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細胞や組織を生きた状態のまま高解像度の電子顕微鏡で観察することに成功したと浜松医科大学・名古屋工業大学(石井大佑 准教授)・千歳科学技術大学の研究グループが発表

2017年03月03日掲載


電子顕微鏡は、光学顕微鏡ではイメージングすることが出来ない極微細な構造を高分解能で観察可能なため、さまざまな分野で用いられてきました。しかし、電子顕微鏡は、筐体内を宇宙ステーション軌道レベルに相当する高真空環境10-310-7Pa)』に保つ必要があり、そのため構成成分の80%ほどが水である生物試料を観察する場合には、事前の化学固定や脱水・乾燥作業が不可欠とされ、生きた超微細構造の観察は不可能でした。またこれらの処理は、試料の変形やアーティファクトを生じさせる為、従来の試料作成法による観察・解析による結果は、生体本来の構造を正確に捉えてはいませんでした。これに対し、研究グループは、昆虫の体表面物質(および疑似物質)を試料に塗布し、電子線およびプラズマ照射により体表全面に高気密NanoSuit®を形成することにより、高真空中で生物の個体試料の生命を維持し、高分解能で観察することを可能としました(Takaku et al, 2013. doi:10.1073/pnas.1221341110)

残された課題は、個体から切り出した器官や組織、細胞をいかに本来の姿を損なうことなく高真空下で保護するかでした。切除したばかりの組織や細胞は容易に脱水・脱気され、初期のNanoSuit溶液を用いても高真空環境下での保護ができなかったのです。研究グループは、さまざまな保護溶液を考案する中で(Suzuki et al, 2013. doi.org/10.1371/journal.pone.0078563)、グリセリンなどを主成分とするSurface Shield EnhancerSSE)の開発に成功しました(国際出願番号PCT/ JP2015/052404)。この新型溶液を利用することにより、切り出した哺乳動物の組織・単離した真核細胞などを電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)内で、生きた状態のまま観察することに世界ではじめて成功しました。この新しいSSE-NanoSuit®膜は、気密性が高い上、膜厚が10 nmと薄く、組織や細胞の超微細構造を直接観察できます。また処理時間も数分間と作業の簡便性も高いのです。今回の発表には、炎症を起こした腹膜・宿主細胞とウイルスの連関・正常組織とガン組織の境界部など、医学検体の観察結果が盛り込まれています。医療分野での活用はもとより、多くの生命科学研究に貢献できることが期待されています。

Royal Society Open Science

石井大佑 准教授

  TEL:052-735-5254

  E-mailishii.daisuke  ※アドレスの末尾に「@nitech.ac.jp」を補完してください



この情報は研究支援課が提供しています。

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