国立大学法人名古屋工業大学

文字サイズ
検索

News&Topics一覧

ホーム > News&Topics一覧 > プレスリリース:データサイエンスで効率的に全固体電池材料の最適化予測に成功

データサイエンスで効率的に全固体電池材料の最適化予測に成功

カテゴリ:プレスリリース|2018年04月19日掲載


概要

1.  物質・材料研究機構(以下、NIMS)と名古屋工業大学は、トヨタ自動車と共同で、次世代の全固体電池の固体電解質(1)材料候補について、高精度材料シミュレーションとデータサイエンスの手法を組み合わせることで、効率的にイオン導電性を最大化するような最適組成を決定するスキームを開発しました。更に、リチウムイオン伝導性材料の最適化で獲得した知識をナトリウムイオン伝導性材料の最適化に承継する転移学習(2)の有効性も実証しました。

2. 近年、電池メーカーや自動車メーカーを中心に全固体電池の開発が進められています。従来の可燃性有機電解液を用いたリチウムイオン電池に比べて、不燃性のセラミックスを用いた固体電解質による全固体電池は高い安全性が保障されます。また、電池のコンパクト化ができることから、より高いエネルギー密度を実現できる次世代電池として期待されています。しかし固体電解質として高いイオン導電性を有したセラミックス材料を、膨大な物質候補の中から試行錯誤的に探索・発見することは困難であり、効率的な探索方法が求められています。

3. 今回、高精度材料シミュレーションにより固体内リチウムイオン伝導性のデータベースを作成し、その結果をデータサイエンスにおけるベイズ最適化(3)および転移学習を組み合わせることによって、効率的に優れた材料を発見できることを確認しました。具体的にはタボライト型構造を有し、化学組成が異なる318種の材料のリチウムおよびナトリウムイオン導電性を評価対象に本手法を適用したところ、従来の試行錯誤的手法に比べて2~3倍程度の探索速度向上が確認できました。

4. 従来の材料シミュレーションは既知材料のイオン導電性などのメカニズムを詳細に解析することに用いられてきましたが、今回の成果では、データサイエンスの技術を組み合わせることで、所望の機能をもった材料を発見するためのツールになりうることを示すことができました。また、今回の成果はデータサイズが拡大するほど効率が高くなると期待されるため、今後の大規模材料探索に有効な技術と位置づけることができます。

5. 本研究は、NIMSのRandy Jalem研究員、名古屋工業大学(NIMS情報統合型物質・材料研究拠点兼任)の中山将伸 教授、竹内一郎教授、同大学博士前期課程学生の金森研太氏と、トヨタ自動車の山﨑久嗣博士、斎藤俊哉博士からなる研究チームによって行われました。また本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」の支援を受けて行われました。

6.本研究成果は、英国時間2018年4月11日午前10時(日本時間11日18時)にScientific Report誌にオンライン掲載されました。

研究の背景

 近年、環境・エネルギー問題に対する取り組みとして、電気自動車の実用化・普及に向けた取り組みが活発に行われています。現在の電気自動車の車載電源には、高エネルギー密度のリチウムイオン電池が用いられていますが、可燃性の有機電解液を用いていることから、事故等に際して発火や爆発等のリスクを解決する必要があります。そこで、有機電解液に対して不燃性のリチウムイオン導電性セラミックスである固体電解質を代用的に用いることで、電池を全固体化し安全性に優れた車載用電池(全固体電池)になると期待されています。また、全固体電池はコンパクトなため高容量化も実現し、航続距離の課題も解決でき、電気自動車の加速的普及が期待されます。
 このような全固体電池を実現するためには、高いイオン導電性を有し化学的に安定な固体電解質の発見が必要となりますが、特にイオン導電性が高い材料は限られており、現在も試行錯誤的な努力による探索が進められています。

