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日本の真夏:訪日外国人の熱中症リスクの試算に成功~冷帯気候出身者のリスクは熱帯気候出身者に比べて顕著~

カテゴリ:プレスリリース|2017年07月25日掲載


名古屋工業大学(教授・平田晃正、特任研究員・小寺紗千子、大学院生・小島和也、長谷川一馬)、北見工業大学、東北大学サイバーサイエンスセンター、一般財団法人日本気象協会のグループは、のグループは、訪日外国人が日本の夏の環境における熱中症リスクを試算することに成功しました。外国人の出身地域を冷帯、温帯、熱帯の3区分とし、日本の夏の環境を模擬した複数の場合におけるリスクを試算した結果、下記のような、出身地による相違を初めて明らかにしました。

① 冷帯出身者は汗腺数が少ないため汗をかく量に限界があるため体温上昇傾向が大きいこと
② 冷帯出身者が暑さになれていない場合には、温帯の人に比べて体温上昇は2-3倍になること
③ 熱帯と温帯出身者では、体温上昇、発汗量について大きな相違は見られないこと 等

今後、夏に日本を訪れる外国人を対象とした啓発活動に利用していく予定です。

【新規性】

インバウンド、あるいは真夏の屋外での大規模イベントなど、今後、夏に日本に来る外国人が増加することが予想されます。一般財団法人日本気象協会ではアンケート調査を実施、在留外国人に日本で熱中症の症状を経験したことがあるかという質問をしたところ、「熱中症を経験したことがある」という回答は、全体の75.5%を占める結果となりました。冷帯、寒帯地域における研究機関では、サウナなど特殊な状況を除き、暑熱負荷に対する体温変化、発汗などを調査、検討した報告はほとんどありません。また、熱帯地域出身者と温帯地域出身者の温熱反応の比較した報告も数えるほどしかありませんでした。
普段のヒトの代謝量は、月平均の気温と相関があることが報告されていることから(Hori, 1995)、日本の夏(6~9月)を想定し、冷帯、温帯、熱帯出身者の総代謝量を導出しました。また、熱帯地域に在住するヒトの四肢における体温は低い一方、頭部・胴体では高いことが報告されており(Lee et al, 2011)、その実測値と合致するよう代謝分布を推定しました。さらに、3歳までに育った地域により能動汗腺の数密度が異なることが知られており、文献(Kuno, 1956)による報告、および(Stolowijk, 1976)に示されたデータに基づき、冷帯、温帯、熱帯出身者の発汗応答を定式化することに成功しました。試算より得られた結果は、アンケート調査結果である温熱調整系の相違が出身地に依存することを支持するものでした。
温帯、冷帯、熱帯気候地域に住むヒトが、日本の夏の環境における生体応答を推定できるようになりました。また、暑さに慣れていない(暑熱順化していない)冷帯地域の外国人が夏に来日すると、その体温上昇は日本人に比べて2倍(晴)-3倍(曇)に及ぶことがわかり、熱中症のリスクが高まることが示唆されました。

【これまでの研究・開発の経緯】

〇名古屋工業大学、東北大学サイバーサイエンスセンター、一般財団法人日本気象協会の共同研究グループは、1)乳幼児や高齢者などの個人特性を考慮した熱中症リスク評価のための複合物理・システムバイオロジー統合シミュレーション技術を東北大学サイバーサイエンスセンターが有するスーパーコンピュータSX-ACEに効率的に実装、高速化、2)気象予報データと融合させることによる、個人特性を考慮した3時間後の熱中症のリスクを10分で評価する技術の開発に成功してきました(2015年7月21日プレスリリース)。また、気象予報データと経験から得られた数式を融合させたデータを組み込み、現実的な条件(例えば、アスファルト、運動場など)での熱中症リスク評価システムを開発、個人属性を考慮した適切な熱中症リスク評価技術も開発しています(2016年7月25日プレスリリース)。さらに、太陽光による輻射の影響を高精度化するために、北見工業大学が加入し、詳細な人体モデルの作成、シミュレーションの高精度化を継続的に実施しています。
〇アンケート調査(https://www.netsuzero.jp/netsu-lab/lab04): 一般財団法人日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトでは、2016年に日本の夏(6~9月)を経験したことがある20~59歳の在留外国人男女200名を対象に、「日本の暑さに関する調査」を実施しました。本リリースと関連し、約50%の人が熱中症を気にしはじめる温度を比較すると、熱帯地域と乾燥地域の出身者は35℃以上、温帯地域と冷帯地域の出身者は30℃以上と相違が見られるなどの知見を得ていました。

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図1.気温を変化させた場合の様々な気候に住む外国人の体温上昇の比較。湿度60%、晴れ。

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図2.熱帯、温帯、冷帯(暑熱順化後、順化前)、から訪問した外国人の体表面温度の比較。半袖、長ズボンで気温35℃、湿度60%、晴の環境で1時間過ごした場合。

【今後の展開】

日本気象協会では、前述の共同研究成果に基づき、熱中症セルフチェック(https://www.netsuzero.jp/selfcheck)を開発、2017年4月より熱中症ゼロへプロジェクトのWEBサイトで公開しています。本システムでは3つの入力に対して、ヒトにあわせたリスク情報を提供するものです。来シーズンに向け、今回開発した評価システムに基づいた訪日外国人リスク試算の実装を検討しています。

【この件に関するお問合せ】

国立大学法人名古屋工業大学
電気・機械工学専攻 教授 平田晃正
Tel: 052-735-7916
e-mail: ahirata [at] nitech.ac.jp *[at]を@に置換してください。

企画広報課広報室 村上侑
Tel: 052-735-5316
e-mail: pr [at] adm.nitech.ac.jp *[at]を@に置換してください。


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