短距離秩序を利用した新しい材料設計原理を解明 ― 放射光と第一原理計算で熱電材料の設計指針を提示 ―
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カテゴリ:プレスリリース|2026年8月26日掲載
名古屋工業大学/産業技術総合研究所
ポイント
● ハーフホイスラー熱電材料(*1)の高性能化メカニズムを、構造と電子状態の両面から解明
● 短距離秩序(SRO)(*2)が準安定固溶体の安定性を高める機構を解明
● 短距離秩序を積極的に利用する新たな材料設計原理を提案し、熱電材料に加え、半導体、磁性材料、触媒など、幅広い機能性材料への展開に期待
概要
名古屋工業大学物理工学類の宮崎秀俊准教授、産業技術総合研究所の三上祐史主任研究員らの研究グループは、大型放射光施設SPring-8を利用した放射光X線回折(SR-XRD)(*3)および硬X線光電子分光(HAXPES)(*4)と、第一原理計算(DFT)(*5)を組み合わせることにより、ハーフホイスラー(Ti,Hf)NiSn熱電材料の高性能化メカニズムを、構造と電子状態の両面から解明しました。
これまで、準安定固溶体の形成は、主に急速焼結によって相分離が抑制される非平衡プロセスとして説明されてきました。本研究では、原子が完全にランダムに配列しているのではなく、短距離秩序と呼ばれる局所的な規則配列が自発的に形成されることで、ランダムな原子配列に比べてエネルギーが低下し、準安定固溶体の安定性が高まることを明らかにしました。
さらに、チタン(Ti)とハフニウム(Hf)の混在に伴う局所的な格子歪が熱伝導を抑える一方、Hf置換によるNi格子間欠陥の減少と電子状態の変化が発電特性を向上させることを示しました。これらの構造と電子状態の効果が協調的に働くことで、高い熱電変換性能が発現することが分かりました。
本研究成果は、元素の種類や組成だけでなく、原子の局所的な並び方である短距離秩序を利用した新たな材料設計指針を提示するものであり、熱電材料に加え、半導体や磁性材料、触媒など、幅広い機能性材料の設計・開発への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年7月28日に、材料科学分野を代表する国際学術誌「Acta Materialia」にオンライン掲載されました。
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用語解説
(*1)ハーフホイスラー熱電材料
ハーフホイスラー構造と呼ばれる結晶構造を持つ熱電材料の一種。熱を電気に変換する性能が高く、耐熱性や機械的強度に優れることから、工場や自動車などから排出される未利用熱を電力として回収する廃熱発電への応用が期待されている。
(*2)短距離秩序(SRO)
固溶体では原子は一般にランダムに配列していると考えられているが、実際には数個の原子程度の範囲では、特定の元素同士が近づきやすい、あるいは離れやすいという局所的な規則性が存在する。このような局所的な原子配列を短距離秩序(SRO)と呼ぶ。短距離秩序は材料の安定性や電子状態、熱の伝わり方に大きな影響を与えることが近年注目されている。
(*3)放射光X線回折(SR-XRD)
放射光施設で発生させた非常に高輝度なX線を用いて、結晶構造を高精度に解析する手法。通常の実験室X線では検出が難しいわずかな格子歪や結晶構造の変化を高精度に測定することができる。
(*4)硬X線光電子分光(HAXPES)
高エネルギーの硬X線を照射して放出される電子を測定することで、材料内部の電子状態や化学結合状態を調べる分析手法。通常の光電子分光よりも数十ナノメートル程度深い領域まで分析できるため、材料内部の電子構造を高精度に評価できる。
(*5)第一原理計算(DFT)
量子力学に基づき、経験的なパラメータを用いずに原子や電子の振る舞いを計算するシミュレーション手法。材料の安定性や電子状態、原子配列などを理論的に予測することができ、新材料設計に広く利用されている。
論文情報
論文名:Structural and Electronic Origins of Enhanced Thermoelectric Performance in Metastable p-type TiNiSn-HfNiSn Solid Solutions
著者名:Takumi Seido, Hidetoshi Miyazaki, Ryusei Inden, Yoichi Nishino, Masashi Mikami
掲載雑誌名:Acta Materialia
公表日:2026年7月28日
DOI:https://doi.org/10.1016/j.actamat.2026.122605
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1359645426007056
研究支援
本研究は、以下の研究施設・研究費および助成を受けて実施されました。
●大型放射光施設SPring-8における放射光X線回折実験
BL02B2およびBL19B2
(課題番号:2022A1544、2023B1901、2024A1577、2024A1578、2024B1672)
●大型放射光施設SPring-8における硬X線光電子分光実験
BL09XU
(課題番号:2019B1644、2022A1546、2022B1665、2023A1928、2023B1904、2024A1578)
●日本学術振興会 科学研究費助成事業
基盤研究(C)(課題番号:JP23K04358)
基盤研究(B)(課題番号:JP24K01146)
●自然科学研究機構 分子科学研究所 計算科学研究センター
(課題番号:25-IMS-C338、26-IMS-C072)
●公益財団法人 内藤記念科学振興財団
●公益財団法人 日本板硝子材料工学助成会
●公益財団法人 永井科学技術財団
●公益社団法人 日本金属学会
●国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業「革新的高性能熱電発電デバイスと高度評価技術の国際共同研究開発」(事業番号:JPNP20005)
お問い合わせ先
<研究に関すること>
名古屋工業大学 物理工学類
准教授 宮崎 秀俊
TEL:052-735-5394 E-mail:miyazaki[at]nitech.ac.jp
産業技術総合研究所 マルチマテリアル研究部門
主任研究員 三上 祐史
TEL:050-3522-7714 E-mail:m-mikami[at]aist.go.jp
<広報に関すること>
名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647 E-mail:pr[at]adm.nitech.ac.jp
産業技術総合研究所 ブランディング・広報部 報道室
E-mail:hodo-ml[at]aist.go.jp
*それぞれ[at]を@に置換してください。
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