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世界初!金属触媒を用いない高分子の合成に成功-環境負荷の小さい高分子材料や半導体ポリマーの製造にも期待-

カテゴリ:プレスリリース|2017年07月13日掲載


発表のポイント

  • 金属触媒ではなく、有機分子触媒(注1)を用いたポリビニルエーテルの合成に世界で初めて成功しました。
  • 有機分子触媒、開始剤、反応温度を系統的に調査し、金属触媒に匹敵する合成成果が得られる最適条件を決定しました。
  • 今回用いた有機分子触媒は分離回収が容易であり、再利用も可能と考えられます。
  • 微生物によって分解される性質をもつ高分子や半導体ポリマーの製造にも期待されます。

研究の概要

高分子(ポリマー)とは、分子量が大きい分子を指し、分子量が小さい分子(モノマー)を繰返し多数結合させた構造をもち、重合体とも呼ばれます。この高分子ができる過程では、図1のように開始剤(高分子の末端にくる原子団を有する試薬)が切断され、それによってできる反応性が高い部分(活性末端)にモノマーが連続して結合していく、重合という反応を繰り返しています。しかし、条件によっては、必ずしも開始剤から重合が始まるとは限らず、結合するモノマーの数もバラバラになってしまいます。高分子の機能や性質は、末端の構造や全体の分子量に左右されるため、これらを思いのままに制御する方法、すなわち精密重合を開発することが重要です。

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図1 開始剤によるモノマーの重合の様子

高分子の中でも、ビニルエーテルをモノマーとした重合で得られるポリビニルエーテルは、身近な塗料や接着剤にも利用されるため、より効率的で高性能、かつ環境負荷の小さい重合が国内外で古くから研究されてきました。一般的な手法として、電子対を受取る金属ルイス酸を触媒に用いた精密カチオン重合(注2)が数多く報告されています。しかし、使用した金属触媒を高分子内から完全に取り除くことは難しく、利用用途によっては、高分子内に残った金属が反応を起こし、時間経過とともに高分子の着色や機能低下につながる恐れがあることから、金属触媒を完全に取除く方法、もしくは金属触媒を使用しない精密重合が求められています。 今回、名古屋工業大学大学院の高木幸治准教授らは、金属ルイス酸触媒にかわり、同様に電子対を受取る性質を有したハロゲン元素によるハロゲン結合を利用し、金属触媒を用いないビニルエーテルの精密カチオン重合に世界で初めて成功しました(図2)。

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図2 ハロゲン結合による炭素--ハロゲン(C-X)結合の切断とビニルエーテルの重合

ハロゲン結合は、結晶工学や材料科学など固体系におけるツールとしてしばしば利用され、その性質が溶液系にも適用できると近年急速に注目を集めていますが、これを用いたビニル化合物をモノマーとした重合については報告例がありませんでした。そこで、高木准教授らはハロゲン結合を形成する有機分子触媒、開始剤、反応温度を系統的に調査し(図3)、ビニルエーテルの一種であるイソブチルビニルエーテルをモノマーとして金属触媒に匹敵する重合成果が得られる最適条件を決定しました。その結果、反応溶媒にCH2Cl2(ジクロロメタン)を用いて、冷却下で重合を行う必要があるなど、実用化までに残された課題は存在するものの、安定で取扱いの容易な触媒を用いたビニルエーテルの重合が可能であることを明らかにしました(図4)。なお、今回用いた有機分子触媒は、沈殿操作による分離回収が容易であるため、再利用も可能であると考えられます。

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3 触媒と開始剤の構造式

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4 モノマーの転化率とともに分子量が増大する結果

この重合方法は、ビニルエーテルに限定されるものではなく、電子対を受取る触媒を利用して重合する他のモノマーにも適用でき、微生物によって分解される性質を有する環境適合ポリマーや半導体ポリマーの製造にも期待がもたれます。

なお、本研究成果は、Wiley社が発行する雑誌「Chemistry - A European Journal」に5月30日に掲載され、編集委員会が重要論文としてハイライトするHot Paperに選出されました。また、本研究の一部は、物質・デバイス領域共同研究拠点:人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンスにおける共同研究のもとで実施されました。

論文情報

雑誌名 : Chemistry - A European Journal
論文タイトル : Halogen-Bonding-Mediated and Controlled Cationic Polymerization of Isobutyl Vinyl Ether: Expanding the Catalytic Scope of 2-Iodoimidazolium Salts
著者 : Koji Takagi, Koji Yamauchi, and Hiroto Murakata
DOI番号 : 10.1002/chem.201702455
URL :http://doi.org/10.1002/chem.201702455

また、この研究はEurekAlert!でも紹介されています。

用語解説

(注1)有機分子触媒:炭素、水素、窒素、酸素などの身近な元素からなる触媒を指す。多彩な有機合成反応には、さまざまな金属触媒が利用されており、2010年のノーベル化学賞に選ばれた鈴木・宮浦クロスカップリング反応にもパラジウム触媒が用いられている。これに対して、希少価値の高い金属元素に頼らない新世代の触媒として、有機分子触媒が注目を集めている。

(注2)精密カチオン重合:炭素陽(プラス)イオンを活性末端に有する重合をカチオン重合と呼ぶ。ただし、炭素陽イオンは不安定であるため、重合が停止したりするなどの副反応を併発する。この炭素陽イオンを安定化することで、望ましくない副反応を抑制した重合を精密カチオン重合と称し、期待された機能や性質を担保できる数のモノマーが連なった高分子が得られる。

本件に関するお問合せ

【研究に関すること】
大学院工学研究科 生命・応用化学専攻 
准教授 高木幸治
TEL:052-735-5264  
E-mail:takagi.koji [at] nitech.ac.jp

【広報に関すること】
企画広報課広報室
村上侑
TEL:052-735-5316  
E-mail: pr [at] adm.nitech.ac.jp

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