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ポリエステルの新規アップサイクル技術を開発 ―分解と結合交換を利用したワンショット材料変換―

カテゴリ:プレスリリース|2022年08月26日掲載


発表のポイント

〇 ポリエステルの新規材料変換法を開発:リサイクル過程で物性向上と機能付与を伴うアップサイクルを実現可能
〇 現行のリサイクルプロセスとは一線を画し、必要試薬の添加と加熱という簡便な操作により、付加価値の高い樹脂にワンショットで変換
〇 1940年代から続く従来の架橋(※1)の概念(Floryのゲル化理論)とは異なり、ポリマー鎖の「分解」をトリガーとした新規架橋反応
〇  SDGsの実現に貢献可能な新規リサイクル技術であり、将来的には他の商用ポリマー(例えばポリウレタンやポリカーボネート)への展開を目指す

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(生命・応用化学領域)の林幹大助教らは、商用ポリエステルを出発物質とし、「ポリエステルの主鎖分解」と「結合交換反応(※2)」を駆使した材料変換(アップサイクル)技術を開発した(図1)。本反応は、ポリエステルに対し多官能エポキシ化合物(図1中の4-Epoxy)と塩基性有機触媒(図1中のDBU)とを混合し、200℃での熱処理により完結する。熱処理下でポリマー鎖が連結していく架橋反応が起こり、結果として、初期の状態よりも耐熱性および力学物性が向上された材料への変換が可能となった(反応後において弾性率は約60倍、最大強度は約10倍)。また、得られた架橋体では高温で結合交換が活性化し、再成形性・修復性などのサスティナブルな機能も発現した(図2)。
 通常、架橋反応を施すためには、ポリマー鎖への架橋性官能基(※3)の導入が必須であるが、本ポリエステル中には架橋性官能基が元々含まれていない。詳細な分析の結果、本架橋反応は、従来の架橋反応とは全く異なり、ポリマー鎖の(加水)分解をトリガーとして進行することがわかった(図3)。分解により、ポリマー鎖の両末端に架橋性官能基(カルボキシル基および水酸基)が生成する。生成したカルボキシル基および水酸基はエポキシ化合物と反応し、さらにエステル交換反応(※4)を介して網目構造が成長し、最終的にゲル分率~100%となる架橋体が生成する。
 上記で示した「加水分解」という現象は、材料物性低下を招くため、通常はネガティブな事象として考えられている。一方、本架橋反応では、加水分解により架橋性官能基が生成するため、「怪我(分解)の功名(官能基生成)」的発想の転換から、安定な架橋構造形成のための"ポジティブな要素"として捉えている。1940年代から続く従来の架橋の概念(Floryのゲル化理論)では、ポリマー鎖末端や側鎖の架橋性官能基を利用することが前提とされており、ポリマー鎖の分解は想定されていない。つまり、「分解をトリガーとして反応が進行する」という架橋反応には新規性が高く、これをポリエステルの材料変換およびアップサイクルに利用できるということを実証した先駆け的知見となった。

 この成果は、2022年81日に学術雑誌Journal of Materials Chemistry Aにオンライン掲載されました。

fig1.jpg

図1. (a) 分子設計。(b) 架橋反応後試料の外観。(c) 元々の試料と熱処理後試料の熱-力学物性(温度分散粘弾性測定)。(d)引っ張り試験に基づく力学物性の比較。

 

fig2.jpg2. 結合交換特性を活かした有用機能:(a)再成形性。(b)修復性。

 

fig3.jpg

3. (a)本研究で明らかとなった新規架橋機構。(b)1940年代から続く従来の架橋機構。

研究の背景

 SDGsを軸とした社会背景を考慮すると、リサイクル可能なポリマー開発およびリサイクル技術開発は急務である。ただし、「リサイクルが可能である」ということと「リサイクルをする」という行動は全く別物である。その最大の理由はリサイクルに掛かるコスト問題である。リサイクルには、回収・洗浄・リサイクル(再加工)プロセスが必要であるため、最終コストは新製品の生産コストを上回ってしまう。また、リサイクルしたとしても、熱劣化や光劣化により新品と比べて物性が低下してしまう場合がほとんどである。このような理由から、例えばPETの場合は回収したとしても約8割は焼却され、(熱)エネルギーとして消費される。
 資本主義の中でビジネスとして成立させるためには、やはり付加価値の高い樹脂製品への変換が必須である。付加価値を向上させるため、物性向上や機能化を伴うリサイクルプロセスは「アップサイクル(アップグレードリサイクル)」と呼ばれ、現在その技術開発が国際的に注目されている。

社会的な意義

 代表的なポリエステル製品であるPETのリサイクル法としては、PETとしての再利用や、繊維や包装用フィルムなど異製品としての再利用が主であり、前者は水平リサイクル、後者はカスケードリサイクルと呼ばれる。しかし、両者の場合、PETが他のポリマーに変換されたわけではないため、強度や耐熱性の面で物性向上はもたらされない。そのため、高付加価値樹脂としての生まれ変わりは果たされていない。その他のリサイクル法として、ケミカルリサイクルというプロセスが確立されつつある。本方法では、化学反応を介してポリマーを原料であるモノマーまで変換する。その後、異種モノマーとの再反応により、ポリマー種として変換された樹脂を生産できる。この場合、所望の物性を付与するために異種モノマーをうまく選択することで、高付加価値材料として生まれ変わらせることができる。一方で、第一段階でのモノマーへの変換・第二段階での再反応および精製作業では、エネルギー・資源・時間的コストが課題となる。
 これら現行のリサイクルプロセスと比較し、本技術は、ポリエステルへの必要試薬の混合および加熱という単純なプロセスで、物性向上・機能を付与した高付加価値樹脂が生産可能であり、実用展開可能なアップサイクル技術として価値がある。

今後の展開

 本論文においては、PET類似の非晶ポリエステルについてのみ技術を確立したが、今後は、PETやポリウレタン・ポリカーボネート・ポリアクリルなど、他の商用ポリマーへの技術展開に挑戦していく。

 本研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、官民による若手研究者発掘支援事業(JPNP20004)の一環として行われました。

用語解説

(※1)架橋 
高分子鎖(ポリマー)を連結し、三次元網目を形成させる反応。架橋反応を用いた樹脂製品としては、ゴムや熱硬化性樹脂が代表的。

(※2)結合交換反応 
熱や光などの外部刺激により、結合が交換する特別な反応。本設計で用いたエステル交換反応はその代表例。架橋樹脂中で結合交換反応が起きる場合、再成形性・リサイクル性・修復性など、従来の架橋樹脂では発現し得ない機能を示す。

(※3)架橋性官能基 
加熱などにより反応が進行する官能基のこと。本設計では、エポキシ化合物と反応するカルボン酸基や水酸基のことを指す。

(※4)エステル交換反応 
加熱下でエステルとアルコールを反応させた際に、それぞれの主鎖部分が入れ替わる反応であり、通常の場合、酸または塩基が触媒として利用される。

論文情報

論文名:One-shot transformation of ordinary polyesters into vitrimers: Decomposition-triggered cross-linking and assistance of dynamic covalent bonds
著者名:Takahiro Kimura, Mikihiro Hayashi
掲載雑誌名:Journal of Materials Chemistry A
公表日:2022年8月1日 (web-published)
DOI:10.1039/D2TA04110C
URL:https://doi.org/10.1039/D2TA04110C

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(生命・応用化学領域)
助教 林 幹大
Tel: 052-735-7159
E-mail: hayashi.mikihiro[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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