2026年度 学部入学式式辞(2026年4月)
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大学案内
新入生の皆さん、名古屋工業大学へようこそ。
本日ここに、皆さんを本学の新たな一員としてお迎えできますことは、教職員、在学生、卒業生、そして本学のすべての者にとって、大きな喜びであります。
また、本日ご列席のご家族、関係者の皆さまに、心よりお祝いを申し上げます。皆さまの長きにわたるお支えがあってこそ、本日のこの晴れやかな門出がありますことに、深く敬意を表します。
名古屋工業大学は、1905年の創立以来、120年を超える歴史を刻んでまいりました。およそ八万人の卒業生が、それぞれの現場で技術を磨き、産業と社会を支え続けてきました。
しかし、本学の伝統とは、過去の実績そのものではありません。時代の変化に向き合い、新たな課題に応え続ける姿勢こそが、本学の真の伝統であります。
本学の掲げる理念「心で工学」は、その精神を端的に示しています。
工学とは、単に技術を習得することではありません。社会を見つめ、人間を理解し、未来を構想する営みであります。高度な知識や技能は不可欠ですが、同時に、自ら考え、問い、判断する力が求められます。技術は手段であり、それをいかに用いるかを決するのは、人間の志です。
これから始まる大学生活は、皆さんが未知の世界に踏み出す時間です。新たな学問に出会い、自らの未熟さに気づき、思い通りに進まぬ経験を重ねることもあるでしょう。ときに「分からない」という感覚に戸惑うこともあるかもしれません。しかし、学問とは本来、「分からない」という地点から始まるものです。若さとは、未知を恐れず問い続けることを許される、かけがえのない特権でもあります。
ここで、古代ギリシャの哲学者ソクラテスの逸話を思い起こしたいと思います。
デルフォイの神託が彼を「最も賢い者」と告げたとき、ソクラテスはそれを誇るのではなく、むしろ戸惑いました。そして彼は、自らが賢いと称される理由を確かめるために、多くの人々との対話を重ねます。政治家、詩人、職人──それぞれに優れた知識や技術を持つ人々と語り合う中で、彼はある事実に気づきます。人はしばしば、自らが知っていると思い込むことによって、かえって真理から遠ざかるのではないかということに。
そうして彼は、「自分は何も知らないということを知っている」と語りました。
聞き慣れたこの言葉は単なる謙遜として理解されることがあります。しかしそれ以上に自らの無知を直視する勇気、そして問い続ける覚悟の表明です。知っているつもりになることが思考を止めます。無知を自覚する者だけが、他者と対話し、新たな理解へと歩みを進めることができるのです。
今日、私たちは高度な技術の時代に生きています。AIをはじめとする先端技術は、膨大な情報を瞬時に提示し、複雑な課題に解を与えます。しかし、いかに精緻な応答が得られようとも、「何を問うのか」「なぜそれを問うのか」を定めるのは、人間にほかなりません。問いを立てる力こそが、技術を生かす源泉であります。
「心で工学」とは、まさにこの姿勢を意味します。
自らの無知を恐れず、本質を問う。答えを急がず、理解を深めようと努める。その積み重ねの中で、人は技術者としてのみならず、一人の人間として成熟していきます。
新入生の皆さん、どうか問い続ける人であってください。
安易な理解に満足せず、本質を見極めようとする姿勢を大切にしてください。皆さん一人ひとりの問いが、やがて新しい技術を生み、新しい社会を形づくります。
本日から、皆さんは名古屋工業大学の一員です。
共に学び、共に問い、共に未来を築いてまいりましょう。
本日は誠におめでとうございます。
2026年4月6日
名古屋工業大学 学長 小畑 誠
