PTFEを室温・1時間で"フッ素原料"に再生 ―フルオロ・サーキュラー・エコノミーを切り拓く画期的技術を確立―
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カテゴリ:プレスリリース|2025年12月15日掲載
名古屋工業大学/科学技術振興機構(JST)
発表のポイント
○ 難分解性のフッ素樹脂や様々なPFAS を室温・1時間で完全分解する技術を開発。
○ 得られたフッ化カリウム(KF)はそのまま化学反応に再利用でき、高機能化学品へ直接アップサイクル可能。
○ 金属を選ぶだけで、KF・NaF・LiF など用途に応じたフッ化物へ変換できる柔軟なプラットフォーム技術。
概要
名古屋工業大学の服部雅史氏(共同ナノメディシン科学専攻1年)、清野達希氏(工学専攻生命・物質化学プログラム2年)、趙正宇助教(生命・応用化学類)、柴田哲男教授(生命・応用化学類)らの研究グループは、バレンシア大学 Jorge Escorihuela 教授との共同研究により、再利用が極めて困難とされてきたフッ素系高分子(フルオロプラスチック)(*1)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を、室温・1時間の機械化学反応(メカノケミカル)(*2)で高純度KFと炭素材料の還元型酸化グラフェン(rGO(*3)へと完全分解し、フッ素(F)を再資源化する技術を開発しました。得られた KF は精製を必要とせず、そのままフッ素化反応に使用でき、「フッ素樹脂や様々なPFAS (*4)→ 高機能フッ素化学品」への直接アップサイクル(有価化)(*5)を実現しました。また、使用する金属種を変えることで、PTFE を KF だけでなく、歯磨き粉などに用いられるフッ化ナトリウム(NaF)や、リチウムイオン電池材料に不可欠なフッ化リチウム(LiF)へと高純度変換できることも明らかになりました。
本手法は PVDF、PCTFE、ETFE、PFA、FEPなどのフッ素高分子に加え、環境への蓄積性・残留性が懸念されている PFOS、PFOA、PFHxS(*6)だけでなく、その他の低分子 PFAS にも適用可能であり、様々な PFAS からフッ素を高効率に回収し、有価化できることを示しました。
本成果は、PFAS の廃棄やフッ素資源枯渇問題という国際的課題を同時に解決しうる、持続可能なフッ素資源循環(Fluoro-Circular Economy) に向けた重要なブレークスルーと考えています。
本研究成果は、国際学術誌 Nature Communications オンライン速報版(2025年12月11日付)に掲載されました。
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謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST 研究領域「分解・劣化・安定化の精密材料科学」(研究総括:高原淳(九州大学 ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 特任教授))における研究課題「フッ素循環社会を実現するフッ素材料の精密分解」(研究代表者:柴田哲男)(課題番号JPMJCR21L1)、元島栖二博士(CMC総合研究所)およびダイキン工業株式会社の支援を受けて実施しました。
論文情報
論文名: Upcycling of PTFE and PVDF to fluorochemicals through mechanochemical process
著者名: Masashi Hattori, Tatsuki Kiyono, Zhengyu Zhao, Masahiro Higashi, Moe Fujishiro, Yosuke Kishikawa, Jorge Escorihuela, Norio Shibata*
*責任著者
掲載誌: Nature Communications
公表日: 2025年12月11日
DOI: 10.1038/s41467-025-67299-y
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-025-67299-y
用語解説
(*1)フッ素系高分子(フルオロプラスチック)
分子構造中にフッ素を含む高分子樹脂で、非粘着性・低摩擦性・耐薬品性・耐熱性・電気絶縁性・耐候性など、優れた特性を併せ持つ。化学構造の違いにより独自の高機能が付与される。具体的にはPTFE、PVDF、PCTFE、ETFE、PFA、FEPなどが知られている(構造の詳細は図1)。
(*2)機械化学反応(メカノケミカル)
ボールミルなどの強い機械的攪拌を利用することで、有機合成反応を実施する新しい技術。この技術を使うことにより、有機溶媒の使用を最小限にし、従来の有機合成では扱いにくい溶解性の悪い化合物(未利用材料)を反応させることができるなど、有機合成を大幅に進化させるポテンシャルを持っている。
(*3)還元型酸化グラフェン(rGO)
グラフェン酸化物を還元して得られる材料であり、sp2炭素骨格を主体としつつ、少量の酸素官能基と欠陥を含む層状構造を有する。
(*4)PFAS
有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称。
化合物中の炭素原子が形成できる結合すべてがフッ素と結合している部分構造を持つ化合物がその対象となる。撥水・撥油剤、界面活性剤など様々な用途で利用されている。しかし、一部のPFASは高い安定性のために環境中でほとんど分解されないことから、環境への蓄積や残留性が問題となっている。
(*5)アップサイクル(有価化)
副産物や廃棄物などを使用して、新たな機能性、品質を備えた材料へと高付加価値化するプロセスである。
(*6)PFOS、PFOA、PFHxS
ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)の略称で,特定PFASとして規制対象となっている。
お問い合わせ先
(研究に関すること)
名古屋工業大学 生命・応用化学類
教授 柴田 哲男
TEL:052-735-7543
E-mail:nozshiba[at]nitech.ac.jp
(JST事業に関すること)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
安藤 裕輔
TEL:03-3512-3531
E-mail:crest[at]jst.go.jp
(広報に関すること)
名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647
Email:pr[at]adm.nitech.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
TEL:03-5214-8404
E-mail:jstkoho[at]jst.go.jp
*それぞれ[at]を@に置換してください。
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