銅電極による二酸化炭素の資源化 〜C2化合物の生成における水酸基の重要性を解明〜
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カテゴリ:プレスリリース|2019年7月22日掲載
発表のポイント
〇 銅電極による二酸化炭素の資源化(C2化合物の合成)における反応メカニズムを解析
〇 銅表面に存在する水酸基(OH-)がC2化合物の生成に重要な役割を果たしていることを観測
〇 銅を触媒した二酸化炭素の資源化反応を開発する上で大きな指標の一つとなる成果
概要
名古屋工業大学(猪股智彦准教授、増田秀樹名誉教授)と株式会社デンソー(飯島剛氏、山口仁博士、伊藤みほ博士)の研究グループは、銅電極を用いた二酸化炭素の資源化反応に関して、表面増強赤外分光法(用語1)を利用した二酸化炭素の還元による資源化反応の詳細なメカニズム解析を行いました。銅電極上での二酸化炭素の資源化反応では、還元中間体のカップリング反応によるC2化合物(用語2)の生成が報告されていますが、C2化合物の生成の反応メカニズムに関しては、様々な機構が提唱されています。
同研究グループでは、前処理により様々な酸化状態を有する銅電極を用意し、それらの表面での二酸化炭素の電気化学的還元反応を表面増強赤外分光法により追跡しました。その結果、酸化処理により銅表面に吸着した水酸基(OH-)の効果により、効率よくエチレンやエタノールなどのC2化合物が生成していることが明らかとなりました。
二酸化炭素のC2化合物への変換は、二酸化炭素の資源化の観点から注目されている技術であり、グリーンイノベーションの観点からも重要な知見となります。なお本研究成果は、アメリカ化学会のACS catalysis(電子版)に掲載されました(DOI: 10.1021/acscatal. 9b00896)。
研究の背景
二酸化炭素の資源化は脱化石資源や地球温暖化の観点から、重要な研究開発テーマの一つとなっています。特に銅を電極とした二酸化炭素の還元反応では、エチレンやエタノールなどのC2化合物が生成することは知られていましたが、その生成メカニズムに関しては諸説あり、様々な反応メカニズムが報告されています。二酸化炭素の資源化における効率的な銅電極触媒を開発するためには、様々な酸化状態での銅表面での二酸化炭素還元反応に対して、その反応メカニズムを詳細に検討する必要がありました。
研究の内容・成果
本研究では、表面増強赤外分光法と呼ばれる電極表面での触媒反応を赤外スペクトルで追跡できる測定手段を利用し、様々な酸化状態の銅電極表面において、二酸化炭素の資源化反応における反応中間体を観測しました。図aのように、通常の銅表面では、二酸化炭素が還元されることで炭素原子を1つ含む一酸化炭素(CO)などのC1化合物(用語3)が生成します。一方、図bのように、酸化した銅表面上において、銅電極表面に吸着した水酸基(OH-)が存在することで、銅電極表面で生成した二酸化炭素の還元中間体(CO)が水酸基との相互作用によりカップリング反応を起こし、エチレンやエタノールなどのC2化合物へ変換されていることを確認しました。
図 水酸基(OH-)の有無による銅電極上での二酸化炭素変換反応メカニズムの違い
社会的な意義
二酸化炭素のC2化合物への変換メカニズムを明らかにすることは、二酸化炭素の資源化技術の開発や温室効果ガスの削減技術の開発のための重要な指標となると考えられます。
今後の展開
銅電極表面での二酸化炭素の還元によるC2化合物の生成メカニズムの詳細が明らかとなったことで、効率的な二酸化炭素の資源化反応行うために必要な要因が判明しました。今後はC2生成反応の鍵となる銅電極上の水酸基(OH-)を安定に存在させるための手法の開発が重要となります。
用語解説
用語1:表面増強赤外分光法
表面プラズモン効果により、金属基板上の化学種に関して、その赤外スペクトルの強度を増幅することが可能な測定手法です。非常に高感度で、電気化学測定など他の測定手段と組み合わせることも可能です。
用語2:C2化合物:
2分子の二酸化炭素が反応して生成する炭素原子を2個含む化合物で、エタンやエチレン、エタノールなどが該当します。工業的にも重要な化合物です。
用語3:C1化合物
C2化合物とは異なり、1分子の二酸化炭素の還元反応により生成する炭素原子を1個含む化合物で、メタンやメタノール、一酸化炭素、ギ酸などが該当します。これらも工業的に重要な化合物です。
論文情報
論文名:Role of a Hydroxide Layer on Cu Electrodes in Electrochemical CO2 Reduction
著 者:G. Iijima, T. Inomata, H. Yamaguchi, M. Ito, H. Masuda
掲載雑誌名:ACS Catal., 2019, 9, 6305-6319.
出版日:Publication Date:June 3, 2019
DOI:10.1021/acscatal.9b00896
お問い合わせ先
研究に関すること
名古屋工業大学大学院工学研究科
生命・応用化学専攻
准教授 猪股 智彦
TEL:052-735-5673
e-mail : tino[at]nitech.ac.jp
広報に関すること
名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp
*それぞれ[at]を@に置換してください。
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