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銅電極上で二酸化炭素が有用化合物へ変換される第一歩を解明 ー効率的な有用化合物生成のための触媒設計指針を提供ー

カテゴリ:プレスリリース|2020年12月21日掲載


発表のポイント

〇 銅電極による二酸化炭素のエチレンやエタノールなどの有用化合物への還元反応における硫黄原子(表面に修飾されたメタンチオール中の硫黄原子)の効果を表面増強赤外分光法などで追跡
〇 銅電極上の表面粗さの増大とイオン性のCu+の形成が還元生成物(一酸化炭素)の二量化によるエチレンやエタノールなどの有用化合物の生成を促進
〇 地球規模の喫緊の課題である二酸化炭素の削減・資源化を解決する手段として注目されている、二酸化炭素をC2化合物へ変換するための銅電極触媒設計における重要な指針を提供

概要

 名古屋工業大学(猪股智彦准教授、増田秀樹名誉教授)と株式会社デンソー(飯島剛氏、山口仁博士、世登裕明博士、伊藤みほ博士)の研究グループは、ヘテロ原子(用語1)である硫黄原子存在下での銅電極を用いた二酸化炭素の資源化反応に関して、表面増強赤外分光法(用語2)をはじめとした表面分析手法を駆使して、二酸化炭素還元反応におけるヘテロ原子の役割について詳細な解析を行いました。銅電極上での二酸化炭素の還元によりエチレンやエタノールなどのC2化合物(用語3)の生成が促進されることは以前から知られていましたが、その詳細なメカニズムに関してはよくわかっていなかったのが現状でした。
 同研究グループは、表面増強赤外分光法を用いた銅電極表面のその場観察により、銅電極表面に修飾されたメタンチオール分子が銅表面の粗さの増大とイオン性のCu+の形成に大きく関わっていることを突き止めました(1)。銅表面の粗さの増大とCu+の形成により銅表面で二酸化炭素の還元生成物同士が結合しやすくなり、C2化合物の生成が促進されることが判明しました。
 銅電極を利用した二酸化炭素のC2化合物への変換は、二酸化炭素の削減・資源化という地球規模の喫緊の課題を解決する手段の一つとして、近年特に注目を集めている研究領域です。本研究で得られた知見は、二酸化炭素を効率的にC2化合物へ変換するための電極触媒設計における重要な指針の一つとなるものと考えられます。なお本研究成果は、アメリカ化学会のACS Catalysis(インパクトファクター:12.35)に掲載されました(DOI: 10.1021/acscatal.0c04106)。

図1-1.jpg

図1.表面増強赤外分光法(ATR-SEIRAS)よるメタンチオール分子(CH3SH)の脱離による銅電極上の粗さの増大とCu+の形成。両者の働きにより銅電極上でC2化合物の生成が促進される。

研究の背景

 二酸化炭素の資源化は脱化石資源や地球温暖化の観点から、重要な研究開発テーマの一つとなっています。特に銅を電極とした二酸化炭素の還元反応では、エチレンやエタノールなどのC2化合物が生成することが知られています。同研究グループは表面増強赤外分光法を用いて銅電極による二酸化炭素還元反応メカニズムについて明らかにしてきました(例えばACS Catal., 2019, 9, 6305-6319.など)。銅電極による二酸化炭素の還元反応では電極上へのドープや分子修飾によるヘテロ原子の存在も重要であることが指摘されていましたが、ヘテロ原子がどのような役割を果たしているかについてはよくわかっておらず、銅電極を利用した戦略的なヘテロ原子の利用による二酸化炭素還元触媒電極を開発するためには、ヘテロ原子の役割を詳細に調べる必要がありました。

研究の内容・成果

 本研究では、メタンチオール分子が修飾された銅電極表面で電気化学測定などと組み合わせた一連の表面分析測定(表面増強赤外分光測定、電子顕微鏡測定、微小角入射X線回折測定、X線光電子分光測定)を行うことで、還元反応における電極上の二酸化炭素およびメタンチオールの挙動を詳細に観測しました。何も修飾されていない銅電極による二酸化炭素還元反応との比較やDFT計算による解析から、負電位でのメタンチオールの電極表面からの脱離が電極表面の粗さを増大させること、また銅電極表面でのCu+の形成を促進することがわかりました(2)。両者の影響により、銅電極上で生成した二酸化炭素の還元生成物の一つである一酸化炭素(CO)が電極上で2量化し、エチレンやエタノールなどのC2化合物へ変換されやすくなることを明らかにしました。

図2-1.jpg

図2.負電位での電解反応後のメタンチオール分子が修飾された銅電極表面の (a) SEM画像、および (b) 表面増強赤外分光法(ATR-SEIRAS)よるスペクトルの時間変化。負電位にすることでメタンチオール分子の脱離による銅電極表面の粗さの増大とCu+の生成(Cu+上に結合したCO伸縮振動(2100 cm-1付近)の観測により確認)が促進される。

社会的な意義

 二酸化炭素の削減および資源化は全世界共通の喫緊の課題です。日本においてもパリ協定などにより2030年までに大幅な削減が求められており、先日、日本政府も2050年までに二酸化炭素排出の実質ゼロを目指すとの政策目標を発表しています。資源小国である日本では二酸化炭素の削減のみならず、二酸化炭素を有用化合物に変換する技術が強く求められています。

今後の展望

 ヘテロ原子存在下における銅電極表面での二酸化炭素還元反応によるC2化合物の生成メカニズムの詳細が明らかとなったことで、戦略的に高効率的な二酸化炭素の資源化反応が可能な触媒電極の開発指針が示されました。これは銅電極による二酸化炭素削減のための電極触媒を開発する上で重要な知見となります。銅電極は安価に手に入る材料であり、実用化・工業化の観点からも有望な触媒材料として期待されています。今後はメタンチオール以外の分子を用いて同様の効果が得られるかどうかを検討していく予定です。

 本研究は、名古屋工業大学と株式会社デンソーの共同研究の成果となります。また一部は文部科学省科学研究費補助金基盤研究(B)および基盤研究(C)の支援を受けて実施されたものです。

用語解説

用語1:ヘテロ原子
 電極表面に存在する原子の中で電極の材料である原子(本研究では銅原子)とは異なる原子のことで、異種原子とも呼ばれています。本研究におけるヘテロ原子は、銅電極表面上に修飾されたメタンチオール分子のS原子となります(メタンチオールはS原子を介して銅電極表面に結合しています)。近年、銅表面での二酸化炭素還元反応におけるヘテロ原子の重要性が多くの研究で指摘されています。

用語2:表面増強赤外分光法
 表面プラズモン効果により、金属基板上の化学種に関して、その赤外スペクトルの強度を増幅することが可能な測定手法です。非常に高感度で、電気化学測定など他の測定手段と組み合わせることも可能です。

用語3:C2化合物
 2分子の二酸化炭素が反応して生成する炭素原子を2個含む化合物で、エタンやエチレン、エタノールなどが該当します。工業的にも重要な化合物です。

論文情報

論文名:Methanethiol SAMs Induce Reconstruction and Formation of Cu+ on a Cu Catalyst under Electrochemical CO2 Reduction
著者名:Go Iijima, Hitoshi Yamaguchi, Tomohiko Inomata, Hiroaki Yoto, Miho Ito, and Hideki Masuda
掲載雑誌名:ACS Catalysis
公表日:2020年12月10日
DOI: 10.1021/acscatal.0c04106
URL: https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acscatal.0c04106

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科
生命・応用化学専攻
准教授 猪股 智彦
TEL: 052-735-5673
E-mail: tino[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
TEL: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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