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電波利用枠を創り出す、同一周波数電波を見分ける新材料!

カテゴリ:プレスリリース|2019年01月28日掲載


発表のポイント

• 同じ周波数でも、電波波形(パルス幅)に応じて振舞いを変化させる新材料「波形選択メタサーフェス」を世界で初めて報告
• 上記材料は電気的(システマティック)に制御でき、既存の電磁問題に応用することで新たな自由度に基づき柔軟に解決できることも実証
• 近年の無線通信に対する需要の高まりに伴いひっ迫する電波利用枠を拡張できると期待

概要

 電磁(電波)材料はアンテナなどマイクロ波通信デバイス等とともに使用され、電波環境を適切に設計する上で重要な役割を果たしている。今回、名古屋工業大学と米国カリフォルニア大学サンディエゴ校などから構成される国際研究チームは、同一周波数でも特定の電波波形に応じて振舞い(反射、透過など)を変化させる新規電磁材料「波形選択メタサーフェス」を世界で初めて開発した(図1)。本材料は人工周期構造の一つに分類され、このような材料は過去百年に渡り周波数選択性(Frequency Selectivity)を持つ材料として開発・応用されてきた。これに加え、本研究で発表された材料は波形選択性(Waveform Selectivity)を有し、電磁材料の特性を二次元的に展開することに成功した。さらに当該材料の振舞いは周辺電磁界などの状況に応じて電気的(システマティック)に制御することができ、金属筐体の共振現象など既存の応用問題に導入することで新たな自由度に基づき柔軟に解決できることも実証した。本材料はとりわけ通信分野への応用が期待され、既存のマイクロ波通信デバイスなどに用いることで、社会的な需要の高まりにともなって枯渇状況にある周波数資源(電波利用枠)の拡張に貢献できると考えられる(図2)。本研究成果は欧州科学誌「Advanced Functional Materials」(Impact Factor: 13.3)より1月28日に出版され、Video Abstractとしても紹介される。

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図1. (左)従来材料は周波数の違いに応じて振舞いを変化.(右)波形選択メタサーフェスは同一周波数でも波形(パルス幅)の違いを認識し,振舞いを変化.

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図2.波形選択メタサーフェスによる周波数資源(電波利用枠)の拡張イメージ.新たに創出される周波数資源は災害など非常時の緊急連絡用などにも活用できると期待.

研究の背景

 従来、自然界に存在する材料の電波に対する振舞い(電磁応答)は周波数に応じて大きく変化するものと理解されてきた。これを言い換えると、「周波数が固定された場合の各材料の振舞いは常に一定」と考えられてきた。また、これら材料の電磁応答は各材料を構成する分子の振舞いによって決定されるものの、一般的に分子の大きさはオングストローム(Å:10のマイナス10乗メートル)スケールと極めて微小である。従って、人工的に分子の振舞いを制御して所望の電磁応答を作り出すことは容易ではなかった。一方、金属(導体)は強く電波に応答することに着目し、百年程前から金属を繰り返し配置した材料が利用されてきた(図3左)。この人工周期構造と呼ばれる材料では任意に金属の形状を変えることで、容易に到来電波に対する振舞いを変えることができた。しかしながら、人工周期構造も周波数に応じて大きく電磁応答を変化させるものの、同一周波数上の異なる電波を選別することはできなかった(上記、下線部の制約を受ける)。これに対し、2013年12月および2015年4月に本研究チームは人工周期構造の一種であるメタサーフェスにダイオードなどの回路素子(図3中央)を導入することで、同一周波数でも波形、すなわちパルス幅と呼ばれる新たな概念に基づいて特定の電波のみ吸収し、電磁干渉を抑制する材料を開発していた(Physical Review Letters誌などで発表、Nature誌でも紹介)。

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図3.(左)人工周期構造に(中央)回路素子を導入することで波形選択メタサーフェスを実現.(右)今回開発された波形選択メタサーフェスの例.

研究の内容・成果

 今回開発された材料(図3右)では電磁応答の操作を吸収だけでなく、反射や透過(図4)など一般的な散乱現象の操作まで拡張できることを世界で初めて実証した。その結果、より汎用的な電磁問題への応用が可能となっただけでなく、電磁材料研究の観点からは周波数に応じて変化させる周波数選択性(Frequency Selectivity)と、波形に応じて変化させる波形選択性(Waveform Selectivity)の2つの自由度に基づいて、電磁応答を二次元的に展開することに成功した。加えて、今回の発表は材料周辺の電磁界に応じて電気的に(システマティックに)振舞いを制御できることも実証した。これによって、例えば無線通信システムなどと連動しながら電磁応答を操作できるようになった。さらに当該材料を既存の電磁問題へと応用することで新たな自由度(パルス幅)に基づき柔軟に解決できることも実証した。具体的には外部電磁界の影響を強く受ける金属筐体の電磁干渉問題(図5)において、一般的な電波(パルス幅の長い電波)を遮断しながら、パルス幅の短い電波信号のみ金属筐体固有の共振現象を利用して、より外部遠方へと伝搬できることを示した。

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図4.入射,反射,透過,吸収の違い.

