名工大研究Stories Vol.12023年3月29日

機械工学で紐解く生命の力学的適応・進化のメカニズム~心臓が動き続ける仕組みの理解と医療への展開~

氏原 嘉洋Yoshihiro UJIHARA

氏原 嘉洋

Yoshihiro UJIHARA

大学院工学研究科 工学専攻
(電気・機械工学領域)
准教授

「自分のやっている研究を重要なものにする」恩師の言葉を心の支えに

研究分野
機械工学分野、ライフサイエンス、生体医工学
研究キーワード
メカノバイオロジー、バイオメカニクス、心臓の進化、リモデリング

Qどのような研究をされていますか

機械工学をベースとして、生命(特に心臓)が物理的な力に適応・進化するメカニズムの解明に挑戦しています。心臓は、血液ポンプであり、生命の象徴です。拍動や血圧などの力に対して、心臓は構造や機能を最適化しながら休むことなく動き続けます。しかし、高血圧などの過大な負荷に対しては、適応機構が破綻して心疾患を発症します。私は、ヒトの心臓はどのように進化してきた(つくりあげられてきた)のか?を調べることで、心臓が動き続ける仕組みと病気になってしまう根本的な原因を明らかにしたいと考えています。

単体の心筋細胞の膜染色画像。正常な心筋細胞(左)には周期的な膜構造(T管膜)が存在している。
細胞内外の力学バランスが崩れた心筋細胞(右)は、T管膜が部分的に崩壊し、心不全を引き起こす。
単体の心筋細胞の膜染色画像。正常な心筋細胞(左)には周期的な膜構造(T管膜)が存在している。
細胞内外の力学バランスが崩れた心筋細胞(右)は、T管膜が部分的に崩壊し、心不全を引き起こす。
生命の力学的適応・進化のメカニズムの解明に向けた心臓の階層的理解 
生命の力学的適応・進化のメカニズムの解明に向けた心臓の階層的理解

Q研究の道を志したきっかけは

特別思い入れのある研究対象や熱意があったわけではありません。研究室が楽しい!研究室を持ちたい!先生方のようになりたい!という不純な?動機で研究の道を志しました。学生の頃は、面白い仲間やスーパーマンのような先生方に囲まれ、研究室で過ごすことが刺激的で充実していました。研究を続けていたら先生方の様になれると思い込んでいましたね。とはいえ、卒業研究で取り組んだ、細胞の硬さを調べる実験に初めて成功したときの震えるような感動体験も進路に影響を及ぼしていると思います。

血管の硬さを測る実習中 熱弁をふるう氏原准教授
血管の硬さを測る実習中 熱弁をふるう氏原准教授
研究室旅行の一コマ(2019年当時)
研究室旅行の一コマ(2019年当時)

Q令和3年度文科省大臣表彰(若手科学者賞)を受賞された「心臓の力学的適応機構と心不全の発症機構に関する研究」について、受賞のご所感をお聞かせください。

受賞の対象となった研究は、心臓が力に適応することが出来なくなる過程を解析し、心筋細胞の特殊な構造の崩壊によって発症する心不全のメカニズムの一端を解明したものです。機械工学、生理学、分子生物学等の知識・技術を駆使した医工融合研究である点を高く評価していただいたと思います。自分一人では到底たどり着けなかった成果ですので、お世話になった先生方の粘り強いご指導やお力添え、苦楽を共にした同僚や学生の皆さんのご支援とご協力のおかげと、深く感謝しております。改めて人との出会いに恵まれていると実感しました。

Q研究の面白さ、苦労した点、研究者として心がけていることを教えてください

苦労を書きだすと止まりません…… 特に、大学院修了後に医学部に所属したばかりのころは、何もかも上手く行きませんでした。期待に応えられない自分が不甲斐なく、精神的・肉体的に大変つらかったです。しかし、今振り返ると、人生で最も成長できた貴重な期間でした。苦労が多くても、未知の事象に挑戦できる喜び、独創的な仮説を閃いた瞬間の興奮、仮説や想像を超える結果や従来のパラダイムを変えるような発見に出会ったときの感動が研究する原動力となっています。「現在重要であると言われている仕事(研究)をするのではなく、自分のやっている仕事(研究)を重要にしなさい」との恩師の言葉を心の支えにしています。

研究室にて
研究室にて

Q今後の目標(研究・人生)をお聞かせください

まずは、現在の研究テーマを少しでも進めたいと考えています。我々哺乳類の心臓は、本当に良く出来ていると思いますが、他の動物が悠久のときをかけて進化させた心臓も非常に魅力的です。例えば、恐竜の子孫である鳥類の心臓は、哺乳類よりも優れた出力を持つ可能性があります。哺乳類の祖先である両生類の中には、哺乳類と異なり心臓が再生するものもいます。将来的には、様々な生物の心臓の仕組みを理解し、我々にその仕組みを実装するような、革新的な心不全治療(バイオインスパイア―ドメディスン)を創出したいと考えています。

研究室メンバー「令和」ポーズ!
研究室メンバー「令和」ポーズ!

略歴

2011年に大阪大学基礎工学研究科機能創成専攻博士課程修了。博士(工学)。

2011年より川崎医科大学生理学1教室で助教、講師を経て、2018年より名古屋工業大学大学院工学研究科准教授。

2018年~2020年に日本機械学会 バイオエンジニアリング部門 若手による次世代戦略委員会幹事。

2021年に令和3年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰(若手科学者賞)受賞。

趣味

料理(低温調理・実家で採れた野菜を生かした料理)、テイクアウト可能なお店の開拓、出張先でのTシャツ集めとラーメン屋巡り