名工大研究Stories Vol.32024年2月2日

軽くて強い、アルミニウムの更なる可能性を追及—材料開発の夢は無限大!

成田 麻未Mami MIHARA-NARITA

成田 麻未

Mami MIHARA-NARITA

大学院工学研究科工学専攻
(物理工学領域)
助教

研究においても人生においても「強くしなやかに」

研究分野
材料機能分野、ナノテク・材料、金属材料物性
研究キーワード
異種材接合、組織制御、マグネシウム合金、アルミニウム合金

Qどのような研究をされていますか

近年、適材適所に材料を採用する「マルチマテリアル化」が進んでおり、「軽量材料開発」や「接合技術」が自動車や航空機材料開発の鍵となっています。アルミニウムは軽金属材料の一種であり、古くから使われている鉄や銅に比べると比較的新しい金属材料で、軽量化達成には欠かせませんが、その特性に関してはまだ分かっていないことも多いです。アルミニウムをねじって強くしたり、爆薬を使ってマグネシウムと接合したり、アルミニウムを金属3Dプリンティングで造形したり。私の研究では様々な手法を用いて材料組織制御を行い、特性向上とメカニズム解明を目指して取組んでいます。

マグネシウム合金とアルミニウム合金との異材接合に用いる爆発圧着(爆着)法のセットアップ概要。従来の接合手法では脆い金属間化合物から成る中間層が界面に形成し、接合部の強度が低下してしまう。本研究では爆着法を適用することで化合物層の形成を抑制し、高い接合強度が得られることを見出した。

マグネシウム合金とアルミニウム合金との異材接合に用いる爆発圧着(爆着)法のセットアップ概要。従来の接合手法では脆い金属間化合物から成る中間層が界面に形成し、接合部の強度が低下してしまう。本研究では爆着法を適用することで化合物層の形成を抑制し、高い接合強度が得られることを見出した。

圧縮ねじり加工法(Compressive Torsion Processing: CTP)のセットアップ概要。本手法では材料に圧縮とねじり負荷を同時に与え、材料内部に巨大なひずみを導入可能。これによりミクロ・ナノレベルでの材料組織制御が達成できる。

圧縮ねじり加工法(Compressive Torsion Processing: CTP)のセットアップ概要。本手法では材料に圧縮とねじり負荷を同時に与え、材料内部に巨大なひずみを導入可能。これによりミクロ・ナノレベルでの材料組織制御が達成できる。

高強度アルミニウム合金の走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscopy: STEM)像。右図に示すように単位構造を持ってAl, Mg, Zn原子が配列しており、このようなナノ組織が強度に寄与している。

高強度アルミニウム合金の走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscopy: STEM)像。右図に示すように単位構造を持ってAl, Mg, Zn原子が配列しており、このようなナノ組織が強度に寄与している。

材料のミクロ・ナノ組織を制御することで、強度や延性などのマクロな特性が改善される。

材料のミクロ・ナノ組織を制御することで、強度や延性などのマクロな特性が改善される。

Q研究の道を志したきっかけは

私がアルミニウムと出会ったのは修士課程在籍時です。熱処理によってアルミニウム合金の硬さが変化し、室温でも時間を長くかければ硬化していく様子に、何て面白いんだと心を奪われました。そして、熱処理によって原子の集合体がどのように形成するのかを、透過型電子顕微鏡、陽電子消滅法および三次元アトムプローブ法等の様々な手法で追及し、アルミニウムの研究の世界に浸かっていきました。その後、同じ学会で活躍されていた女性教員の講演を聴き、留学や研究に打ち込む姿勢に惹かれ、博士課程への進学を決めました。博士課程在籍時にノルウェー工科大学(NTNU)へ留学した際、留学先の研究者が私の研究に大変興味を持ってくださり、今でもNTNUとは協力関係を継続しています。アルミとの出会いを通じて、国内外で多くの方々と出会うことができ、私の研究者としての人生がその出会いに支えられていますので、アルミと出会えて本当に良かったと思っています。卒業後は企業(アルミニウムメーカー)へ就職し、多くの問題解決を日々行いながら健全な材料が世に送り出されていることに、大変感銘を受けました。その後、縁あって現職に就くこととなりましたが、一貫して変わらないのは「アルミニウムの硬化メカニズムを解明したい」という気持ちです。これからも、「研究が好き」という自分の気持ちに従ってこの道を進んでいきたいです。

Q7000系アルミニウム合金の時効硬化挙動研究部会を立上げ、部会長をされているとのことですが、部会の取組について教えてください。また、立上げにあたり印象に残っていることなどあれば教えてください

