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電場による磁石極性の反転に成功 ―次世代低消費電力磁気メモリー実現の道拓く―

カテゴリ:プレスリリース|2019年02月07日掲載


東京工業大学
九州大学
名古屋工業大学

要点

〇磁場を用いず、電場のみで磁石極性を反転する事に成功
〇酸化物薄膜を用い、走査プローブ顕微鏡で観測
〇次世代低消費電力磁気メモリーへの応用に期待

概要

 東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の清水啓佑大学院生(当時、現同大学博士研究員)、東正樹教授、大場史康教授、同大学元素戦略研究センターの熊谷悠特任准教授(当時)、九州大学大学院総合理工学研究院の北條元(はじめ)准教授、名古屋工業大学大学院工学研究科の壬生攻教授らの研究グループは、磁石の性質(強磁性:用語1)と電気を蓄える性質(強誘電性:用語2)が共存したセラミックス結晶について、室温で電場により磁石の極性を反転(磁化反転)させることに成功した。電場による磁化反転は次世代磁気メモリー実現の鍵として注目されていながらも、これまでに室温で実証されたことはなかった。
 同研究グループは強磁性と強誘電性が共存した「コバルト酸鉄酸ビスマス」を薄膜形態で安定化させ、その磁気ドメイン(用語3)と強誘電ドメイン(用語4)の構造を走査プローブ顕微鏡(用語5)で調べた。その結果、両ドメインの構造は類似しており、強磁性と強誘電性には相関が存在することが明らかとなった。さらに走査型プローブ顕微鏡の探針を用いて電場を印加し、電気分極を反転させることにより、磁化の方向を反転させることに成功した。電場により制御可能な低消費電力の磁気メモリー実現につながる成果と期待される。
 同研究グループには東工大の川邊諒大学院生、清水陽樹大学院生、山本孟大学院生(いずれも当時)、勝俣真綸大学院生、重松圭助教が参画した。
研究成果は米国化学会誌「Nano Letters(ナノレターズ)」のオンライン版で2月7日(日本時間)に公開される。

研究の背景

 スマートフォンの普及やビッグデータなどによる情報処理量の爆発的な増大に伴う、情報通信機器の消費電力が問題になるなかで、低消費電力・高記録密度・不揮発性の次世代メモリーデバイスへの要求が高まっている。こうした観点から注目されるのが、強磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイック物質(用語6)である。
 強磁性と強誘電性の相関が十分に強く、電場によって磁化方向を反転することができれば、磁場発生のための電力が不要となる。このため、不揮発性・高安定性という現在の磁気メモリーの特徴を生かしつつ、低消費電力・高記録密度かつ簡易な素子構造を有する次世代磁気メモリーの実現が期待される。

研究成果

 これまでに九州大学の北條准教授、東京工業大学の東教授らは、室温で強磁性と強誘電性が共存したコバルト酸鉄酸ビスマスを、薄膜形態で安定化させることに成功している(図1)。しかしながら、磁化の方向が薄膜の面内方向を向いていたために、通常の走査型プローブ顕微鏡を用いて磁気ドメインを観察することは困難であり、強磁性と強誘電性の相関を調べることはできなかった。
 今回、薄膜を成長させるための基板の種類および薄膜の成長する方向を工夫することにより、薄膜試料の磁気ドメインを観察することに初めて成功した。同一視野において強誘電ドメインと比較することにより、強磁性と強誘電性には相関が存在することが明らかとなった。さらに走査型プローブ顕微鏡の探針を用いて電場を印加し、電気分極を反転させることで、磁化の方向を反転させることに成功した(図2)。

190207Mibu1.jpg

図1:コバルト酸鉄酸ビスマスの磁気構造の模式図。スピンが傾斜しているため、磁化は打ち消し合わずに、自発磁化が電気分極に直交した方向に現れる。

190207Mibu2.jpg

図2:電気分極反転前(上)と電気分極反転後(下)のコバルト酸鉄酸ビスマス薄膜の室温における圧電応答顕微鏡像(左)と磁気力応答顕微鏡像(右)。それぞれ、強誘電ドメイン構造と磁気ドメイン構造に対応する。色は、それぞれ電気分極の薄膜面内成分および磁化の薄膜面外方向の成分を表している。上左図の強誘電ドメインが寒色であることは、電気分極の面外成分が紙面の奥方向を向いていることに対応する。下左では電気分極の方向が反転したため、強誘電ドメインの色が暖色に変化している。また、右上下を比較すると、電気分極の反転により、磁化の面外成分が反転していることがわかる。

