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マイクロ波特異反応場を利用することにより原子レベルで表面制御された可視光応答性酸化チタン光触媒の開発に成功 ―特異な化学表面構造を持つ機能性金属酸化物の新たな合成手法に道拓く―

カテゴリ:プレスリリース|2019年03月20日掲載


発表のポイント

〇 マイクロ波特異反応場を利用することにより、金属チタン粒子をターゲットとしてわずか十数秒のマイクロ波磁場照射により表面の化学構造が原子レベルで制御された酸化チタンを合成することに成功
〇 合成中の雰囲気を変化させた際のマイクロ波磁場加熱中における金属チタン粒子表面の特異酸化メカニズムを解明
〇 可視光域で非常に高い光応答性と触媒活性を示す光触媒への応用に期待

概要

 名古屋工業大学大学院 工学研究科 生命・応用化学専攻 先進セラミックス研究センター所属の加藤邦彦大学院生、辛韵子特任助教、白井孝准教授は、原子レベルでよく表面制御された「可視光応答性酸化チタン(TiO2)光触媒」のワンステップかつ短時間合成手法の開発に成功した。気―固相反応による合成法において、よく濃度制御された欠陥を粒子表面に選択的かつ迅速に形成させる技術は類を見ない。
 同研究グループは、マイクロ波磁場照射により誘起される特異反応場を利用した金属の酸化反応により粒子表面に欠陥種(低価数イオンTi3+および酸素欠陥)を選択的に形成させたTiO2を合成し、その表面化学構造およびに可視光応答性、光触媒活性を調査した。その結果、合成したTiO2が可視光全域で高い吸収特性と非常に狭いバンドギャップを示した。さらに、可視光照射下における色素(ローダミンB)の分解実験において、一般的に低活性であると認識されているルチル型結晶かつ市販高活性光触媒の100倍以上の粒子サイズであるにもかかわらず優れた光触媒活性を示すことを明らかにした。化学表面の詳細な評価・解析により、粒子最表面への高濃度欠陥の選択的形成により光触媒活性効率の低下を引き起こす光励起キャリアの再結合が抑制されるとともに、マイクロ照射時に流入させる混合ガス中の酸素量の違いによって異なる生成メカニズムを有することが示唆され、マイクロ波が誘起する熱履歴がその特異な化学表面・粒子構造の形成に寄与していることを明らかにした。
 本技術はグリーンプロセスを用いた高効率な可視光応答性TiO2光触媒生産拡大に大きく貢献するだけでなく、特異な化学表面を有する酸化物を短時間かつ容易に合成することができるため、これまでにない機能性を持った材料開発の可能性を拓くものである。なお、本技術の詳細は、2019年3月20日(英国時間)にイギリスのオープンアクセスジャーナルである Scientific Reports誌にオンライン掲載される。(URL:www.nature.com/articles/s41598-019-41465-x

190320Shirai1.jpg図1. 還元性酸化チタンのバンドギャップ制御と可視光光触媒反応プロセス

研究の背景

 現在、全世界的に環境問題に対する関心が高まる中、持続可能でありふれた"光"を用いることによる技術の確立が求められている。光触媒は光を吸収することにより通常の触媒プロセスでは進行困難な化学反応を常温で引き起こすことができる環境浄化材料として注目されており、無毒で高い熱的安定性及び光触媒活性を有することから酸化チタン(以下TiO2)が現在広く用いられている。利用範囲拡大のため蛍光灯などの室内光でも機能を発揮する「可視光応答性光触媒」の研究開発がこれまで盛んに行われており、中でも低価数イオンであるTi3+や酸素欠陥を多く含む還元性TiO2が高い可視光吸収特性と光触媒活性を示すことが知られている。光触媒反応が物質表面で起こるという特性上、高い可視光応答性を発現させるためには粒子最表面における結晶格子の緻密な制御によるバンドギャップ(用語1)設計が要求される。現在合成に広く用いられているゾル-ゲル法や水熱合成法をはじめとした液相法では欠陥形成の空間的制御が非常に困難であるほか、その他の物理的・化学的表面改質手法を用いた場合でも合成工程が複雑かつ複数に渡り、高真空中や水素ガス中などで長時間熱処理を施すなど過酷な合成条件が必要であるといった実用上の問題点があった。
 我々の研究グループは、ワンステップかつ短時間・省エネルギーでの合成手法として、シングルモードマイクロ波(用語2)照射による金属の化学状態変化に伴うマイクロ波吸収特性の変化とその酸化挙動に世界で初めて着目した(図2)。マイクロ波磁場照射による非磁性金属の発熱機構はジュール加熱(用語3)であるとされているが、周りに存在するガスとの反応過程で酸化物に変化するとマイクロ波に対する応答性が著しく低下することにより、それまで発熱により急激に上昇していた温度が短時間で室温まで冷却される。この粒子レベルでの物質の物性変化をトリガーとした自発的な加熱スイッチングによって、大気圧下かつドライプロセスでの急速加熱・冷却が可能となり、そのような特異な熱履歴による複雑な表面欠陥構造を実現することができる。すでにシングルモードマイクロ波磁場照射により誘起される特異反応場を利用した非量論型酸化物の合成方法を確立しており、本研究では上述の合成手法によりマイクロ照射時に流入させる混合ガス中の酸素量を制御することにより生成されるTiO2の表面化学構造を制御することを試みた。

