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新考案の無振動・無揺動機構に基づく新機構エンジンの試作、自立駆動(燃料による運転)、発電に成功 ―パワーユニット・ダイバーシティーを目指した、新型高効率エンジンの開発研究の進展―

カテゴリ:プレスリリース|2022年07月07日掲載


発表のポイント

〇 自動車用動力システムや発電システムのダイバーシティー(多様性)を目指した開発研究。
〇 新考案の無振動・無揺動の特性をもつ機構(「ベース・ラジアル機構(仮称)」)を応用して、内燃エンジンの変革を目指す。
〇 新考案機構をもとに部品数の少ない無振動エンジンを設計・製作し、燃料による実駆動に成功。

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(電気・機械工学領域)の石野 洋二郎 教授らの研究グループは、無振動・無揺動の機構(メカニズム)を新たに考案し、それに基づき新型無振動・高効率3気筒内燃エンジン(図1および図2)を設計・製作し、(モーター等のアシストを必要としない)燃料による駆動運転に成功した(圧力波形を図3に示す)。
 この内容は、すでに特許出願されており、2022年7月、2つの学術講演会にて発表される。

 なお、図2は、試作エンジンの出力を実際に表すために、発電機を駆動し、発電された電力により電球を点灯させた駆動実験風景を撮影した写真である。
 図1の試作エンジンは、石野教授、及川拓真氏(工学専攻 電気・機械工学系プログラム 博士前期課程2年)、米田百花氏(工学専攻 創造工学プログラム 博士前期課程1年)らが協力して、石野研究室の工作機械群を利用して内製した。

 fig1.jpgfig2.jpg

図1 3気筒4ストローク試作エンジン     図2 燃料により自立駆動し発電する試作エンジン。
   の外観写真                   発電電力による電球の点灯。

fig3.jpg

図3 自立駆動を示す筒内圧力波形

研究の背景

 自動車用動力システムに関しては現在、外国諸国においてEV化が推進されており、わが国も同様な姿勢をとる一方で、万が一に備えて、パワーユニットの多様性(ダイバーシティー)を考慮し、燃料電池や、水素、アンモニア、バイオ燃料といったカーボンニュートラル燃料による内燃エンジンなど、すべての可能性を実証していくことが大切であると考えられる。また、電動車であっても、多くの国民の利便性に配慮すれば、ハイブリッドシステムやレンジエクステンダー(航続距離延長装置=内燃発電機)搭載も現実的であり、この際には、内燃エンジンを必要とする。ただし、パワーユニット・ダイバーシティーは、内燃エンジンがそのままで良いことを意味せず、より良い特性(低振動性や低ガスリークによる高効率性)をもつ機構・型式を模索することを要求していると思われる。(パワーユニットは、自動車用だけではなく、コジェネレーションや事業用ガスエアコンなどの発電システムも含む)

研究の内容・成果

 本開発研究は、わかり易い実例で説明すれば、
・図4に示すロータリーエンジン(Wankelエンジン)の
  〇 利点(低振動性)
  × 欠点(作動流体のシールが困難で漏れが多く、低効率)、
・図5に部品を示すピストンエンジンの
  〇 利点(ピストンリングの低リーク性による高効率)
  × 欠点(クランク軸の複雑性、クランクとピストンをつなぐコンロッドの存在、
       コンロッドとピストンの運動による振動発生)
のうち、両者の利点をもち、欠点を持たない内燃エンジン(コンプレッサー、ポンプも含む)を実現するものである。
 本開発研究では、新考案した機構「ベース・ラジアル機構(仮称)」を活用し、それを達成する。
 以下に、「ベース・ラジアル機構」について簡単に説明を行う。
 「ベース・ラジアル機構」は、簡単な規則で運動する「ベースライン」と「ラジアルライン」、およびそれらの幾何学的関係で重心位置が決定される「軌道ユニット」を基本ユニットとする構造で、3ユニット以上の基本ユニットを同一平面に配置するとき、運動する複数の「軌道ユニット」は、その合成重心が移動せず、総運動エネルギーが変化しないという特長をもつことが、石野教授により見いだされた。

fig4.jpgfig5.jpg

図4 一般的なロータリーエンジンの構造   図5 通常の3気筒ピストンエンジン部品(ピストン、
                         コンロッド、クランクシャフト)

