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非天然アミノ酸の創出を志向した二金属不斉触媒の開発 ~高度に官能基化されたα,β-ジアミノ酸の合成に成功~

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カテゴリ:プレスリリース|2025年12月12日掲載


発表のポイント  

○    人工力誘起反応(AFIR)法により、ヘテロアレーンアミド基を組み込んだ新規不斉配位子は、銀の二金属触媒として機能し、基質を強力に活性化できることを実証
○    密度汎関数理論(DFT)計算により、反応機構と立体選択性の発現要因を解明
○    従来困難であった未知の非天然アミノ酸を、幅広く合成できる触媒として期待

概要

名古屋工業大学の飯塚夕夏氏(工学専攻 博士後期課程2年)、岡島さゆり氏(工学専攻生命・物質化学プログラム 博士前期課程1年)および中村修一教授(生命・応用化学類)の研究グループは、北海道大学の前田理教授(理学研究院・WPI-ICReDD)、大阪大学の鈴木健之准教授(産業科学研究所)らの研究グループと共同で、ヘテロアレーンアミド基を組み込んだ新規不斉配位子を設計・開発しました。この配位子を銀錯体触媒として用いることで、従来合成が困難であった「高度に官能基化された非天然α,β-ジアミノ酸」の高立体選択的な合成に成功しました。さらに、人工力誘起反応(AFIR)法(*1)による理論計算を実施し、設計した不斉触媒が銀の二金属触媒として機能し、基質を強力に活性化できることを見出しました。この解析により、詳細な反応機構の解明にも至りました。

創薬分野では、天然アミノ酸だけでは得られないユニークな機能創出を目指し、非天然アミノ酸を組み込んだ中分子ペプチドの次世代型医薬開発に向けた、未知の非天然アミノ酸の合成研究が精力的に行われています。今回の研究では、設計した二金属不斉触媒を用いて初の鎖状ケチミノエステルへのシッフ塩基求核剤の不斉付加反応の開発に取り組み、四置換不斉炭素(*2)を有する非天然α,β-ジアミノ酸の高立体選択的な構築を達成しました。

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図1 本研究の概要:二金属不斉触媒の設計と四置換不斉炭素を有するα,β-ジアミノ酸の構築

 

この新規不斉触媒の創出により未知の非天然アミノ酸のライブラリー拡充が加速されることで、有機合成化学のみならず創薬化学への寄与が期待されます。本研究成果は、米国化学会の国際学術誌Journal of the American Chemical Societyのオンライン速報版に、2025年12月11日付で掲載されました。

▶詳細(プレスリリース本文)はこちら

論文情報

掲載誌: Journal of the American Chemical Society
タイトル: Design of Phosphine-Heteroarenesulfonamide Ligands as Dinuclear Silver Catalysts for Enantioselective Construction of α,β-Diamino Acids
著者名: Yuka Iizuka, Sayuri Okajima, Yamato Ueno, Tsunayoshi Takehara, Takeyuki Suzuki, Satoshi Maeda, Shuichi Nakamura*(*責任著者)
DOI: 10.1021/jacs.5c18426
URL: https://doi.org/10.1021/jacs.5c18426

謝辞

本研究は北海道大学 化学反応創成研究拠点(ICReDD)の前田理教授とのMANABIYAアカデミックプログラムの一環として遂行されたものです。また、第一三共「はばたく次世代」応援寄付プログラム、笹川科学研究助成、公益財団法人立松財団(研究代表者:飯塚夕夏)の助成を受けて実施されました。ここに記して謝意を表します。

用語解説

(*1)反応経路自動探索(GRRM/AFIR)プログラム
1つの分子情報から化学反応を網羅的に自動探索することを可能にする計算化学プログラム


(*2)四置換不斉炭素
1つの炭素原子に水素以外の異なる原子団や置換基を有する構造

お問い合わせ先

(研究に関すること)
名古屋工業大学 生命・応用化学類
教授 中村 修一
TEL:052-735-5245
E-mail:snakamur[at]nitech.ac.jp

(広報に関すること)
名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647
Email:pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。