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ヨウ素―デンプン反応をヒントに、カーボンナノチューブを高機能化!(放射能汚染水の浄化、新型蓄電池、タッチパネルへの応用に期待)

カテゴリ:プレスリリース|2016年09月15日掲載


 大学院生命・応用化学専攻の川崎晋司教授、石井陽祐助教らの研究グループは、カーボンナノチューブの内部に閉じ込められたヨウ素分子が低温で奇妙な構造変化をすることを発見しました。この構造変化によってカーボンナノチューブの電子状態が大きく変化し、電気伝導性や分散性が大幅に向上することが明らかになりました。この研究で得られた知見は放射性ヨウ素回収装置への応用や、タッチパネルに使用される透明導電膜の高性能化が期待できます。
 この現象に関しては、米国化学会のThe Journal of Physical Chemistry C誌2016年9月15日号に掲載されました。
 Web版:http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.jpcc.6b07819

 さらに、川崎教授・石井助教らは、カーボンナノチューブ内に取り込まれたヨウ素分子の化学反応を利用した新型蓄電池についても考案しました。この蓄電池を利用することで、従来の電気二重層キャパシタよりも2~4倍大きな電力を蓄えることが可能になります。
 この蓄電池については、米国American Scientific Publisher社のJournal of Nanoscience and Nanotechnology 誌の2017年3月号に掲載予定です。

研究の詳細

カーボンナノチューブ内へのヨウ素導入: 身近な「ヨウ素‐デンプン反応」にヒントを得て着想lodine starch reaction.png

 小学校の理科の実験で最も印象的な実験の一つである「ヨウ素‐デンプン反応」は、デンプン(白色)に淡黄色のヨウ素液(ヨウ素‐ヨウ化カリウム水溶液)を加えたときに、デンプンが青紫色に染まる現象です。そこで、デンプンと似たストロー状構造を持つカーボンナノチューブにヨウ素液を加えたところ、ヨウ素液の淡黄色が消えて無色透明になることがわかりました。これは、カーボンナノチューブがヨウ素分子を取り込み、貯蔵する能力があることを示しています。

カーボンナノチューブ内に速く、効率的にヨウ素を取り込むための新手法を開発:放射性汚染水の処理・新型蓄電池への応用に期待

 ヨウ素液の取り込みから飽和組成まで、通常は一晩以上の反応時間が必要です。川崎・石井ら研究グループはカーボンナノチューブをヨウ素イオン水に浸し1 V程度の電圧を加える電解挿入法で、その反応時間を1分以下と劇的に短縮することに成功しました。

 先の福島原発事故では放出された放射性元素の中で健康被害の恐れがある元素としては、ヨウ素が最大の放出量となっています。今回開発した電解挿入法は、放射性汚染水からヨウ素を迅速に回収するための新技術としての活躍が期待されます。

 さらに電解挿入法では、電圧極性を逆転させることによってナノチューブに取り込まれたヨウ素分子を外部に放出させることも可能です。この性質を利用した新しい仕組みの蓄電デバイスを考案しました。本研究で開発した「電解液レドックスキャパシタ」はヨウ素がナノチューブに出入りする反応を利用することで高容量化を実現し、現在普及している電気二重層キャパシタより2~4倍大きなエネルギー密度を達成しました。

カーボンナノチューブ内に取り込まれたヨウ素分子の特異な分子動態: 透明導電膜の性能向上に利用可能

 カーボンナノチューブを透明なプラスチック板の上に撒くと、タッチパネルなどで利用される透明導電膜をつくることができます。ヨウ素分子を内包したカーボンナノチューブでは、カーボンナノチューブとヨウ素分子の間で電子の受け渡し(電子移動反応)が起こり、電気伝導度は50倍以上向上します。また、表面が帯電するため、水に対する分散性も向上します。この分散性は低温ほど良くなるのですが、理由はわかりませんでした。

dynamics of molecular iodine.png

今回の発表論文では-70℃~60℃までの様々な温度でのラマン分光法を用いた測定を行い、その理由をつきとめました。低温にしてゆくほど、カーボンナノチューブからチューブ内ヨウ素分子への電子移動が促進され、ヨウ素分子(I2)がポリヨウ化物イオン(I3, I5, I7...)に変化することを明らかにし、さらに、ヨウ素‐カーボンナノチューブ間の電子移動の起こりやすさは温度だけでなく、カーボンナノチューブの直径とチューブ内の炭素原子配列に依存して変化することもつきとめました。この知見は、カーボンナノチューブ透明導電膜のさらなる性能向上へ生かすことができます。

<用語解説>
ラマン分光法: 測定試料に単色のレーザー光(励起光)を照射し、試料から散乱される光(散乱光)を検出する測定法。測定試料の分子振動に関する情報を含んでおり、分子構造の解析に利用できる。

<原著論文情報>

  • Y. Yoshida, Y. Ishii, N. Kato, C. Li, and S. Kawasaki. Low-Temperature Phase Transformation Accompanied with Charge-Transfer Reaction of Polyiodide Ions Encapsulated in Single-Walled Carbon Nanotubes. J. Phys. Chem. C, in press. [DOI: 10.1021/acs.jpcc.6b07819]

  • Y. Taniguchi, Y. Ishii, A. Al-zubaidi, and S. Kawasaki. New Type of Pseudo-Capacitor Using Redox Reaction of Electrolyte in Single-Walled Carbon Nanotubes. J. Nanosci. Nanotechnol. in press. [DOI: 10.1166/jnn.2017.13006]

  • H. Song, Y. Ishii, A. Al-zubaidi, T. Sakai, S. Kawasaki. Temperature-Dependent Water Solubility of Iodine-Doped Single-Walled Carbon Nanotubes Prepared Using an Electrochemical Method. Phys. Chem. Chem. Phys. 15, 5767-5770 (2013).

関連先リンク

川崎・石井研究室ホームページ


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