300419zu1.jpg

図1 全固体電池開発と電気自動車実現へのかかわり

研究内容と成果

 これまで、固体電解質材料は研究者の直感や試行錯誤的な努力で探索されてきましたが、本研究では材料シミュレーションとデータ科学の手法を組み合わせて(マテリアルズ・インフォマティクス)、高いイオン導電性を有する材料を効率的に探索できる手法開発を行いました。具体的には、318件の高精度第一原理計算結果を用いて、全計算対象候補を俯瞰しながら効率の良い順番で候補材料の抽出を行うベイズ最適化を適用することで優れた材料が探索できるか検討しました。このような方法論は、ここ数年で材料探索の一般的な手法になっていますが、電池材料の物性予測に直接関係するような研究例は少ない状況です。今回は全固体電池実現に直結できるイオン伝導性を効率的に最適化できることを示すことができ、マテリアルズ・インフォマティクスが社会応用されるフェーズに近くなってきていることを示すことができました。(図2)300419zu2.jpg

図2 ベイズ最適化による材料選定のスキーム

 更に本研究では、転移学習とよばれる手法を用いることで、全固体リチウムイオン電池の材料開発のデータを全固体ナトリウムイオン電池の材料開発にも活用し、探索を飛躍的に効率化できることも確認することができました。(図3)

300419zu3.jpg

図3 転移学習のコンセプト。従来の知の承継との比較として

今後の展開

 本成果により、全固体電池開発が促進されれば環境・エネルギー問題の切り札と考えられている電気自動車の普及が加速すると期待されます。また今回の技術は、電池材料以外にも汎用的に用いることができる技術です。たとえば情報通信機器、照明、次世代高効率エンジン、医療材料等々の利用が期待されているセラミックス材料の合理的・効率的開発にも結びつけることができると期待されます。

掲載論文

題目:Bayesian-Driven First-Principles Calculations for Accelerating Exploration of Fast Ion Conductors for Rechargeable Battery Application
著者:Randy Jalem, Kenta Kanamori, Ichiro Takeuchi, Masanobu Nakayama Hisatsugu Yamasaki, Toshiya Saito
掲載日時:Scientific Reports (オンライン公開:英国時間2018年4月11日午前10時)

用語解説

(1) 全固体電池の固体電解質
高エネルギー密度の充放電可能な蓄電デバイスとして知られるリチウムイオン電池は、正極、負極、電解質の3つの材料から構成されている。電解質はリチウムイオンを正極・負極間でやり取りするための媒体であり、高いリチウムイオン輸送能(リチウムイオン導電性)が求められる。原稿の電池では、リチウム塩を有機溶媒(環状エーテルなど)に溶解させた材料(有機電解液)が使われているが、可燃性であるため、安全性の問題を解決することが必要である。そこで不燃性のセラミックスのうち、高いリチウムイオン伝導性がある材料を有機電解液の代替として用いることが検討されてきた。このようなリチウム導電性がある固体の電解質を固体電解質という。また、固体電解質をもちいて構成された蓄電池を全固体電池と称す。
また、リチウムイオンをナトリウムイオンに置き換えて、同様のコンセプトで全固体電池を構築することも可能である。ナトリウムはリチウムに比べて資源が豊富なことから、電気自動車に搭載する大型蓄電池の普及拡大が進展した場合に優位と考えられている。
(2) 転移学習
ある領域で学習させたモデルを、別の領域に適応させる技術
(3) ベイズ最適化手法
ベイズ推論にもとづき未観測の関数を最適化する手法


本件に関するお問い合わせ先

(研究内容に関すること)
物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点 研究員
Randy Jalem(ハレム ランディ)
TEL: 029-860-4636
E-mail: JALEM.Randy[at]nims.go.jp

(報道・広報に関すること)
国立研究開発法人物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室
TEL: 029-859-2026, FAX: 029-859-2017
E-mail: pressrelease[at]ml.nims.go.jp

 ※上記E-mailの[at]は@に置換してください。


ページトップへ