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我々はどうやって青色を見ているのか?霊長類青センサータンパク質の構造解析

カテゴリ:プレスリリース|2017年07月10日掲載


◆大学院工学研究科 生命・応用化学専攻およびオプトバイオテクノロジー研究センターの神取秀樹教授・センター長、片山耕大助教、卒業生の野中祐貴氏らは、京都大学霊長類研究所の今井啓雄准教授との共同研究により、霊長類が青色を認識するタンパク質の構造情報を世界で初めて捉えることに成功しました。本研究成果は、英国のオープンアクセスジャーナルであるScientific Reportsの7月7日号に掲載されました。

■ 霊長類色覚センサータンパク質の波長制御研究

 私たちが普段見ているすべての色は、「光の三原色」と呼ばれる青・緑・赤の3種類の光の組み合わせのパターンによって作られます。これは眼の中に存在する色 (青・緑・赤) を感じる3種類の光センサータンパク質 (色覚タンパク質(※1)) が働くことで達成されています (図1a)。興味深いことに、光センサータンパク質は11シス型レチナール (ビタミンA誘導体) という全く同一の分子を使って異なる色の光を吸収しますが (図1b)、1)試料調製が困難なこと、2)限られた試料に対する構造解析手法が存在しないこと、3)実験操作のすべてを暗室で行わないといけないこと、から構造研究は皆無でした。私たちが色を見分けるという当たり前のことを、分子レベルで説明できなかったのです。
 そのような状況のもと、神取教授、片山助教 (当時神取研究室の学生) らは京都大学霊長類研究所の今井啓雄准教授との共同研究により、10年前に赤外分光法(※2)を用いたサル色覚視物質の構造研究を開始しました。哺乳類ガン細胞を用いたタンパク質の大量発現と高精度低温赤外分光法を組み合わせることで、2010年に世界で初めて霊長類赤・緑センサータンパク質の構造解析に成功し、2012年、2015年の論文により我々が赤と緑を見分ける分子機構の解明に成功しました。
 一方、青センサータンパク質は、過去の文献によれば、赤・緑センサータンパク質よりも一桁近く発現量が少ないことが知られており、神取グループの手法を持ってしても構造解析は不可能であると考えられていました。

0710図1.png        図1a. 3種類 (青・緑・赤) の光センサータンパク質の可視吸収スペクトル

        図1b. 11シスレチナールの構造式
           レチナールは、ポリエン鎖部分、シッフ塩基、β-イオノン環からなる。

■ 霊長類青センサータンパク質の構造解析を実現!!

 今回、神取教授らの研究チームは、青センサータンパク質の構造解析に向けて、霊長類間での種の選択やタンパク質の可溶化・精製条件の再検討を行い、赤外スペクトルを測定するのに十分量の精製試料を得ることに成功しました。その結果、研究開始から10年が経過した今年になって、ついに青センサータンパク質の構造解析が実現したのです。
 得られた青センサータンパク質の赤外スペクトルは、レチナールの分子構造、タンパク質の骨格構造、そして内部結合水の振動モードが赤・緑センサータンパク質とは大きく異なっていました。特に疎水的な化学構造を有するレチナール分子の近傍(=水分子が存在しにくい)に複数の水分子が集合体 (クラスター) を形成していることを示唆する特徴的な信号を得ることができました。これらの結果から、水分子が有する極性がレチナールのポリエン鎖上のπ電子の局在化を引き起こすことで、青色の光を吸収するモデルを提唱することができました (図2)。

20710図.png図2:霊長類青センサータンパク質のメカニズム

■ 色認識メカニズム解明への期待

 このように今回、神取教授らは、青色を感じる光センサータンパク質の構造解析に成功し、タンパク質内部の非常に疎水的な環境に置かれたレチナール分子の近傍に、水クラスターの存在を明らかにしました。"青"は海や水の色を連想させますが、偶然にも青センサータンパク質が青を見るのに水分子が重要であることがわかりました。
 青センサータンパク質の構造解析を実現したことで、3種類 (青・緑・赤) すべての構造情報が出揃ったわけであり、これらのデータを統一的に解析することで、色覚センサータンパク質のタンパク質環境が11シスレチナールという同一の分子を使ってどのように色識別を実現しているか、詳細なメカニズムを明らかにできると期待されます。また光反応中間体の構造解析を進めることで、色を識別するセンサータンパク質の光活性化メカニズムに迫ることができるものと期待されます。

  

※今回の研究は、概算要求事業「光といのち」研究の世界拠点形成、日本学術振興会(JSPS)の科研費補助金、京都大学霊長類研究所共同利用・共同研究拠点「霊長類学総合研究拠点」の支援により実施されました。

原著論文

"Spectral Tuning Mechanism of Primate Blue-Sensitive Visual Pigment Elucidated by FTIR Spectroscopy"
Kota Katayama#, Yuki Nonaka#, Kei Tsutsui, Hiroo Imai, and Hideki Kandori (#equally contributed)
Sci. Rep. 7, 4904 (2017).

用語解説

※1 色覚タンパク質
 私たちの眼の網膜には長波長の光に反応する赤錐体、中波長に反応する緑錐体、短波長に反応する青錐体の3種類があり、それぞれの錐体細胞に発現している特定の範囲の光波長に最も反応する膜タンパク質。
※2 赤外分光法
 物質に赤外光を照射し、透過または反射した光を測定することで、試料の構造解析や化学変化、定量を行う分析手法。

本件への問い合わせ

名古屋工業大学大学院工学研究科 生命・応用化学専攻 生命・物質化学分野
神取 秀樹(かんどり ひでき)
電話&FAX:052-735-5207  電子メール:kandori[at]nitech.ac.jp

片山 耕大(かたやま こうた)
電話&FAX:052-735-5218  電子メール:katayama.kota[at]nitech.ac.jp

※電子メールの[at]は、@に置換してください。


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