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ナノチューブの中のヨウ素が2手に分かれてCO2を退治 〜カーボンナノチューブを使って地球温暖化ガスを分解する光触媒を開発 〜

カテゴリ:プレスリリース|2021年05月13日掲載


発表のポイント

〇 地球温暖化ガスとして削減しなければならない二酸化炭素(CO2)ガスを、太陽光エネルギーで一酸化炭素(CO)に還元分解する光触媒を開発した。異常気象の要因と考えられる地球温暖化の抑制につながる研究である。
〇 この太陽光二酸化炭素(CO2)還元(*2)触媒複合体の合成は、ヨウ素を内包した単層カーボンナノチューブ(*1)を硝酸銀水溶液に浸漬するだけという簡単な方法を開発することで合成コストを下げ、光触媒の広範な実用化が期待できる。
〇 開発した光触媒は太陽光のもとで効率よくCO2をCOに還元でき、長寿命であるだけでなくナノチューブの特性を活かしてフレキシブル透明電極を容易に作成可能であり、これまで光触媒の設置が困難であった場所へも展開できる。

概要

 本学大学院工学研究科生命・応用化学専攻の川崎晋司教授、石井陽祐助教らの研究グループは、太陽光の中で光強度が大きい可視光を有効に利用して、地球温暖化ガスである二酸化炭素を分解する光触媒を単層カーボンナノチューブを利用したユニークな方法で開発しました。異常気象などの環境問題の解決に直接的に貢献する研究です。
 開発した太陽光CO2還元触媒は、可視光を効率よく吸収できるヨウ化物(*3)(AgI)と二酸化炭素を効率よく還元するヨウ素酸(*4)化合物(AgIO3)の微結晶を単層カーボンナノチューブ上に均一に分散担持したものです(図1)。この光触媒複合体の合成方法はユニークかつとても簡単なものです。ヨウ素分子を内包した単層カーボンナノチューブを硝酸銀水溶液に浸漬させるだけで、不均化反応(*5)により2種類のヨウ素化合物の微結晶を同時に均一にナノチューブ上に担持できます(図2)。合成コストを抑えることができ、広範な実用化が期待できます。また、ナノチューブを複合化しているため、この光触媒複合体を絶縁性の透明高分子の上に塗布するだけでフレキシブル透明光触媒電極(図3)を作製することができ、さまざまな場所に設置することが可能です。地球温暖化ガスとして問題になっているCO2を削減するデバイスとしての応用が期待されます。
 この研究成果は、2021年5月12日(日本時間)にネイチャー・リサーチ社のScientific Reports誌に掲載されました。

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図1 太陽光(可視光)によりヨウ化銀(AgI)で光励起した電子をカーボンナノチューブでヨウ素酸銀(AgIO3)まで運び、CO2をCOに還元する。


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図2 ヨウ素分子を内包した単層カーボンナノチューブを硝酸銀水溶液に浸漬するだけで図1の光触媒複合体を合成できる。


F31.jpg図3 図1の光触媒を絶縁性の透明高分子の上にコートするとフレキシブル光電極が簡単に作製できる。

研究の背景

 環境問題が深刻化し、地球温暖化対策のための二酸化炭素(CO2)の削減が求められています。単にCO2の排出を抑制するだけでなく、大気中のCO2を能動的に還元分解する技術が期待されています。しかし、この還元分解に化石燃料を使用しては元も子もないので、再生可能エネルギー(具体的には太陽光エネルギー)で還元分解する光触媒が必要です。太陽光は可視光部分の強度が大きいので、可視光に応答する光触媒が求められています。

