可視光と触媒で実現する環境にやさしいホウ素化戦略 ~ 常温・常圧下でシアノ基をアミンホウ素基へ変換 ~
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カテゴリ:プレスリリース|2026年7月29日掲載
ポイント
● 光触媒サイクルを精密に設計することで、従来困難であったジシアノアレーンの強固な炭素-シアノ(C-CN)結合のホウ素化を実現
● 可視光をエネルギー源とする常温・常圧下での光触媒的ラジカルホウ素化戦略の適用範囲を拡大
● 合成したアミンホウ素錯体を用いた鈴木・宮浦クロスカップリング反応(*1)に成功し、新たなファインケミカル創出に貢献する基盤技術として期待
概要
名古屋工業大学生命・応用化学類の安川直樹助教を中心とした国際共同研究グループは、これまで有効な手法が確立されていなかったジシアノアレーン類の炭素-シアノ(C-CN)結合のホウ素化反応を開発するとともに、得られたホウ素化合物を鈴木・宮浦クロスカップリング反応へ適用する一連の有機合成戦略を提案しました(図1)。
有機ホウ素化合物は、鈴木・宮浦クロスカップリング反応をはじめとする多彩な分子変換を可能にする重要な合成中間体であり、基礎学術研究から医薬品や機能性材料などの製造まで幅広い有機合成を支える基盤化合物です。これまで、これらの有機ホウ素化合物の合成には、取り扱いが難しい有機金属試薬を利用する二電子反応や、熱エネルギーを駆動力とする遷移金属触媒反応が主流であり、より温和で環境負荷の低い合成法の開発が求められていました。加えて、入手容易な基質から有機ホウ素化合物を効率的に合成できる新たなホウ素化反応の開発は、有機合成の可能性を広げる重要な課題となっています。
本研究では、光触媒サイクルを精密に設計し、アミンホウ素ラジカル(*2)とジシアノアレーン由来のラジカルアニオン中間体(*3)を同時に発生させることで、ラジカル-ラジカルカップリング機構(*4)に基づく新しい脱シアノ型ホウ素化反応を実現しました。本反応は可視光を利用した常温・常圧下の光触媒反応で進行するため、従来法に比べて省エネルギーかつ環境調和型の新しいホウ素化反応として位置づけられます。さらに、合成したシアノアリールホウ素化合物を鈴木・宮浦クロスカップリング反応へ適用することにも成功し、ファインケミカルや機能性分子の持続可能な合成に貢献する新たな有機合成基盤技術となることが期待されます。
本研究は、名古屋工業大学生命・応用化学類の安川直樹助教、工学専攻生命・物質化学プログラムの野村綾汰氏(博士前期課程1年)、岡田和佳氏(博士前期課程2年)、高田主岳教授、中村修一教授、大阪大学産業科学研究所の嵩原綱吉氏、鈴木健之准教授、アーヘン工科大学のDaniele Leonori教授との国際共同研究として実施されました。
本研究成果は、米国化学会の国際学術誌Organic Lettersのオンライン速報版に、2026年7月27日付で掲載されました。

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用語説明
(*1)鈴木・宮浦クロスカップリング
パラジウム触媒を用いて、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化合物から炭素―炭素結合を形成する反応である。医薬品や機能性材料などの合成に広く利用される有機合成化学の代表的な分子変換反応であり、その開発は2010年のノーベル化学賞の対象となった。
(*2)アミンホウ素ラジカル
ラジカルとは、不対電子を1個だけ持つ原子または分子のこと。反応性が高いことから、通常の反応では実現が難しい分子変換を可能にする一方、その高い反応性を制御することが課題とされている。
本研究で用いたアミンホウ素ラジカルは、アミン分子(窒素を含む有機化合物)の孤立電子対がホウ素原子の2p空軌道と配位したアミンホウ素錯体が、電子を1つ失ったことで生じるホウ素ラジカルの1種である。
(*3)ラジカルアニオン
負の電荷を帯びたラジカルのこと。電子を1個受け取る(一電子還元される)ことで生成し、ラジカルとイオンの両方の性質を併せ持つ反応性の高い化学種である。
(*4)ラジカル-ラジカルカップリング
2つのラジカル同士が結合して新しい化学結合を形成する反応である。
謝辞
本研究は、JSPS科研費(JP24K17678、JP26K17848)、日揮・実吉奨学会、中部電気利用基礎研究振興財団、徳山科学技術振興財団、天野工業技術研究所(研究代表者:安川直樹)の助成を受けて実施されました。ここに記して謝意を表します。
論文情報
掲載誌:Organic Letters
タイトル:Photocatalytic Decyanative Borylation of Dicyanoarenes Enabled by Radical-Radical Coupling
著者名:Naoki Yasukawa,* Ryota Nomura, Waka Okada, Kazutake Takada, Tsunayoshi Takehara, Takeyuki Suzuki, Daniele Leonori,* Shuichi Nakamura*(*責任著者)
DOI:10.1021/acs.orglett.6c02736
お問い合わせ先
(研究に関すること)
名古屋工業大学 生命・応用化学類 助教 安川 直樹
TEL:052-735-5323 E-mail:yasukawa.naoki[at]nitech.ac.jp
名古屋工業大学 生命・応用化学類 教授 中村 修一
TEL:052-735-5245 E-mail:snakamur[at]nitech.ac.jp
(広報に関すること)
名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647 Email:pr[at]adm.nitech.ac.jp
*それぞれ[at]を@に置換してください。
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