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互いに協調し進化する人工知能システムで多数の複雑な界面の安定構造を同時に超高速探索する新手法を開発

カテゴリ:プレスリリース|2018年11月27日掲載


本学大学院工学研究科情報工学専攻の烏山昌幸准教授と物理工学専攻の田村友幸助教らを中心とする研究グループは,互いに協調作業する複数の人工知能と物理計算シミュレーションを組み合わせ,結晶粒界と呼ばれる原子スケールの構造の安定状態を発見するシステムを開発しました。人工知能は蓄積されたデータから統計的に予測し,より安定性の高い構造を大量の候補から自動的に見出します。結晶粒界は全固体電池をはじめ多くの実用材料に現れる極めて重要な構造であり,この研究は次世代材料開発のプロセスを高度に加速する新たな試みとして位置付けられます。論文の検証では,網羅的な調査に比べて0.3%ほどの時間的コストでほぼ最安定な構造が発見できることが示されました。本研究の成果はPhysical Review Materials誌第2号に掲載されました。

研究メンバー:
大学院工学研究科情報工学専攻: 烏山昌幸准教授(科学技術振興機構さきがけ研究員,物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 特別研究員を兼任)
大学院工学研究科情報工学専攻: 米津智弘 博士前期課程2年
大学院工学研究科物理工学専攻: 田村友幸助教(物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 特別研究員を兼任)
大学院工学研究科情報工学専攻: 竹内一郎教授(理化学研究所革新知能統合研究センター・データ駆動型生物医科学チーム・チームリーダー,物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 特別研究員を兼任)


結晶粒界(以下粒界)とは向き(角度)の異なる結晶粒同士が接して作る境界面であり,現実の材料にはこのような構造が頻繁に現れます。例えば近年,電気自動車関連事業を始め高い注目を集める全固体電池では,固体電解質の粒界構造が電池としてのパフォーマンスに大きく影響すると言われています(図1)。全固体電池に限らず,このような境界面における物理的な性質の変化を調べることは実用上とても重要ですが,材料の中でどのような粒界面が現れるかを事前に調べるのは,とても難しいとされてきました。図1のように,回転角を変えながら,それぞれでどのような面の位置が安定かをシミュレーション計算で評価することができますが,調べるべき候補は膨大であり,ときには何十万回以上のシミュレーション計算が必要になってしまいます。

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図1:粒界の構造探索問題。材料の実用的なパフォーマンスを知るためには,どのような粒界が現れるかを知ることが鍵になります。従来は,角度を変えながら網羅的な調査をしていましたが,調査候補の膨大さからそのようなやり方には限界がありました。


図2は本研究で開発したシステムのイメージ図です。多様な回転角について,観測されたデータをもとに,人工知能が候補となる構造を推薦します。色々な角度の情報を人工知能が共有して解析を行うことが大きな特徴であり,一つずつ安定構造を探す既存の研究と大きく異なる部分です。データを共有することで,人工知能はより精度の高い提案を早い段階で行うことができるようになります。また,粒界シミュレーションは時間的コストに大きなばらつきがあるため,人工知能が賢くない段階でいきなり大きな粒界に手をつけることはリスクが高くなります。そこで,かかるコストを考慮してコストパフォーマンスが良いものから順に進めていく戦略を考案しました。このようにすると,コストの高い計算は人工知能がより賢くなり強く自信を持った後に行われるため,探索を最大限加速できます。

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図2:提案した人工知能システムの概念図。多様な角度で得られた情報(データ)を複数の人工知能が共有し,安定な粒界構造を推薦します。さらに,時間的コストを考慮して最大限のコストパフォーマンスで探索を実行します。


論文ではアルミニウムが作る粒界のデータを使い,提案したシステムが網羅的な調査に比べて0.3%程度の時間的コストでほとんど最安定に近い状態に到達することを確かめました。図3は横軸が回転角,縦軸が粒界エネルギーで, 縦軸の粒界エネルギーが小さいほど安定性が高いことを意味します。回転角を綺麗な結晶(0度)から変えて境界面を作っていくと,粒界エネルギーが不規則に変化しています。提案したシステムは網羅調査の0.3%程度のコストしかかけていないのにかかわらず,ほぼ最安定なエネルギーを検出していることがわかります。世界的な競争激化が進む次世代材料の開発において,材料中に生成される粒界の解析は最重要課題であり,人工知能と物理計算シミュレーションという情報科学ツールを最大限活用して超高速な探索を実現する本研究は大きなブレイクスルーを生む可能性があります。

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図3:人工知能探索の効率評価。この検証では約16万個の候補構造に対して,人工知能は網羅的な調査の0.3%ほどの時間的コストで図の赤線の状態に到達しました。


研究の技術的説明:
本研究では,ベイズ最適化と呼ばれる統計科学的な考えに基づく人工知能技術を使っています。ベイズ最適化では,過去に得られた観測から未観測のデータに関して確率的な推論を行います。今回は,すでに調査した粒界の安定性の情報を基にして,まだ調べてない粒界がそれまでのものより,どの程度安定性を向上するかを確率的に予測しています。 多様な角度の粒界を調べる場合,通常は回転角ごとにデータを収集し,安定性の高いものを探します。一方で,異なる回転角にも結晶の構造的な類似性があり,人工知能はその類似性を手掛かりに推論の精度を向上させることができます。このように,異なるタスクをまたいで人工知能に知識を共有させる方法はマルチタスク学習と呼ばれます。またさらに,全体のコストパフォーマンスを向上するためには,始めに取得コストの低い情報を集めて予測の精度を高め,その後,取得コストの高い粒界を調べる戦略が考えられます。これらの考え方を組み合わせた,コスト考慮型マルチタスクベイズ最適化法を構築しました。

Knowledge-transfer-based cost-effective search for interface structures: A case study on fcc-Al [110] tilt grain boundary.
Tomohiro Yonezu, Tomoyuki Tamura, Ichiro Takeuchi, and Masayuki Karasuyama.
Physical Review Materials, vol 2, no. 11, 2018.
URL: https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevMaterials.2.113802
DOI: 10.1103/PhysRevMaterials.2.113802

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 情報工学専攻(科学技術振興機構さきがけ研究員,物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 特別研究員を兼任)
准教授  烏山 昌幸
Tel: 052-735-7598
E-mail: karasuyama[at]nitech.ac.jp

名古屋工業大学大学院工学研究科 物理工学専攻(物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 特別研究員を兼任)
助教 田村 友幸
Tel: 052-735-5048
E-mail: tamura.tomoyuki[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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