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分子の世界の「ファシリテーション」をとらえた!―世界最速アルゴリズムでガラス物質の神秘に迫る―

カテゴリ:プレスリリース|2016年10月03日掲載


 近年、人間が構成する組織の活動を活性化し協働的に促進させる「ファシリテーション」という概念がビジネスや教育の場で注目を集めているが、ミクロな分子という要素が高密に集まったガラス形成物質でも「ファシリテーション」が起こるとする理論が世界的に大きな注目を集めている。名古屋工業大学 礒部雅晴 助教は、U. C. Berkeley(米国)(A.S.Keys博士、D.Chandler教授)U. of Nottingham(英国)(J.P.Garrahan教授)との国際共同研究において、従来の(過冷却液体)理論を過圧縮液体へ拡張した新理論を提案し、世界最速アルゴリズムにより、その検証に世界で初めて成功した。本研究成果は2016928日(米国東部時間)付にアメリカ物理学会「Physical Review Letters」誌の電子速報版に掲載されました。 Web: http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.117.145701

 高密分子系のガラス形成物質が織りなす神秘な物性は、研究が絶え間なく創生されているが未だ決定的な概念や理論は存在せず、材料科学や凝縮系・統計物理学の大きな難問として知られている。米国カリフォルニア大学バークレー校のD. Chandler教授と英国ノッティンガム大学のJ.P. Garrahan教授は、長年研究されてきた熱力学を基礎にした理論と全く異なり、「活動している分子」が時空間上で協働促進する「ダイナミクス」のみに着目し、統計力学の基礎法則を用いて、極めて独創的な「動的ファシリテーション理論」を構築した(Chandler&Garrahan,Ann.Rev.Phys.Chem.61,191,2010)。過冷却液体及びガラス転移で起こる現象は本理論で説明でき、世界中でシミュレーションやコロイド系実験での検証が精力的に進んでいる。

 今回の日米英国際共同研究では、(A) 温度の急冷(過冷却液体)に対する従来の理論を圧力の急圧縮(過圧縮液体)に対応する理論に拡張(B) 大小2種類の(2次元剛体)粒子系のサイズ・成分比を変えた高精度の相図の作成並びに部分結晶化を回避するモデルの発見(C) 世界最速ハイブリッドアルゴリズム(cf. Isobe, Mol.Simul. 2016)を使った新理論の検証 の3つの成果が得られた。広範囲のパラメーター空間で高精度長時間計算が必要となり、計算完了まで数年を要した。

 液体からガラス状態への転移は身近な現象であり、物性・地球科学などの学術的な意義のみならず、産業におけるガラス形成ナノ物質の製造、社会現象など様々な応用分野が広がることが期待できる。また、高密分子系の「高速アルゴリズム技術」の確立は材料設計への応用などへの波及効果も大きい。自然の法則に従う分子の「ファシリテーション」から、人間社会の様々な課題への展望も拓けるのかもしれない。

図.png

分子の世界の「ファシリテーション」。過圧縮液体では、活動粒子(赤色)が不均一に分布し、時空間上で協働促進しながら(ひも状に)動く。本理論では、圧力変化に対する「ファシリテーション」から「ガラス形成物質」の神秘な物性が理解できる。

  

本件への問い合わせ

名古屋工業大学 物理工学専攻 礒部雅晴

TEL052-735-5371 isobe[at]nitech.ac.jp


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