今後の展開

 今回の成果は新しい磁気メモリー実現のための鍵といわれてきた、室温での電場による磁化反転を実験的に証明したものである。電場により制御可能な低消費電力の磁気メモリー実現のための道を拓いた成果といえる。鉄酸ビスマスをベースとしたマルチフェロイック物質の開発に拍車がかかるものと期待される。

付記

 本研究の一部は、神奈川科学技術アカデミー・戦略的研究シーズ育成事業「革新的環境調和機能性材料創出」(代表・東正樹東京工業大学教授)、文部科学省・科学研究費助成事業・基盤研究A「ビスマス・鉛ペロブスカイトのs-d軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開」(代表・東正樹東京工業大学教授)、若手研究A「分極回転:巨大な圧電応答の設計と実現」(代表・北條元九州大学准教授)、旭硝子財団若手継続グラント「Bi系マルチフェロイック薄膜の磁気構造制御と電場による磁化反転の実現」(代表・北條元九州大学准教授)、文部科学省・ナノテクノロジープラットフォームの援助を受けて行った。

用語説明

(1)強磁性:電子は自転に例えられるスピンと呼ばれる内部自由度をもち、2つの状態(例えば上向きと下向き)をとる。隣り合う電子のスピンが同じ方向を向いて整列した状態を強磁性状態と呼ぶ。
(2)強誘電性:電界(電圧を、その電圧が印加されている試料の厚みで割ったもの)を印加されていない状態でも電気分極(物質中で陽イオンと陰イオンの重心がずれていることから生じる、電荷の偏り)を持ち、かつ外部電界の向きに応じて電気分極の向きを可逆的に反転できる性質のことを強誘電性と呼ぶ。
(3)磁気ドメイン:磁区とも呼ばれ、各磁性原子のもつ電子スピンの向きが  揃った区域のことを指す。
(4)強誘電ドメイン:電気分極の向きが揃った区域のことを指す。
(5)走査型プローブ顕微鏡:先端を尖らせた探針を用いて、物質の表面およ  び表面近傍をなぞるように走査することで物質表面についての情報を得る顕微鏡のこと。探針の種類および走査方法を変更することで、強誘電ドメインの構造を調べる圧電応答顕微鏡、強磁性ドメインの構造を調べる磁気力応答顕微鏡として使用することができる。
(6)マルチフェロイック物質:一般に、複数の強的秩序を有する物質のことを指す。狭義では、強磁性と強誘電性の2つの強的秩序を有する物質を指す。

掲載誌:Nano Letters
タイトル:Direct observation of magnetization reversal by electric field at room temperature in Co-substituted bismuth ferrite thin film
著者:Keisuke Shimizu, Ryo Kawabe, Hajime Hojo, Haruki Shimizu, Hajime Yamamoto, Marin Katsumata, Kei Shigematsu, Ko Mibu, Yu Kumagai, Fumiyasu Oba, and Masaki Azuma
DOI:10.1021/acs.nanolett.8b04765

問い合わせ先

本研究全般に関すること

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 東 正樹
E-mail: mazuma[at]msl.titech.ac.jp
TEL: 045-924-5315、080-4402-5315
FAX: 045-924-5318

九州大学大学院 総合理工学研究院
准教授 北條 元
E-mail: hojo.hajime.100[at]m.kyushu-u.ac.jp
TEL: 092-583-7526
FAX: 092-583-8853

名古屋工業大学大学院 工学研究科
教授 壬生 攻
E-mail: k_mibu[at]nitech.ac.jp
TEL: 052-735-7904

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
E-mail: media[at]jim.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-2975 
FAX: 03-5734-3661

九州大学広報室
E-mail: koho[at]jimu.kyushu-u.ac.jp
TEL: 092-802-2130
FAX: 092-802-2139

名古屋工業大学 企画広報課広報室
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