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齋藤泉助教研究グループの研究成果が、混相流における乱流変調の解明に光明。

2019年11月13日掲載


〇研究者のウェブサイト

 〈齋藤泉助教のページ〉 〈渡邊威教授のページ〉 〈後藤俊幸教授のページ〉

〇引用論文
I. Saito, T. Watanabe and T. Gotoh, "A new timescale for turbulence modulation by particles", Journal of Fluid Mechanics, 880, R6, 2019, DOI: 10.1017/jfm.2019.775

〇研究成果のウェブサイト
 ・Journal of Fluid Mechanics の論文


〇研究内容

●概要
 物理工学専攻・応用物理分野・流体科学研究室の齋藤泉助教(グローバル領域)、渡邊威教授、後藤俊幸教授らの研究グループは、混相流における乱流変調を特徴付ける新たなパラメータを発見し、このパラメータによって乱流変調を予言できることを、理論解析と大規模数値シミュレーションを用いて示しました。この成果は109日に流体力学の権威ある雑誌 Journal of Fluid Mechanics の速報版、 JFM Rapids に掲載され、115日時点で同誌において過去30日間で最も読まれた論文リストの4位にランクインするなど、高い注目を集めています。

 今回の成果は、文部科学省および日本学術振興会の科学研究費補助金(15H0221818K0392518K13611)、革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCIhp180070hp190043)、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点事業(JHPCNjh180009jh190018)、海洋研究開発機構の支援を受けて得られたものです。

●背景
 私達の身の周りの流れはしばしば、多くの微小粒子を含んでいます。火山噴火に伴うダスト粒子の飛散、雲の中の雨粒の成長、自動車のエンジン内における液体燃料の燃焼、農薬の散布などはごく一部の例に過ぎません。このように大量の微小粒子を含む流れは混相流と呼ばれます(図1)。混相流は、環境問題や工学応用を含む様々な場面で重要な役割を果たすために、その振舞を正確に予測できるモデリング・シミュレーション技術の開発が待たれています。

図1:様々な混相流の写真。(wikipediaより引用)
  (左上)火山噴火による鉱物ダストの分散、
   (右上)雲の中の雨粒、(左下)農薬の散布、
(右下)エンジン内の液体燃料の燃焼。

図1.jpg 混相流の難しさの一つは、流れと微小粒子がお互いに影響を及ぼしあう点にあります。まず、微小粒子は流れに輸送されることでその分布を変化させます。流れは多くの場合激しく乱れている(乱流と呼ばれます)ため、粒子の分布はとても複雑になります(図2)。またもう一方では、微小粒子の方も周囲の流れを変化させます。例えば、摩擦抵抗によって粒子が周囲の流れを引きずることで、流れの速度を変化させます。また、雨粒が凝縮・蒸発すれば周囲の湿度を変化させます。このような流れと微小粒子の複雑な相互作用が、混相流の理解を難しくしています。

図2:乱流によって微小粒子の分布が変化している様子。
             強い渦が存在すると、粒子は遠心力によって渦の中心からはじき出される。
これにより微小粒子の分布に濃淡が生じる。

図2.jpg〇研究成果

 今回の研究成果のポイントは、摩擦抵抗を通じて乱流が微小粒子から受ける影響を評価する新たなパラメータを発見したことにあります。粒子が流れの中にどれだけ多く存在するか、また粒子がどれだけ大きいか等によって、流れがどの程度影響を受けるのかが予言できれば、相互作用の解明のための大きな前進になります。

 今回発見されたパラメータは「ダムケラ数」というものです。ダムケラ数とはもともと化学の分野において、化学反応の起こり方の特徴を表すために用いられているパラメータです。微小粒子と流れの相互作用にもよく似た特徴が見出されたために、この名前が付けられました。この発見には、私達のグループでこれまで進めてきた雲内の雨粒の成長の研究が重要なヒントになりました。
 (図3)は、微小粒子群が流れに及ぼす摩擦抵抗の影響によって乱流の強度がどの程度変化するかを、数値シミュレーションによって確かめたものです。横軸が今回の研究で導入したダムケラ数ですが、全ての計算結果が一つの曲線の上に集まっていることが分かります。これは、乱流強度の変化をダムケラ数の関数として予言できること、すなわちダムケラ数が重要なパラメータであることを示しています。

図3: 本研究のシミュレーション結果の一例。(論文より抜粋)
    乱流変調(粒子群の影響による乱流強度の変化、縦軸)が、
 ダムケラ数(横軸)で予言できることを示した一例。
       他のパラメータによらず、全ての結果が一つの曲線の上に集まる。

図3.jpg

〇今後の展開
 微小粒子群による乱流変調の問題は、混相流研究における長年の未解決問題の一つです。今回の成果ではダムケラ数の発見によって乱流変調の予測可能性を示しましたが、解明すべき課題は多く残されています。例えば、本研究では粒子を全て球形として考えていますが、実際の流れでは非球形の粒子の例が多く存在します。鉱物ダストや雪の結晶はその典型例です。このような非球形の微小粒子群の影響については、更なる調査が必要とされています。


この情報は研究支援課が提供しています。

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