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マイクロプラスチック問題に光明 - 木粉の化学修飾により機能性プラスチックの抽出に成功 -

カテゴリ:プレスリリース|2019年10月25日掲載


発表のポイント

・新規生分解性材料の開発、温室効果ガスの低減にも大きく貢献できる。

・セルロースの化学修飾(エステル化)を無溶媒で達成し、現在歯ブラシの柄に使用されているアセチルセルロース樹脂が合成できた(遅いながら生分解性を有する)。

・セルロース繊維(コットン:脱脂綿)を化学修飾(エステル化)すると繊維形状を維持したまま化学修飾が進行し、繊維の改質にも応用できる。

・粉末セルロースの代わりに木粉を用いて70度で15時間反応し、クロロホルムで抽出するとアセチルセルロースが選択的に得られた(収率11wt%、特許出願済み)。

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科 生命・応用化学専攻 教授の高須昭則と工学部 創造工学教育課程4年次の竹内涼風は、スカンジウムトリフラート[Sc(OTf)3]触媒を使って、無溶媒でセルロース粉末を化学修飾することに成功した(下図参照)。
 具体的には、セルロース粉末の水酸基に対して2倍量の無水酢酸と1mol%のスカンジウムトリフラート触媒を混ぜると室温5時間で工業的にも使用されているアセチルセルロースが合成できた。現在、工業的に行われているセルロースの化学修飾(エステル化)法では、濃硫酸を触媒に用いたり、過剰の酸塩化物(酸無水物では高い置換度を達成できない)を必要とし、遊離する酸で主鎖が分解したり、作業者に与える健康問題も抱えている。本研究では、水酸基の修飾率は90%を超えており、工業的に使用されているものと同レベルであることが確認できた。アセチルセルロースは、遅いながらも生分解性を有し、次世代のプラスチック材料として注目されている。本手法をセルロース繊維(コットン)に適応すると繊維形状を保ったままセルロース繊維をアセチル化できた。
 さらに、本技術を木粉の化学修飾にも応用展開している。粉末セルロースの代わりに木粉を用いて70度で15時間反応し、クロロホルムで抽出するとアセチルセルロースが選択的に得られた(収率11wt%、特許出願済み)。
 この成果の一部は、学術雑誌Polymer(インパクトファクター 3.8)に掲載されている(2019年10月21日)

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研究の背景

 プラスチック材料は、構造材料のみならずバイオ関連やナノデバイスの分野でもその重要性が再認識されてきた一方で、最近になり、世界的コーヒーチェーン店がプラスチックストローの使用を廃止するなど、世界規模でマイクロプラスチックなど高分子材料の廃棄に関する問題が深刻になってきた。また、昨今のマイクロプラスチック問題に加え、多発する災害により住宅などの木材廃棄物の処理問題が急務の課題になっている名古屋工業大学では、産業や社会ニーズを先取りした研究を指定し、研究推進のための経費を配分して独自に支援を行っている。

研究の内容・成果

 添付資料参照(PDF)

社会的な意義

 昨今のマイクロプラスチック問題に加え、多発する災害により住宅などの木材廃棄物の処理問題が急務の課題になっている。木材チップは火力発電などの燃料として使用されているが、粉じんの吸入ばく露による健康障害が原因で木粉の再利用は現在課題として残されている。木粉をプラスチックに混ぜて複合材料にする研究もおこなわれているが木粉それ自体を化学修飾する研究は世界レベルで例がない。

今後の展開

 マイクロプラスチック問題は、大学が積極的に取り組むべき現在の最優先課題である。アセチルセルロースを代表とするセルロースエステルは、生分解性を有し、耐侯・耐薬品性および電気特性に優れており、セルロース誘導体のなかでも最も優れている(年間生産量80万トン)。本研究課題で取り組むそのグリーンプロセス合成法は、令和のゲームチェンジングテクノロジーの礎になるとと同時に新規生分解性材料の開発に大きく貢献できる。

用語解説

■エステル化とは 
 カルボン酸RCOOHとアルコールとからエステルを生成する反応をいう。一般にはカルボン酸以外の酸のエステルを生成する反応や、酸無水物(今回の研究)、酸塩化物などがアルコールおよびフェノールと反応してエステルを生成する場合も含めている。
■アセチルセルロースとは 
 酢酸セルロースとも呼ばれ熱可塑性プラスチックのうち繊維素系に分類される樹脂で歴史の古い素材の一つ。天然の高分子材料であるセルロースを使うため、天然素材にこだわりのある製品等で使われる等最近注目されている(遅いながら生分解性を示す)。耐侯性に優れており、直射日光や紫外線下に長期間曝されても劣化ない。耐薬品性については繊維素系(セルロース誘導体)のなかでも最も優れている。電気特性も優れており、絶縁材料として使うことができ、主な用途としては、カーテン地、フィルム、シート、織物、コーティング用の膜、塗料等がある。
■木粉とは
 木材成分はおおよそセルロース50%、ヘミセルロース20%、リグニン30%である(樹種により異なる)。「おが粉」と「木粉」がよく混同されるが、一般に、木粉はおが粉よりもさらに小さく、1mm 以下の粒子サイズのものを指す。5mm以上の木材チップなどは、火力発電などの燃料として使用されているが、粉じんの吸入ばく露による健康障害が原因で木粉の再利用は現在課題として残されている。木粉をプラスチックに混ぜて複合材料にする研究もおこなわれているが木粉それ自体を化学修飾する研究は世界レベルで例がない。

論文情報

論文名:Facile Rare-Earth Triflate-Catalyzed Esterification of Cellulose by Carboxylic Anhydrides under Solvent-Free Conditions
著者名:Suzuka Takeuchi(竹内涼風)、Akinori Takasu(高須昭則)
掲載雑誌名:Polymer
公表日: 21 October 2019
DOI:URL https://doi.org/10.1016/j.polymer.2019.121916

参考図

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本研究のイメージ

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お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科
生命・応用化学専攻
教授 高須 昭則
TEL:052-735-5266
e-mail : takasu.akinori[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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