研究の成果

 前述の手法を用いることにより、金属チタン粒子をターゲットとしてわずか十数秒のマイクロ波磁場照射により目的の酸化物を合成することに成功した。また、マイクロ波照射時の不活性ガスと酸素の混合体積比(ΦO2)を変化させることにより酸化物表面の欠陥濃度を精密に制御できるだけでなく、可視光全域で高い吸収特性と非常に狭いバンドギャップを発現させることができることが明らかになった(図3左)。さらに同論文では、結晶および表面化学構造の詳細な評価・解析に基づき、表面化学構造が制御されたTiO2のマイクロ波照射中における生成メカニズムについて提案している。低ΦO2条件における合成では、マイクロ波照射により誘起される熱的非平衡場により、金属粒子から酸化チタンが形成する過程で、構造が完全に整う前に反応が終了するために高濃度のTi3+欠陥が表面に生成する。一方で高ΦO2条件では、急速冷却時の格子収縮過程で粒子表面に誘起される歪みによって結晶格子中に過剰量の侵入型酸素原子およびに酸素欠陥が同時に存在している特異表面が形成されることを明らかにした。以上の結果から、合成中の雰囲気制御により酸化物の生成機構が大きく異なることに起因して、欠陥種の制御や従来法では達成しえない特異な化学表面形成の制御に成功した。
 可視光照射下における色素(ローダミンB)の分解実験では、一般的に低活性であると認識されているルチル型結晶かつマイクロメートルオーダーの比較的大きな粒子であるにもかかわらず、100倍以上小さい粒子径を持つ市販の高活性酸化チタン光触媒よりも優れた光触媒活性を示した(図3右)。さらには、高濃度のTi3+欠陥が導入された生成TiO2の表面においてキャリア再結合(用語4)が抑制されることにより高い光触媒反応効率を示すことを明らかにした。

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図2.シングルモードマイクロ波照射による金属の化学状態変化に伴うマイクロ波吸収特性の変化とその酸化挙動

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図3.(左上)合成酸化物の可視光応答性、
(右上)可視光照射下における色素(ローダミンB)の分解実験による光触媒活性評価
(下)マイクロ波特異反応場における還元性酸化チタン形成メカニズム

今後の展開

 本手法はグリーンプロセスを用いた高効率な可視光応答性TiO2光触媒生産拡大に大きく貢献するものである。また、本手法は理論上あらゆる金属系材料をターゲットとして適用可能であり、特異な化学表面を有する金属酸化物を短時間かつ容易に作製することができることから、これまでにない機能性をもった材料合成の可能性を拓いていくことが期待される。

用語解説

用語1:バンドギャップ
光触媒の代表的な材料でおる酸化チタンは半導体であり、電気を通す金属とは異なり、価電子帯(電子が通常存在する領域)と伝導帯(電子が自由に動いて電気を伝えることができる領域)との間にエネルギーのギャップ(バンドギャップ)が存在する。酸化チタンに十分なエネルギーをもった光が当たると、電子が高エネルギーの状態となりバンドギャップを超えて価電子帯から伝導帯へと移動することができる(励起状態)。光のエネルギーは波長に依存するが、酸化チタンのバンドギャップエネルギーは3.0-3.2eVであり、このエネルギーは紫外線の波長(<400 nm)の光に相当する。
用語2:シングルモードマイクロ波
マイクロ波とは物質中の「電界」と「磁界」が非常に早く変化しながら伝播するエネルギーであるが、この「電界」・「磁界」成分を分離し単一場で加熱ができる「シングルモードマイクロ波照射装置」を用いた合成研究が近年盛んにおこなわれている。
用語3:ジュール発熱
マイクロ波磁場中に置かれた金属は、電磁誘導現象によって金属表面に非常に電流密度の高い電流(渦電流)が発生する。この渦電流が流れた際の抵抗によって発熱するが、これをジュール発熱という。
用語4:キャリア再結合
光触媒中で励起・生成する電子および正孔(キャリア)は強い還元力・酸化力をもち、それぞれ強力な酸化力を有する活性酸素ラジカルやOHラジカルを発生させる。通常これらの活性種によって様々な化学物質が分解されるが、欠陥にこれらの励起キャリアが束縛されてしまった場合、活性種を生成することなく電子と正孔が再び結合し消失してしまう。この現象を再結合という。

論文情報

論文名:Structural-Controlled Synthesis of Highly Efficient Visible Light TiO2 Photocatalyst via One-Step Single-Mode Microwave Assisted Reaction
著者名:Kunihiko Kato, Yunzi Xin, Takashi Shirai
掲載雑誌名:Scientific Reports
公表日:2019/3/20 (UK time)
DOI: 10.1038/s41598-019-41465-x

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科
生命・応用化学専攻(ながれ領域)
先進セラミックス研究センター
准教授  白井 孝
TEL&FAX:052-735-7536
e-mail : shirai[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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