 この機構をエンジン(あるいはポンプ)設計に応用する場合、「ベースライン」にシリンダーを設置し、「軌道ユニット」をピストン形状とすることで、振動がなく、滑らかな回転のエンジンが実現できる。また、図4のロータリーエンジンと異なりピストンリングを利用できるので、作動流体の漏れが極めて少なく、高い効率が期待できる。さらに、近年の小型エンジンでは3気筒エンジンの採用が多くなっているので、「ベース・ラジアル機構」により現実的な薄型3気筒エンジンが提供できることになる。また、3気筒エンジンでありながら、図5に示した複雑な3次元構造をもつ「3気筒エンジン用クランクシャフト」や、ピストンとクランクシャフトを連結する3本の「コンロッド」が不要となり、製造費用の低減が可能である。

社会的な意義

 高効率で低振動なこの内燃エンジンが、輸送機械や発電装置に広く用いられるようになることが期待される。パワーユニット・ダイバーシティーのために、内燃エンジンに対する改善・改良の「呼び水」として、話題を投げかけると推測される。
 また、エンジンなどの機構(メカニズム)にも、発展する余地が残されており、若い世代(小中高校生)がITだけでなく、「機械技術」にも目を向けるきっかけとなることを望む。

今後の展開

 ロータリーエンジンより高効率で、コンロッド式ピストンエンジンより低振動なこのエンジンは、複雑なクランクシャフトとコンロッドを一掃する可能性がある。同時に、エンジンは振動するものという概念(思い込み)も一掃されることを望む。
 大学の一研究室単独でのエンジン開発は通常、困難だと認識されるが、本研究では、「大学の研究の責務は研究のシーズを提供することにある」と割り切り、意図的に「耐久性」を度外視することで、成功にたどりつくことができた。
 今後は、耐久性について考慮し、可能であれば、製造企業との共同研究により実社会で役に立つ製品を送り出せることを願う。

用語解説

<ロータリーエンジン> 日本では、Wankelエンジンのことを指す。マツダが開発に成功(開発秘話は有名。*たとえば「マツダロータリーエンジンの歴史」グランプリ出版p.69」)したが、ガスのシール(密閉)が難しく現在はあまり利用例がない。完全バランスを実現でき、低振動性に優れる。

<ピストンエンジン> ピストン・シリンダーを密閉要素とするエンジン。通常、気筒(シリンダー、ピストン)毎に、ピストンをクランクアームとコネクティングロッド(コンロッド)で往復駆動するが、この時の振動を抑えるのが困難。ときに、高次モードの振動については、除去対策をあきらめる場合が多い。

<レンジエクステンダー> エンジンを持たないEV自動車の航続距離を増やすために、車載する小型エンジン発電機。

<ガスエアコン> 一般家庭のエアコンは内部のコンプレッサーを電気モーターで駆動するが、ガスエアコンでは、都市ガスを燃料とする内燃エンジンでコンプレッサーを駆動する。電気料金よりガス料金の方が安いと言われる。

<コジェネレーション> 都市ガスで内燃エンジンや燃料電池を駆動し、発電電力だけでなく排熱も熱エネルギーとして利用できる「熱電併給システム」。

論文情報等

  「ベース・ラジアル機構に基づく新型無振動ピストンエンジンの試作研究」
  及川 拓真、米田 百花、石野 洋二郎
  日本機械学会 第32回 環境工学総合シンポジウム2022講演論文集(No.22-14)
  講演会対面開催日 2022年7月7日・8日、香川県高松市、講演日 2022年7月7日

  「ベース・ラジアル機構に基づく無振動内燃エンジンの試作および実作動時の特性の把握」
  石野 洋二郎、及川 拓真、米田 百花、日比 瞭介
  日本機械学会 第26回動力・エネルギー技術シンポジウム 講演論文集(No.22-10)
  講演会対面開催日 2022年7月13日・14日、佐賀県佐賀市、講演日 2022年7月14日

  特許出願
  【発明の名称】無振動機構レイアウトとその応用機器
  【出願番号】特願2022-101280     
  【出願日】2022年6月23日
  【発明者】名古屋工業大学 石野洋二郎  
  【特許出願人】国立大学法人 名古屋工業大学

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(電気・機械工学領域)
教授 石野 洋二郎
TEL: 052-735-5354
E-mail: ishino.yojiro[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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