名工大研究Stories Vol.22023年3月29日

雲内の乱れた流れによる雨粒の混合と成長の研究

氏原 嘉洋Yoshihiro UJIHARA

齋藤 泉

Izumi SAITO

大学院工学研究科 工学専攻
(物理工学領域)
助教

当初の目的を忘れずに根気強く研究を継続すること

研究分野
応用物理分野、ものづくり技術(機械・電気電子・化学工学)、流体工学、自然科学一般、大気水圏科学
研究キーワード
乱流、 地球流体力学、大規模シミュレーション

Qどのような研究をされていますか

私達の身近にある空気や水の流れは多くの場合不規則に激しく乱れており、乱流と呼ばれます。私はこの乱流現象の物理を中心に研究しています。雲の中の雨粒のように、乱流は様々な物質を輸送・混合し、また乱流自体も物質から影響を受けて変化します。このように複雑な相互作用を、スーパーコンピュータを用いた大規模なシミュレーションや統計理論を用いて解明し、予報モデルの改良などに貢献することを目指しています。

海上で観測された雲の写真
海上で観測された雲の写真

(出典:https://www.atmos.illinois.edu/~rauber/resear6.jpg)

雲の中で起こる様々な現象と、雲マイクロ物理シミュレータの概念図
雲の中で起こる様々な現象と、雲マイクロ物理シミュレータの概念図
雲の中で起こる様々な現象と、雲マイクロ物理シミュレータの概念図
雲マイクロ物理シミュレータによって再現された水滴の成長の一例。
白い点は水滴を、青い色は水蒸気を表す

Q研究の道を志したきっかけは

大学の学部生の時に流体力学を学んだのがきっかけです。高校の物理では質点や剛体など固体を想定した運動を主に学んできたため、気体や液体の流れを数理物理的に記述できる流体力学に新鮮さと魅力を感じました。特に、地球上の大気や海水を地球回転と重力の影響下にある流体として統一的に研究する地球流体力学、及びその応用である気象予報に興味を持ち、地球惑星科学の専門に進みました。その後名古屋工業大学に来てからは、乱流による物質の輸送・混合の研究、特に雲内の雨粒の物理に興味を持って研究してきました。

Q令和3年度文科省大臣表彰(若手科学者賞)を受賞された「雲乱流混合現象における雲粒子成長と乱流との相互作用の研究」について、受賞のご所感をお聞かせください。

この研究は、雲内の乱流環境において小さな雨粒が凝縮および衝突・合体を経て成長する様子をスパコンを用いた大規模・長時間のシミュレーションで明らかにしたものです。雨粒の成長全体を再現するという挑戦的なものであり、雲乱流研究におけるシミュレーションの有用性と可能性を示すことができました。これまでご協力頂いた共同研究者の先生方や、大学の皆さまには感謝の念に堪えません。この成果を土台として、今後もより一層研究を発展させていくことができればと考えています。

研究風景。右下奥に見える白い箱のようなものはシミュレーション用のサーバー
研究風景。右下奥に見える白い箱のようなものはシミュレーション用のサーバー

Q研究の面白さ、苦労した点、研究者として心がけていることを教えてください

研究では期待した通りの結果が得られることはなかなか無く、試行錯誤している内に迷宮入りしてしまうこともしばしばあります。このため、当初の目的を忘れずに根気強く研究を継続することを心がけています。その一方で、過去に失敗に終わったような経験や結果が、後になって予想外の場面で役に立ったり問題解決の糸口になることがあります。そんなときには研究の面白さを感じます。

研究室ミーティング(ホワイトボード手前:齋藤助教)
研究室ミーティング(ホワイトボード手前:齋藤助教)

Q今後の目標(研究・人生)をお聞かせください

現在取り組んでいる雲乱流の研究はまだ発展途上です。最終的な目標は現象の理解を通じて気象予報のモデル改良に貢献することですが、それにはまだ距離があります。今後も研究を進めることで、少しでもこの距離を縮めること、モデル改良の貢献への道筋を付けることが目標です。また乱流による物質の輸送・混合の問題は、雲と雨粒に限らず自然科学・工学の様々な場面で見られます。このように幅広い問題へ取り組めるよう、今後の研究を展開していきたいと考えています。

略歴

2016年に京都大学大学院理学研究科修了。博士(理学)。その後、名古屋工業大学特任研究員を経て、2017年より同大学院工学研究科助教。

趣味

最近は家族と百貨店めぐりをするのが楽しみです。