研究の内容・成果

 二酸化炭素を効率よく還元するヨウ素酸銀(AgIO3)はバンドギャップが大きく、可視光を効率よく利用できません。この問題をギャップが小さく可視光を吸収できるヨウ化銀(AgI)と組み合わせることで解決する手法は以前から知られていたが、両者の接合法は確立しておらず、また、合成法も複雑でした。今回本研究グループは、ヨウ素を内包した単層カーボンナノチューブを硝酸銀に浸漬するだけという簡単な方法で問題を解決しました。ポイントとなるのは水に不溶なヨウ素をいかに効率よく反応させるか、生成したヨウ素酸銀とヨウ化銀の結晶成長を抑え微結晶とするか、2種の微結晶の接続をどう解決するかです。これらはすべてナノチューブに内包したヨウ素により解決できました。ナノチューブの中のヨウ素は通常のヨウ素とは異なり化学的に活性で水に不溶であっても反応したと考えられます。中性のヨウ素を銀イオンと反応させることでヨウ素の不均化反応によりヨウ素酸銀とヨウ化銀の同時生成に成功しました。ナノチューブの中から反応物を供給することで供給速度を低下させ、結晶成長を抑制し微結晶化できました。2種の微結晶をナノチューブに分散担持させることで2種の微結晶の接続の問題を解決しました。
 このユニークな手法で合成した光触媒複合体にソーラーシミュレーターにより擬似太陽光を照射したところCO2をCOに0.18 μmol/(g·h) の効率で還元でき、少なくとも72時間はその性能に大きな劣化がないことが確認されました。

社会的な意義

 人類が石油や石炭などの化石燃料を使用することで排出してきた二酸化炭素(CO2)は、温室効果ガスとして知られています。この温室効果ガスの増加により地球が温暖化するだけでなく、異常気象の原因にもなり人々の生活に大きな影響を与えていることがSDGsを決議した国連をはじめさまざまな場で議論されています。こうした環境問題の解決にむけて、地球温暖化対策のために二酸化炭素(CO2)の削減が叫ばれています。本研究は大気中の二酸化炭素(CO2)を再生可能エネルギーである太陽光で直接還元分解する光触媒を開発するもので、環境問題解決に直接的に貢献するものです。

今後の展望

 単層カーボンナノチューブの電子状態制御やヨウ素酸銀とヨウ化銀の結晶サイズの制御などにより光触媒性能のさらなる向上を目指します。また、本研究では二酸化炭素(CO2)の還元に焦点をあててましたが、この光触媒を使用して水から水素を生成する太陽光水素生成を行うことにも研究を展開してくことが期待されます。

 本研究は、文部科学省科学研究補助金 基盤研究(B)、基盤研究(C)および挑戦的研究(萌芽)の支援を受けて行われました。

用語解説

(*1)単層カーボンナノチューブ:炭素原子のみからできた筒状の構造のもので、この筒の部分にさまざまな分子を保持できる。

(*2)二酸化炭素(CO2)還元:CO2をCO, HCOOH, CH4 などに変換すること。

(*3)ヨウ化物:I-の形で、このときヨウ素は形式的に-1価となる。

(*4)ヨウ素酸:IO3-の形で、このときヨウ素は形式的に+5価となる。

(*5)不均化反応:今回のケースでは中性のヨウ素(I)が+5価のヨウ素酸と-1価のヨウ化物イオンに分かれること。

論文情報

論文名: One-step synthesis of visible light CO2 reduction photocatalyst from carbon nanotubes encapsulating iodine molecules
著者名:Ayar Al-zubaidi, Kenta Kobayashi, Yosuke Ishii, Shinji Kawasaki
掲載雑誌名:Scientific Reports
公表日:2021年5月12日(日本時間)
DOI:10.1038/s41598-021-89706-2
URL: https://doi.org/10.1038/s41598-021-89706-2

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学 大学院工学研究科 生命・応用化学専攻
助教 石井 陽祐
TEL: 052-735-5259
E-mail: ishii.yosuke
[at]nitech.ac.jp

名古屋工業大学 大学院工学研究科 生命・応用化学専攻
教授 川崎 晋司
TEL: 052-735-5221
E-mail: kawasaki.shinji
[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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