PFASフリーの新時代へ: 骨格編集で実現するSF5複素環の革新的合成法
News&Topics
カテゴリ:プレスリリース|2026年3月27日掲載
発表のポイント
○ PFAS(*1)に該当しないフッ素官能基「SF₅基」を有する新規分子群の合成手法を開発
○ 骨格編集反応を活用し、単一の原料から複数の異なる複素環骨格(七員環・二環式・ベンゾイミダゾール)を自在に構築
○ SF₅基の強い電子求引性により、分子骨格編集反応(*2)が大幅に加速されることを実証
○ PFAS問題の解決に貢献する、持続可能なフッ素化学の基盤技術を確立
概要
ペンタフルオロスルファニル(SF₅)基は、「ポストPFAS時代」を切り拓く次世代フッ素官能基として注目されています。従来広く用いられてきたトリフルオロメチル(CF₃)基とは異なり、SF₅基はOECD(*3)の定義においてPFASに該当せず、環境負荷の低減が求められる冷媒、機能性材料、農薬分野における革新的分子設計の鍵となることが期待されています。しかし、その合成手法は限られており、特に多様な分子骨格への展開は大きな課題となっていました。
このたび、名古屋工業大学のMuhamad Zulfaqar Bacho氏(共同ナノメディシン科学専攻3年)、Wu Shiwei氏(工学専攻生命・物質化学プログラム2年)、村松拓哉氏(生命・応用化学科・研究生)、Chavakula Nagababu博士(研究当時:生命・応用化学類・研究員)、原野大輝氏(生命・応用化学科4年)、落合世舟氏(工学専攻生命・物質化学プログラム2年)、および柴田哲男教授(生命・応用化学類)らの研究グループは、入手容易な4-SF₅-ニトロベンゼンを出発原料とし、革新的な骨格編集(skeletal editing)戦略を駆使することで、単一の原料から三種の全く異なる複素環骨格(アゼピン、アザビシクロ[3.2.0]ヘプタ-2,6-ジエン、ベンゾイミダゾール)を自在に構築することに成功しました。
本研究は、SF₅基の導入が単なる置換基効果にとどまらず、分子骨格編集反応そのものの速度や経路を大きく制御できることを示した点で画期的です。さらに、PFASに該当しないフッ素官能基を基盤とする分子設計の新たな指針を提示し、医薬品、農薬、機能性材料の開発における設計自由度を飛躍的に拡張する成果です。
本研究成果は、英国王立化学会(Royal Society of Chemistry, RSC)が発行する国際誌 Chemical Science において、2026年3月20日にオンライン公開されました。

▶詳細(プレスリリース本文)はこちら
謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「分解・劣化・安定化の精密材料科学」(研究総括:高原淳(九州大学 ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 特任教授))における研究課題「フッ素循環社会を実現するフッ素材料の精密分解」(研究代表者:柴田哲男)(課題番号JPMJCR21L1)、元島栖二博士(CMC総合研究所)および小池健仁氏(東ソー株式会社)の支援を受けて実施しました。
論文情報
論文名:Bidirectional skeletal remodelling of SF5-nitrobenzenes into azepine, bicyclic, and benzimidazole frameworks
著者名:Muhamad Zulfaqar Bacho, Shiwei Wu, Takuya Muramatsu, Chavakula Nagababu, Daiki Harano, Seishu Ochiai, Norio Shibata*
*責任著者
掲載誌:Chemical Science
公表日:2026年3月20日
DOI:10.1039/D6SC01441K
URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlepdf/2026/SC/D6SC01441K?page=search
用語解説
(*1)PFAS
有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称。
化合物中の炭素原子が形成できる結合すべてがフッ素と結合している部分構造を持つ化合物がその対象となる。撥水・撥油剤、界面活性剤など様々な用途で利用されている。しかし、高い安定性のために環境中でほとんど分解されないことから、「永遠の化学物質」とも呼ばれ、環境への蓄積や残留性が問題となっている。ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)は、発がん性などの健康被害の可能性が報告され、特定PFASとして規制対象となっている。
(*2)骨格編集反応(skeletal editing)
有機分子の骨組みそのものを切断・組み替えすることで、まったく新しい分子構造へと変換する有機合成手法。置換反応のように部品を付け替えるのではなく、分子の基本構造そのものを再設計できる点が特徴であり、革新的な技術として注目されている。
(*3)OECD
経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)の略。先進国を中心に構成される国際機関で、経済政策や環境規制、化学物質管理などに関する国際基準の策定を行っている。PFASに関しても、どのような構造の物質をPFASとして規制対象とするかの国際的な定義を公表している。
お問い合わせ先
(研究に関すること)
名古屋工業大学 生命・応用化学類
教授 柴田 哲男
TEL: 052-735-7543 メール:nozshiba[at]nitech.ac.jp
(広報に関すること)
名古屋工業大学企画広報課
TEL: 052-735-5647 メール:pr[at]adm.nitech.ac.jp
*それぞれ[at]を@に置換してください。
次世代半導体エレクトロニクス共創研究センターを新設 ~2センターを統合し、研究から社会実装・人材育成までを一体的に推進~
