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放射光を使ってミクロの糸球体を見る SGLT2阻害薬による糖尿病マウス糸球体1万個への作用を明らかとする

カテゴリ:プレスリリース|2018年10月17日掲載


 このたび、旭川医科大学内科学講座(病態代謝内科学分野)の滝山由美准教授の共同研究の論文がCell 誌 とLancet 誌の共同オープンアクセス誌 EBioMedicine に掲載されました。
Impacts of Diabetes and an SGLT2 Inhibitor on the Glomerular Number and Volume in db/db Mice, as Estimated by Synchrotron Radiation Micro-CT at SPring-8.
EBioMedicine 36C (2018) pp. 329-346.
<URLアドレス https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352396418304079>

なお、共同研究機関は以下のとおりです。
 ・名古屋工業大学 大学院工学研究科 教授  中村 匡徳
 ・九州大学大学院 工学研究院    准教授 世良 俊博
 ・公財)高輝度光科学研究センター

内容詳細

 日本の糖尿病患者は現在1000万人、そのうちの30%が合併症である糖尿病腎症を患います。2016年の最新の報告では、人工透析を始めた方の43.2%が糖尿病で、この年、糖尿病患者1万7000人が人工透析となりました。
 新しい糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬は、最近の大規模臨床試験の結果、糖尿病患者における腎症の進行を抑えることがわかりました。腎臓の糸球体は、体の中の老廃物を濾過する重要な働きをしております。ヒトでは一つの腎臓に100万個ありますが、糸球体の大きさは100ミクロン程と小さいため、現在の画像検査では観察は不可能です。生体検査によって組織を採取し、初めて観察が可能となりますが、糸球体10個程度が限界です。糸球体の数と大きさが、糖尿病では、どうなっているのか?それを知ることは、糖尿病の治療と腎症の進行度を予測する上で、大変重要なことです。

2.研究手法と成果
 2003年、宇宙開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」の超微小粒子の分析を可能としたのが、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能大型放射光施設SPring-8です。そこで、SPring-8の放射光を用いれば、糸球体の可視化が可能ではないかと考えました。肥満2型糖尿病モデルマウスを用い、撮影方法・解析方法の開発を、九州大学、名古屋工業大学、高輝度光科学研究センターと共同で行いました。
 糖尿病マウスの糸球体は正常マウスと比べると、数は変わりませんが大きくなっていました。SGLT2阻害薬は、糖尿病による腎肥大を正常化しましたが、糸球体の数・大きさは変わりませんでした。大きく変わったのは、腎臓の90%以上を占める尿細管の大きさでした(全糸球体体積は、腎体積の1.5%未満)。SGLT2阻害薬の腎保護効果は、尿細管を標的としていることが明らかとなりました。

181017nakamura.jpg

図:SPring-8 BL20B2にて撮影したマイクロCT像と糸球体の3次元解析像

3.今後の展望
 糖尿病は、血糖が高くなることにより、全身の血管を障害する血管病です。SPring-8の放射光を用いたマイクロCTにより、マウス全身の血管撮影と解析を可能としました。現在、糖尿病と合併の多い脂肪肝、糖尿病患者の死亡原因第1位である癌について、その血管構造の変化、異常血管新生の研究を進めております。今後は、糖尿病とその合併症の病態をミクロ単位で明らかにすることにより、ヒトでの糖尿病の病態の理解を進め、新しい治療法と診断法の開発を目指します。

お問い合わせ先

本研究に関すること

旭川医科大学内科学講座(病態代謝内科学分野)
准教授 滝山 由美(たきやま ゆみ) [医局]TEL:0166-68-2454

広報に関すること

旭川医科大学総務部企画広報評価課    TEL:0166-68-2136
名古屋工業大学企画広報課        TEL:052-735-5004
九州大学広報室             TEL:092-802-2130


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