Close

光で「開く」イオンチャネルが「閉じる」仕組みを解明 ~「開く」状態で強まる水素結合も捉え、開閉機構の理解へ~

News&Topics

カテゴリ:プレスリリース|2026年6月 1日掲載


北海道大学/名古屋工業大学

発表のポイント  

●    光で開くアニオンチャネルロドプシンが「閉じる」ときに起こる分子内化学反応を解明。
●    連動したプロトン移動により、陰イオンが通りにくい電気的状態が生じることを発見。
●    「開く」状態で水素結合ネットワークが強まることを捉え、開閉機構の全容解明に期待。

概要

北海道大学大学院先端生命科学研究院の塚本卓助教、名古屋工業大学生命・応用化学類の古谷祐詞准教授らの研究グループは、光で開くイオンチャネルがどのような分子内化学反応によって「閉じる」のかを明らかにしました。チャネルロドプシンは、光を受けるとイオンの通り道を開き、細胞膜を横切ってイオンを輸送する膜タンパク質です。神経活動を光で操作するオプトジェネティクスにも用いられていますが、イオンの通り道がどのような分子内化学反応によって開き、また閉じるのかには、未解明な点が多く残されていました。研究グループは、塩化物イオンなどの陰イオンを通すアニオンチャネルロドプシンであるGuillardia theta anion channelrhodopsin 1(GtACR1)を対象に、時間分解吸収分光測定*1、ITO(酸化インジウムスズ)電極を用いた電気化学的測定*2、低温フーリエ変換赤外分光測定*3、変異体解析を組み合わせました。その結果、ゲート閉鎖に対応するM中間体の形成時に、イオン透過経路に沿って複数のプロトン移動反応*4が連動して起こり、陰イオンが通りにくい電気的状態が生じることが分かりました。さらに、ゲート開放に関わるL中間体では、イオン透過経路周辺の水素結合ネットワーク*5が強まることを示しました。ゲート開放は、陰イオンが実際に流れるために不可欠な過程であり、GtACR1のイオン輸送機能そのものに直結します。今回の成果は、ゲート開放とゲート閉鎖が共通の分子ネットワークを介して連動している可能性を示すものです。本成果は、光駆動型イオンチャネルの作動原理を、タンパク質内部で連動するプロトン移動反応と水素結合ネットワークの変化に基づいて説明するものです。微生物ロドプシンの分子機構の理解を深めるとともに、機能改変やオプトジェネティクスツール設計につながる基盤的知見となることが期待されます。

なお、本研究成果は、2026年5月12日(火)公開の Journal of Molecular Biology 誌にオンライン掲載されました。

260601press_furutani.png

GtACR1のゲート開放・閉鎖モデル図。光を受けたGtACR1では、ゲート開放に関わるL中間体で水素結合ネットワークが強まる。続くM中間体では、複数のプロトン移動反応が連動して起こり、イオン透過経路に陰イオンが通りにくい電気的状態が生じる。この変化が、ゲート閉鎖につながると考えられる。


▶詳細(プレスリリース本文)はこちら

謝辞

本研究は、JSPS科研費JP18KK0194、JP22K06120、JP23K23843、JP23K05675、JP21H04969、秋山記念生命科学振興財団、文部科学省共同利用・共同研究システム形成事業「大学連携研究設備ネットワークによる研究基盤強化プログラム(CURE)」JPMXP1323015482、科学技術振興機構(JST)CREST JPMJCR25B5の助成を受けたものです。

論文情報

論文名:Proton-Coupled Gate Closing Mechanism in Guillardia theta Anion Channelrhodopsin 1(Guillardia theta由来アニオンチャネルロドプシン1におけるプロトン共役型ゲート閉鎖機構)
著者名須藤美羽1,†、猪子咲陽2,†、伊藤侑真3,†、渡邊拓真2,†、出縄ありさ1、大木優也1、小川景子2、出村 誠1,2,4、神取秀樹3,5、菊川峰志1,2,4、古谷祐詞3,5,*、塚本 卓1,2,4,*1北海道大学大学院生命科学院ソフトマター専攻、2北海道大学理学部生物科学科高分子機能学専修、3名古屋工業大学大学院工学研究科、4北海道大学大学院先端生命科学研究院、5名古屋工業大学オプトバイオテクノロジー研究センター、共同筆頭著者、*責任著者)
雑誌名Journal of Molecular Biology(分子生物学の専門誌)
DOI10.1016/j.jmb.2026.169856
公表日2026年5月12日(火)(オンライン公開)

用語解説

*1 時間分解吸収分光測定 ... 光を当てた後のタンパク質の吸収スペクトルの変化を、時間分解的に測定する方法。本研究では、GtACR1が光を受けた後に形成する反応中間体の時間変化を調べた。

*2 ITO(酸化インジウムスズ)電極を用いた電気化学的測定 ... ITOは酸化インジウムスズのことで、透明で電気を通す性質を持つ。ITO電極を用いることで、タンパク質外部へのプロトン放出や外部からのプロトン取り込みを検出できる。

*3 低温フーリエ変換赤外分光測定 ... 低温条件でタンパク質の反応中間状態を捕捉し、赤外吸収スペクトルから分子の化学的状態を調べる方法。本研究では、L中間体やM中間体における水素結合状態やアミノ酸残基のプロトン化状態を解析するために用いた。

*4 プロトン移動反応 ... 水素イオン、すなわちプロトンが、タンパク質内部のアミノ酸残基や水分子の間で受け渡される反応。ロドプシンの機能発現に重要な役割を果たす化学反応の一つ。

*5 水素結合ネットワーク ... タンパク質内部で、アミノ酸残基や水分子が水素結合によって連結した構造。ロドプシンでは、光を受けた後の構造変化やプロトン移動反応と密接に関わり、機能発現に重要な役割を果たす。

お問い合わせ先

北海道大学大学院先端生命科学研究院 助教 塚本 卓(つかもとたかし)
TEL 011-706-4475  メール t-tak[at]sci.hokudai.ac.jp
URL https://altair.sci.hokudai.ac.jp/infana/

名古屋工業大学生命・応用化学類 准教授 古谷祐詞(ふるたにゆうじ)
TEL 052-735-5127  FAX 052-735-5127  メール furutani.yuji[at]nitech.ac.jp
URL https://biophys-molsci.web.nitech.ac.jp/index.html

<配信元>
北海道大学社会共創部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
TEL 011-706-2610  FAX 011-706-2092   メール jp-press[at]general.hokudai.ac.jp

名古屋工業大学企画広報課(〒466-8555 名古屋市昭和区御器所町)
TEL 052-735-5647  メール pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。