光で細胞内に水素イオンを送り込む仕組みを解明 ~水分子の「リレー」が支える水素イオン移動と脳科学応用への期待~
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カテゴリ:プレスリリース|2026年4月 3日掲載
発表のポイント
○ 光で細胞内に水素イオンを取り込む微生物ロドプシンの仕組みを、低温赤外分光法により解明
○ タンパク質内部で水分子がつくる「水素結合リレー」が、効率的な水素イオン輸送を支えることを発見
○ 神経細胞の興奮制御や細胞内pH調節に役立つ、新たな光遺伝学(*1)ツール開発の指針を提供
概要
名古屋工業大学工学専攻の伊藤侑真氏(博士後期課程1年)、生命・応用化学類の錦野達郎助教、神取秀樹特別教授、古谷祐詞准教授らは、欧州分子生物学研究所(EMBL)のKirill Kovalev博士との国際共同研究により、光を利用して細胞内に水素イオンを取り込む微生物ロドプシンの一種である「ゼノロドプシン」がはたらく仕組みを明らかにしました。通常、細菌は水素イオンを細胞外へ排出して、水素イオン濃度勾配を形成し、エネルギーを生み出しますが、ゼノロドプシンは逆に細胞内へ取り込む珍しい性質を持っています。本研究では、低温赤外分光法を用いて、タンパク質内部で水分子が鎖のようにつながり、「水素結合リレー」を形成して水素イオンを効率よく運ぶことを明らかにしました。このような「水素結合リレー」は細胞外へ水素イオンを輸送する微生物ロドプシンでも報告されており、両者に共通する分子機構であることを示しました。また、水素イオンが移動する直前に、水素イオンを放出する部位と受け取る部位で水素結合状態が変化することも明らかにしました。これらの水分子の配列、水素結合の組換えは効率的な水素イオン移動に重要な役割を果たすことが示唆されました。これらの成果は、光で神経細胞を効率的に活性化したり、細胞内小器官のpHを制御する技術の高度化を実現する新たな光遺伝学ツールの開発に貢献し、脳神経科学分野での応用が期待されます。
本研究成果は、2026年4月3日に米国化学会の国際誌The Journal of Physical Chemistry Lettersのオンライン速報版に掲載されました。

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用語解説
(*1)光遺伝学(オプトジェネティクス)
光に反応するタンパク質を神経細胞などに導入し、光を照射することで細胞の活動を人為的に制御する技術。光感受性タンパク質としては、微生物由来のロドプシンが広く用いられる。これらは光を受けるとイオンを細胞内外へ移動させる働きを持ち、神経細胞の興奮や抑制を瞬時に操作できる。電気刺激と比べて高い時間分解能と細胞選択性を兼ね備えていることが特徴である。現在では、脳回路の機能解明や行動研究に不可欠な基礎研究手法として発展しており、将来的には神経疾患の治療法への応用も期待されている。
論文情報
論文名:Formation of a Proton-Conducting Hydrogen-Bond Network During the L/M Transition of NsXeR Uncovered by Light-Induced FTIR Spectroscopy
著者名:Yuma Ito, Kirill Kovalev, Tatsuro Nishikino, Hideki Kandori, and Yuji Furutani*
*責任著者
掲載雑誌名:The Journal of Physical Chemistry Letters
DOI:10.1021/acs.jpclett.6c00234
URL:https://doi.org/10.1021/acs.jpclett.6c00234
研究支援
本研究は以下の助成により実施されました:
• 日本学術振興会 科学研究費補助金(JP24H00451, JP21H04969)
• 文部科学省「大学の研究力強化促進事業(CURE)」(JPMXP1323015482)
• 科学技術振興機構CREST「細胞操作」領域(JPMJCR25B5)
• 大幸財団、立松財団
お問い合わせ先
(研究に関すること)
名古屋工業大学 生命・応用化学類
准教授 古谷 祐詞
TEL:052-735-5127 E-mail:furutani.yuji[at]nitech.ac.jp
(広報に関すること)
名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647 E-mail:pr[at]adm.nitech.ac.jp
*それぞれ[at]を@に置換してください。