アルミニウム合金の中で最も強度の高いAl-Zn-Mg系合金は、航空機、鉄道車両および自動車などの構造部材として適用されています。通常、熱処理による調質によりアルミニウム合金は硬化(時効硬化)しますが、その際に行われる溶体化処理において、急速に冷却(水冷)することが要求されます。しかし本合金では、条件によっては徐冷しても高い強度が得られることが分かっており、そのメカニズムや、更なる高強度化に向けたプロセス開発が急務となっています。徐冷を活用すると、工業的には省プロセスとなる利点があるため、その詳細を解明することが重要です。そこで軽金属学会にて研究部会を立上げ、産学およそ20名の研究者を集めて、様々な手法を用いて研究活動を行っています。参加者の皆さんからは、この研究テーマに高い関心を持っていただいており、更に研究手法や最新の研究動向について情報交換する場としても、部会活動は役立っていると感じています。研究者はときに孤独となりがちですが、こういった研究者同士の繋がりを持つことはとても大切だと実感しています。若手研究者が自由な発想で研究テーマを考え、それを具体化することを、学会としても支援する仕組みが進んできていると思います。

Q研究の面白さ、苦労した点、研究者として心がけていることを教えてください

アルミニウムは身近な材料であると思いますが、実は添加元素や熱処理、製造工程などの種類が数多くあり、目的に適した方法で製造されています。それは、アルミニウムに限ったことではなく金属材料全般に言えることです。全ての物の元となる「材料」の開発は、まだまだ未知の事象が多く可能性にあふれています。予想と違った、教科書通りの結果が出てこないときこそ、新たな発見のチャンスであったりもします。ワクワクしてきませんか?私は、研究においても、自分の人生設計においても、「強くしなやかでありたい」と思っています。予期せぬことが起きたり、思わぬところで貴重な出会いや機会が訪れたりしたとき、そのとき置かれた状況に応じて柔軟に対応できるようにしています。また、周囲に相談できる人を持つことや、日ごろから報連相を意識して生活することが結構重要であり、私が心がけていることでもあります。

Q今後の目標(研究・人生)をお聞かせください

「息子を連れて、国際会議に参加することが夢の一つ」と別の取材で書きましたが、早々に叶い、一年に二度も子連れで海外出張をしてしまいました。オーストリアと米国でしたが、とても良い経験になりました。他には、子連れで在外研究を行うのが夢ですが、長期滞在となると様々な障壁もありますので悩ましいです。また、生涯を通してアルミニウムの研究に携わり、SDGsに貢献する新たな材料や製造方法を明らかにすることが今後の目標です。材料や金属の研究の面白さを次世代へ伝える活動にも携わりたいと考えています。

国際会議(Thermec2023, Wien)での一枚。学生の頃よりお世話になっている李教授(富山大学、写真中央)と、学生の頃の留学先と受入れ担当であったHolmestad教授(ノルウェー工科大学、写真右)と現地で再会。

国際会議(Thermec2023, Wien)での一枚。学生の頃よりお世話になっている李教授(富山大学、写真中央)と、学生の頃の留学先と受入れ担当であったHolmestad教授(ノルウェー工科大学、写真右)と現地で再会。

略歴

2017年3月に東京工業大学理工学研究科材料工学専攻博士課程修了。博士(工学)。

2017年4月より株式会社UACJ R&Dセンターにて研究員、その後2020年4月より名古屋工業大学大学院工学研究科助教。
所属学協会:軽金属学会、日本金属学会、溶接学会、日本鋳造工学会、日本塑性加工学会
委員:軽金属学会研究委員会(委員)、軽金属学会男女共同参画委員会(委員)、溶接学会軽構造接合加工研究委員会(委員)、溶接学会若手会員の会(運営委員)

受賞歴

2014年1月 (一社)軽金属学会 平成25年度軽金属希望の星賞

2019年11月(一社)軽金属学会 第11回軽金属女性未来賞

2021年11月(一社)軽金属学会第1回希望の星賞グランドチャンピオンシップ最優秀希望の星賞 

2022年 3月 名古屋工業大学若手研究イノベータ養成センター 奨励賞

2022年11月 第40回軽金属奨励賞 

2022年11月 名古屋工業大学 第9回「女性が拓く工学の未来賞」優秀賞

2022年11月 名古屋工業大学 学長褒賞 優秀賞

2022年12月(一社)日本女性科学者の会 若手研究者特別賞

2023年 3月 名古屋工業大学若手研究イノベータ養成センター 優秀賞

2023年5月 (一社)溶接学会 軽構造接合加工研究委員会 講演奨励賞

2023年6月(公財)新化学技術推進協会(JACI) 第12回新化学技術研究奨励賞

趣味

今は自分の趣味(楽器(ホルン)演奏)に没頭することが中々難しいですが、息子の習い事を通して、ピアノ・バイオリン・英会話・和太鼓等に触れる日々を過ごしています。