかになっているのに、色覚を認識する構造は、未だ解明されていません。どうしても知りたい、その好奇心だけで続けているといっても過自分の研究テーマを引き継いでくれる仲間たち生命・物質化学分野光遺伝学を支えるロドプシンの作動メカニズムの解明

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