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含フッ素医薬品を用いる分子変換新技術を開拓:新しい医薬品の創出に期待

カテゴリ:プレスリリース|2018年10月22日掲載


 柴田哲男教授らは,身の回りに豊富に存在する含フッ素有機化合物を含ケイ素有機化合物に変換する新しい分子変換技術の開発に成功しました。本技術では,医薬品,農薬,液晶など私たちの日常生活で幅広く使用されている含フッ素有機化合物を選択的に含ケイ素有機化合物に変換することが出来ます。本技術により,これまでほとんど研究の進んでいなかった含ケイ素医薬品や含ケイ素農薬といった新しい分野の開拓研究に拍車がかかると期待出来ます。本研究成果は,2018年10月22日(日本時間18時)に科学誌「Nature Communications」のオンライン速報版で公開されます。

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背 景

 私たちの身の回りにある医薬品の2割から3割程度は含フッ素医薬品です。例えば,高脂血症薬リピトールや抗菌薬シタフロキサシンなどが代表例です。市販されている農薬でも含フッ素農薬は3割以上を占めるといわれています。さらに,現在開発途上にある医薬品や農薬も含めると,薬物活性を示す半分近くの有機物質にフッ素が含まれるといえます。また,テフロン製品やスマートフォン,液晶テレビにも有機フッ素化合物が使用されています。このような現状を踏まえると,私たちの身の回りは,様々な種類の有機フッ素化合物に溢れているということになります。
 ではなぜ,このようにフッ素化合物が多くの製品に使用されているのでしょうか。その理由の一つにフッ素化合物の高い安定性が挙げられます。炭素―フッ素結合は炭素が作りうる単結合の中で最も強い結合です。そのため,くすりとして用いた場合には,からだの中では代謝されにくく,また材料として用いた場合には,空気や日光などによって分解を受けにくいのです。
 このような現状から,フッ素化合物を創り出す研究が盛んに行われています。ところが最近になって,逆に,このように様々な種類の有機フッ素化合物が身の回りにあることに着目し,有機フッ素化合物を用いて,ものづくりの材料に利用しようとする新しい試みが盛んになってきています。しかしながら,前述したように,炭素―フッ素結合を他の部品に変換するには,とても大きなエネルギーが必要です。そのため,有機分子自体が炭素―フッ素結合の切断時に耐えることが出来ずに分解してしまいます。他の部分を傷つけず,炭素―フッ素結合のみを選択的に変換することは,簡単なことではありません。

内 容

 柴田教授らは,含フッ素医薬品の化学構造に多く見られるフルオロアリール類やフルオロアルカン類の強固な炭素―フッ素(C-F)結合をニッケル触媒下で切断して,新しく炭素―ケイ素(C―Si)結合に選択的に変換する新技術を見出しました。炭素―フッ素結合は,炭素が作りうる単結合の中で最も強い結合であり,その結合エネルギーは513 KJ/molです。一方,炭素―ケイ素結合は,447 KJ/molであります。そのため丈夫な炭素―フッ素結合を切断して,やや脆い炭素―ケイ素結合を作るという分子変換は,一筋縄では進行しないことが容易に想像出来ます。しかも,反応系にフッ素とケイ素が同時に存在するため,化学結合の中でもひときわ強力で安定なフッ素-ケイ素結合(576 KJ/mol)が,炭素―フッ素結合の切断過程に伴い,優先して生成することが懸念されます。今回,柴田教授らの見出した炭素―フッ素結合を炭素―ケイ素へと選択的に変換する技術は実に画期的で,これまでに成功例はありませんでした。

 反応のからくりは次のように説明できます。まず,有機フッ素化合物を,ニッケル触媒の存在下で,ホウ素-ケイ素化合物と作用させます。この際,炭素―フッ素結合はケイ素ではなく,ホウ素とニッケルの共同作業によって切断されます。残ったケイ素は,フッ素が切断された炭素上に導入されるというわけです。
 そもそもケイ素はフッ素と高い親和性をもつため,両者が共存すると,容易にフッ素―ケイ素結合を生じます。そのため,炭素―フッ素を切断する手段として,ケイ素化合物を用いるのが一般的です。一方,柴田教授らの技術は,フッ素―ケイ素結合の生成を伴う炭素―フッ素結合の切断ではなく,選択的に炭素―ケイ素結合に変換するという常識を打ち破った分子変換技術といえます。

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 本技術は,身の回りにある含フッ素医薬品や含フッ素液晶を含ケイ素化合物に選択的に変換する独創的プロセスです。この研究成果により,これまであまり研究のされていなかった含ケイ素医薬品の開発研究に一層の拍車がかかると期待されます。
 本研究成果は,崔 本强(大学院生,名古屋工業大学),賈 師充(大学院生,名古屋工業大学)、徳永恵津子(研究員,名古屋工業大学)らの協力を得て行ったものです。また,本研究は,日本学術振興会 科学研究費 基盤研究B, 新学術領域研究「反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製」,公益財団法人 旭硝子財団等の支援を受けて実施しました。

 本研究成果は,2018年10月22日(日本時間18時)に科学誌「Nature Communications」のオンライン速報版で公開されます。

<発表論文情報>
論文名:Defluorosilylation of fluoroarenes and fluoroalkanes
発表雑誌:Nat. Commun. 2018, 10.1038/s41467-018-06830-w
著者:B. Cui, S. Jia, E. Tokunaga, N. Shibata*(*責任著者)

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科
教授 柴田哲男
Tel: 052-735-7543
E-mail: nozshiba[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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