急に暑くなる日の熱中症リスク増大を科学的に立証~梅雨の合間、梅雨明けの熱中症リスクへの注意喚起~
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カテゴリ:プレスリリース|2018年5月29日掲載
名古屋工業大学
北見工業大学
東北大学サイバーサイエンスセンター
一般財団法人日本気象協会
名古屋工業大学、北見工業大学、東北大学サイバーサイエンスセンター、一般財団法人日本気象協会の共同研究グループは、暑さに慣れる(暑熱順化)前の熱中症リスクを大規模シミュレーションにより高精度に推定することに成功しました。同じ気温でも、梅雨の合間や梅雨明けなど急に暑くなる日に特に熱中症搬送者数が増加することが知られていますが、暑熱順化前は順化後に比べて熱中症にかかるリスクが高いことを、科学的にも立証した形となります。今後、熱中症リスクの低減に向けた啓発活動に利用していく予定です。
背景
日本では、一般に5月後半から7月にかけて、熱中症評価指標であるWBGT(温度、湿度)が大きくなる傾向にあり(図1(a)参照)、梅雨の合間などは真夏と同等のWBGTとなる場合もあります。また、梅雨の合間(雨の次の日の晴れ)などは、百葉箱で測定された公表データに比べ、生活環境での湿度は高い場合もありますが、現実的な報告はほとんどありません。そのため、日本における現実的なシーンを考慮した熱中症リスク評価を実現するための解析ツールを作成することが求められていました。
これまでの研究・開発の経緯
名古屋工業大学、東北大学サイバーサイエンスセンター、北見工業大学、一般財団法人日本気象協会の共同研究グループは、乳幼児や高齢者などの個人特性を考慮した熱中症リスク評価のための複合物理・人の生理応答を統合した統合シミュレーション技術を開発、東北大学サイバーサイエンスセンターが有するスーパーコンピュータSX-ACEに効率的に実装、高速化、気象予報データと融合させることによる、個人特性を考慮した3時間後の熱中症のリスクを10分で評価する技術の開発に成功してきました(2015年7月21日プレスリリース)。また、気象予報データと経験から得られた数式を融合させたデータを組み込み、現実的な条件(例えば、アスファルト、運動場など)での熱中症リスク評価システムを開発、個人特性を考慮した適切な熱中症リスク評価技術も開発しています(2016年7月25日プレスリリース)。また、外国人を対象とした熱中症のリスク評価に関する試算結果(2016年7月25日プレスリリース)についても報告してきました。研究成果の一部は、日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトの一環で熱中症セルフチェック(https://www.netsuzero.jp/selfcheck)としてコンテンツ開発し、広く一般の方にも活用されています(2017年4月25日プレスリリース)。
暑熱順化前の熱中症リスクの増大に関しては、搬送者の増加などから説明されてきました(消防庁)。また、汗のかき始めが遅く、汗の量も少ないことも知られていました。一方、暑熱順化に関連する学術的報告は多くはなく、暑熱順化による体温変化を示した例はありませんでした。山崎ら(2007)は、暑熱順化により変化するのは発汗が開始される体温が低くなり、体温と発汗量の比例関係は変わらないことを示していました。また、Inoueら(1999)は、暑熱順化によって単一汗腺あたりの発汗量が増加することを実験により確認していました。
新規性
今回、名古屋工業大学研究グループ(平田晃正教授、神谷俊樹(大学院生)、長谷川一馬(大学院生)、小寺紗千子特任助教)では、既存実験の結果と比較することにより、暑熱順化前は深部における温度知覚センサー、皮膚の温度知覚センサーの動作が遅れ、それぞれが0.1-0.2℃、1-1.5℃上昇して初めて作動することで再現できることを推定、暑熱順化前、後のヒト温熱生理応答を高精度に再現する技術を開発しました。また、暑熱順化前に運動した場合、順化後に比べて必要な活動代謝量が多く、このことが高い体温上昇につながることもわかりました。なお、北見工業大学は、太陽光の吸収の高分解能化を実現、より現実に近い太陽光ばく露を実現させました。これまで培ってきた技術と合わせ、この時期特有の熱中症リスクを、運動・室内などの様々なシーンで高精度に評価することが可能となりました。
気象データと解析例
図1(b)は、2017年度の東京における最高気温およびその時の湿度を示した図です。図から、梅雨明け前でも、梅雨明け後と同等の気温、湿度になる日が散在することが確認できます。次に、図2は、東京における2017年6月19日、7月3日の気象を模擬して、暑熱順化している人としていない人が軽装でいる場合の体温変化を解析した例です。最初の例(6月19日)では、最高気温29℃、湿度40%の環境で、軽微な運動(日常生活における歩行や階段の昇降など)を1時間行った場合、暑熱順化後は体温上昇が0.5℃であるのに対し、暑熱順化前は1-1.1℃の上昇となります(図2(a)参照)。2番目の例(7月3日)では、最高気温31℃、湿度61%の環境で安静な状態で過ごした場合(3時間)、暑熱順化後の体温上昇は0.1℃未満と平温を保てるのに対し、暑熱順化前では0.3℃を超える上昇がみられました(図2(b)参照)。個人差もありますが、6月初めから梅雨明け数日は暑熱順化していない方も多く、注意が必要であると言われていますが(日本救急学会)、それを支持する結果が得られました。
今後の展望
本技術により、日本人の季節ごとに異なるヒトの生体応答を考慮した熱中症リスク評価が可能となりました。開発した技術を用いて、特に注意が必要となる梅雨の合間、梅雨明けの急激な気温変化による熱中症リスク増大の注意喚起を行っていく予定です。
謝辞
本研究の一部は、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点の支援によるものです。
参考文献
1.総務省消防庁, 熱中症による緊急搬送状況
2.山崎文夫, 生田智也, 曽根涼子, 産業医大誌, vlo.29, pp.431-438, 2007.
3.Y. Inoue, G. Havenith, W. L. Kenney et al., Int. J. Biometeorol., vol.42, pp.210-216, 1999.
4.日本救急学会, 熱中症診療ガイドライン2015.
本件に関するお問合せ
研究に関すること
名古屋工業大学電気・機械工学専攻 教授 平田晃正
Tel: 052-735-7916 E-mail: ahirata[at]nitech.ac.jp *[at]を@に置換してください。
広報に関すること
名古屋工業大学企画広報課広報室
Tel: 052-735-5316 E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp *[at]を@に置換してください。
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