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図5.(左)金属筐体における電磁干渉問題.金属筐体はその物理寸法に応じて共振.わずかな開口部が存在するだけで,金属筐体内部では外部よりも強い電磁界にさらされて電子機器などの動作へと影響.(中央)波形選択メタサーフェスを導入することで外部からの電波を遮断.(右)同時に,任意パルスのみ透過させることで,内部の電子機器を守りながら外部と効率的に通信可能(筐体固有の共振現象を利用し,より遠くまで信号を伝搬可能)

社会的な意義

 本材料は無線通信分野へと応用することで、とりわけ有用性を見出すことができる。これは「周波数資源(電波利用枠)の枯渇問題」(図2)への新たなアプローチになると考えられるためである。なお、この問題は総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)などを通し、毎年100億円超の研究開発費を投じて早期解決を目指す、我が国の重要課題の1つである。ここで、既存の電波利用枠は「周波数」という1つのパラメータに基づいて各通信アプリケーション(テレビ、スマートフォン、WiFiおよびBluetooth機器、気象レーダなど)に割当てられている。しかしながら、近年の無線通信技術に対する急速な需要の高まりにともなって、電波利用枠は既存のアプリケーションによってほぼ占有されている状況にある。これに対し、本材料は同一周波数であってもパルス幅に応じて選択的に電波信号を反射、透過させ、特定の電波のみ受信することができる。実際に本研究チームによる2015年4月の報告では波形選択メタサーフェスの吸収作用によって不要なパルスを取り除き、同一周波数でも特定のパルスを選択して通信できることを示していた。ここから、同一周波数資源をパルス幅毎に切り分けて共有することができれば、電波利用枠は「周波数」と「パルス幅」の2つのパラメータによって二次元的に(飛躍的に)拡張できると期待される。拡張された周波数資源は災害など非常時の緊急連絡用の通信などにも活用できると考えられる。さらに、波形選択メタサーフェスは新たな電波利用の形を創造するだけでなく、既存のアンテナなどの設計に用いることで、波形に応じて特性変化させるマイクロ波通信デバイスの開発へと貢献し、新たな産業分野を切り開く可能性を秘めている。

特記事項

本研究の一部は総務省戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)の委託、ならびに文部科学省科学研究費補助金(若手研究A)の助成を受けて実施されました。

用語解説

*1 周波数:一秒間に振動する回数。単位はヘルツ(Hz)(図6左参照)。
*2 パルス幅:電波の励振時間(図6右参照)。

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図6.(左)周波数の異なる電波.(右)パルス幅の異なる同一周波数電波.

*3 マイクロ波:数GHz帯の電波。G(ギガ)は10の9乗。
*4 人工周期構造:電波波長よりも小さな金属を周期的に配置し、人工的に製作された材料(図3左参照)。古くは百年程前にノーベル物理学賞受賞者でもあるイタリア人無線通信研究者マルコーニらの特許(米国、1919年)によって報告。その材料の軽量さと設計における簡便性などから1960年代以降に研究が活発化。2000年以降も負の屈折率など風変わりな電磁応答が発見され、透明マントの開発など応用研究にも利用。
*5 周波数資源:電波利用枠。各種無線通信サービス(テレビ、スマートフォン、WiFiおよびBluetoothデバイス、気象レーダなど)は周波数資源を割り当てられることで利用できるようになる。ただし、無線通信技術に対する需要の高まりにともなって、近年は新たに割り当てすることが困難。周波数資源の枯渇問題は、総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)や電波資源拡大のための研究開発を通して毎年100億円超の研究開発費を投じて早期解決を目指す、我が国の重要課題の1つ(参考:総務省 電波利用ホームページ https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/fees/purpose/kenkyu/)。

論文情報

論文名:Waveform Selective Surfaces
著者名:H. Wakatsuchi (名古屋工業大学、准教授)
    J. Long (米国スカイワークス・ソリューションズ、博士)
    D.F. Sievenpiper(米国カリフォルニア大学サンディエゴ校、教授)
掲載雑誌名:Advanced Functional Materials
公表日:2019年1月28日
DOI:10.1002/adfm.201806386
URLhttps://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/adfm.201806386
Video Abstract:https://youtu.be/3uJ5QK0PR0k

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学 大学院工学研究科
電気・機械工学専攻 准教授 若土弘樹
Tel: 052-735-5504
E-mail: wakatsuchi.hiroki[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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