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機械学習により構成元素の情報のみから熱伝導率を高精度に予測可能な数理モデルの開発 ―熱を制御した機能性材料の開発の加速に期待―

カテゴリ:プレスリリース|2021年07月08日掲載


発表のポイント

〇 機械学習の活用により熱伝導率の予測を低計算コスト・高精度で決定可能な数理的なモデルを提案。
〇 次世代の電子デバイス材料、熱電変換材料、触媒材料として期待されているハーフホイスラー化合物の熱伝導率を従来の計算手法と比較して1 / 100の計算時間で予測可能に。

概要

 本学大学院工学研究科の宮崎秀俊准教授(物理工学専攻・フロンティア研究院)および田村友幸准教授(物理工学専攻)、産業技術総合研究所極限機能材料研究部門の三上祐史主任研究員らを中心とした研究グループは、自然科学研究機構・計算科学研究センターのスーパーコンピューターによる網羅的なハーフホイスラー化合物の熱伝導率計算の結果を機械学習により学習させ、様々な機能性を有することから次世代材料として注目されているハーフホイスラー化合物の熱伝導率を高精度かつ短時間で予測可能な数理モデルの構築に成功しました。
 本研究成果により、構成元素の指定のみで、熱を流しやすい物質や熱を流しにくい物質を予測できるようになりました。

 本研究成果は、2021年6月28日(日本時間18時)にネイチャー・パブリッシング・グループのオープンアクセス・ジャーナル「Scientific Reports」に掲載されました。

研究の背景 

 IoT社会への進展に伴い電子デバイスに求められる性能は益々高まっています。近年、電子デバイスの高性能化のための集積化が進んでいますが、集積化が進むにつれ、電子デバイスの"熱"の問題が深刻になっています。動作中の電子デバイスの温度が高くなった際には、性能の低下、部品寿命の低下、安全性の低下が生じるため、電子デバイスの温度管理(熱マネジメント)が一段と求められています。
 電子デバイスにおける"熱"を管理するために最も重要な物理量は熱伝導率です。熱伝導率とは、物質の片方に熱エネルギーを与えた際にどれだけの熱が物質中を移動するのかを示す物理量であり、物質中の熱の分布を予測するために用いられています。物質の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法や比較定常法により実験的に決定することが可能ですが、試料の形状、密度、純度によって、得られる値にズレが生じるため、理論計算による熱伝導率の予測値を得る試みがこれまでも多くなされてきました。実際に第一原理計算によって熱伝導率を予測することはできますが、熱を加えた際に各元素間に働く力を高精度に求める必要があるため、膨大な計算コストが必要なことが知られており、短時間で熱伝導率を予測することはこれまで困難でした。

研究の内容・成果

 本研究では半導体材料、触媒材料、熱電発電材料として高い性能を有するハーフホイスラー化合物に注目し、図1に示す様々な元素を含んだ143種類のハーフホイスラー化合物の熱伝導率を第一原理計算により計算し、機械学習によりハーフホイスラー化合物を構成する原子情報のみから熱伝導率を予測する数理モデルを構築することができないかを検討しました。

fig1.jpg

図1 今回の計算に用いた様々な元素を含んだハーフホイスラー化合物。

 

 その結果、機械学習における学習モデルのアルゴリズムの選択および構成原子の原子情報(原子半径および原子質量)からハーフホイスラー化合物の格子定数を学習し、その後に熱伝導率を学習するという学習モデルの最適化を行う事により、熱伝導率を低計算コスト、高精度で予測するための機械学習の数理モデルの開発に成功しました。今回、開発した数理モデルを利用することにより、図2に示すようにハーフホイスラー化合物の熱伝導率のズレが4 %以下という精度で予測することができることが明らかになりました。

fig2.jpg

図2 (左図)ハーフホイスラー化合物の熱伝導率の第一原理計算により計算された理論値と機械学習により予測された予測値。
   (右図)理論値と予測値のズレの個数。

社会的な意義

 今後のIoT社会の益々の進展のためには、更なる高性能な電子デバイス材料の開発および高集積化に伴う電子デバイスの適切な温度管理が必要となります。そのためには、新材料の開発だけでなく材料の熱伝導率を正確に予測する技術の開発が必要不可欠です。本研究は、第一原理計算による理論計算では予測が困難な熱伝導率を機械学習により高精度で予測できることを明らかにするとともに、様々な新材料の熱伝導率を予測することに成功しました。今後は、本研究成果で得られた成果を活用することにより、電子デバイスに最適な熱伝導率を有する新材料の開発が加速することが期待されます。

今後の展望

 本研究で開発された熱伝導率の予測のための数理モデルは電子デバイス材料の開発以外にも、熱を電気に変換することが可能な熱電変換発電材料や触媒材料など他の機能性材料の開発にも適用可能な方法です。今後、他の機能性材料にも本研究成果を適用することにより、新たな機能性材料開発へと進展することが期待されます。

 

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(C)、自然科学研究機構・計算科学研究センター施設利用制度の支援を受けて実施されたものです。

用語解説

(注1)熱伝導率:熱伝導率とは物質の片方に熱エネルギーを与えた際にどれだけの熱が物質中を移動するのかを示す物理量であり、物質中の熱の分布を予測するために用いられる。

(注2)第一原理計算:物質を構成する電子の動き方や原子間に働く力を経験的なパラメータを使用することなく計算する手法のこと。極めて高精度な計算手法であるものの、計算には多くの時間が必要である。

(注3)機械学習:機械学習とはコンピューターが与えられたデータを基に自動で学習し、結果を予測する数理モデルを構築する人工知能の一種である。

論文情報

論文名:Machine learning based prediction of lattice thermal conductivity for half-Heusler compounds using atomic information
著者名:Hidetoshi Miyazaki, Tomoyuki Tamura, Masashi Mikami, Kosuke Watanabe, Naoki Ide, Osman Murat Ozkendir and Yoichi Nishino
掲載雑誌名:Scientific Reports
公表日:2021年6月28日
doi:10.1038/s41598-021-92030-4
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-92030-4

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 物理工学専攻 フロンティア研究院
准教授 宮崎 秀俊(みやざき ひでとし)
Tel:052-735-5394
E-mail:miyazaki[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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