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発電と蓄電を同時にできる新技術を開発 -太陽光エネルギーを化学エネルギーで貯蔵する燃料電池-(※1)

カテゴリ:プレスリリース|2020年01月24日掲載


発表のポイント

〇 太陽光エネルギーを化学エネルギーとして貯蔵する新しい動作原理による「燃料電池」を開発。
〇 繰り返し使用が可能で、環境への低負荷と高い安全性。
〇 太陽光、風力、地熱等自然エネルギーの効率的利用と電力の安定供給の実現に有効な新技術。

概要

 本学大学院工学研究科生命・応用化学専攻の川崎晋司教授、石井陽祐助教らの研究グループは、太陽光エネルギーを化学反応により蓄積と放電する「光充電可能な燃料電池」という新しい発想の蓄電池を開発しました。
 従来の燃料電池は水素ガスを燃料としており、反応時に水しか排出しない利点はあるものの、危険性が高く、また、電気を蓄えられない「発電のみの装置」でした。本研究で開発した電池は、「AQDS-H2」(※2)という有機分子を利用することで、安全性の問題を解決し、単一の装置内での充電も可能とした点で新奇な装置です。
 また、既存の蓄電池をベースとした電力網では、電力輸送や蓄電のプロセスで大きなエネルギーロスが生じるため、エネルギー効率が低くなってしまうことが問題でした。
 この新技術は、植物の光合成のように、太陽光のエネルギーを化学エネルギーに直接変換するもので、スマートグリット(※3)との調和性が高く、この技術を利用することにより、自然エネルギーの利用効率の改善と電力の安定供給が期待されます(図1)。
 この研究成果は、2020年1月23日に英国王立化学会のNew Journal of Chemistry誌に掲載されました

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図1: 今回開発した蓄電池を活用したスマートグリットの構想

研究の背景

 エネルギーの確保は世界各国共通の課題であり、化石燃料への依存は、地球温暖化や大気汚染といった環境問題を引き起こす大きな要因となっています。その解決には、太陽光や風力、地熱など、自然エネルギー由来の電気の利用拡大が不可欠です。しかし、これらの発電は天候に左右されるために不安定で、扱いづらいことが問題です。近年では、電力の安定供給にむけて、自然エネルギーと大型蓄電池を組み合わせたスマートグリッドの構築が進められていますが、既存の蓄電池をベースとしたグリッドでは、電力輸送や蓄電のプロセスで大きなエネルギーロスが生じるため、エネルギー効率が低くなってしまうことも問題となっています。

研究の内容・成果

 本研究では、太陽光のエネルギーを化学エネルギーに直接変換する新しいタイプの蓄電池(光充電可能な燃料電池)を開発しました。これは、植物の光合成と類似のしくみで化学反応を利用して発電・蓄電する燃料電池で、自然エネルギーの利用効率の改善が期待されます。(図2)
 植物は、太陽光のエネルギーを用いてCO2を糖に変換して貯蔵します(光合成)。糖は高エネルギー化合物であるため、空気中の酸素で分解する際に、化学エネルギーが取り出せます(呼吸)。今回開発した蓄電池は、CO2をAQDS、糖をAQDS-H2に置き換えたシステムとみなすことができます。蓄電池内のAQDS-H2と空気中の酸素が反応することによって生じるエネルギーを、電気エネルギーとして外部に出力します。
 本研究で、このような動作原理で作動する蓄電システムを新たに考案したものです。試作電池を用いた充放電実験で、蓄電池として動作することを実証しました。

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図2: 植物の光合成と今回開発した蓄電池の比較

<構造と動作原理>
 今回開発した蓄電池の構造模式図を図3に示します。負極側の電解液にはAQDSという有機分子が溶け込んでいます。太陽光を照射すると、AQDSは電解液中の水素原子を引き抜いてAQDS-H2という分子に変換され、電池全体として充電状態となります(反応式①。【参考・化学反応式】を参照、以下同じ)。
 放電の際、負極ではAQDS-H2からAQDSへの変換反応が起こります(反応式②)。それと同時に、正極では、空気中の酸素分子(O2)が水(H2O)に還元されます(反応式③)。放電で生成したAQDSは、再び光照射によってAQDS-H2に変換することが可能であり、電池として何度も繰り返して使用することができます。

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図3: 今回開発した蓄電池の構造模式図

社会的な意義

 この電池の放電過程は、AQDS-H2を燃料とした燃料電池反応とみなすことができます。水素(爆発の危険性がある)を燃料とした一般的な燃料電池にくらべ、安全性が高いことが利点です。また、一般的な燃料電池と同様、反応で生成するのは水分子(反応式⑤)であるため、環境負荷の少ないクリーンな電池です。さらに、従来の燃料電池は、電気を蓄えられない発電のみの装置でしたが、今回の電池は電池内に電気エネルギーを蓄えておくことも可能です。
 AQDSからAQDS-H2への変換(充電)は、光照射だけでなく、外部電源を用いた電気化学反応(反応式⑤~⑦)でも可能であることから、スマートグリットとの調和性が高く、たとえば、図3のようなグリッドを構築すれば、太陽光照射で直接充電するだけでなく、風力や地熱で発電した電力も貯蔵可能となります。

【参考・化学反応式】

<光充電反応> (負極) AQDS AQDS-H2            反応式①
<放電反応>  (負極) AQDS-H2AQDS + 2H+ + 2e    反応式②
        (正極) O2 + 4H+ + 4e → 2H2O         反応式③
        (電池全体) 2AQDS-H2 + O2AQDS + 2H2O  反応式④
<電気充電反応>(負極) AQDS + 2H+ + 2eAQDS-H2    反応式⑤
        (正極) 2H2O → O2 + 4H+ + 4e        反応式⑥
        (電池全体) AQDS + 2H2O → 2AQDS-H2 + O2 反応式⑦

今後の展開

 本研究では試作電池をもちいた充放電実験を行い、光充電可能な燃料電池という「全く新しいコンセプトの蓄電池」が構築可能なことを示しました。ただし現時点では、出力電力は0.5 V程度であり、起電力の向上や反応過電圧の低減が技術課題です。今後は負極活物質(AQDS)の改良やセル構造の最適化を実施し、実用化に向けた研究を加速させる予定です。

用語解説

(※1)燃料電池: 水素、アルコールなどの燃料を使用した電気化学反応により、発電する装置。水素ガスと酸素ガスを反応させることによって発電する燃料電池が実用化されており、これを使用した自動車(燃料電池自動車)は、排気ガスの出ないクリーンな自動車として注目されている。

(※2)AQDS-H2: 下記の分子構造をもつ水溶性有機分子。

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(※3)スマートグリット: 電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送電網。グリッド内に蓄電池を設置することにより、自然エネルギー由来の不安定な電力でも、効率的に利用することが可能となる。

論文情報

論文名: Photo-rechargeable fuel cell using photo-hydrogenation reactions of quinone molecules.
著者名: Y. Ishii, K. Kurimoto, K. Hosoe, R. Date, I. Yamada, and S. Kawasaki
掲載雑誌名: New Journal of Chemistry
公表日: 2020年1月23日
DOI: 10.1039/C9NJ04782D
URL: http://dx.doi.org/10.1039/C9NJ04782D

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 生命・応用化学専攻
教授 川崎 晋司(かわさき しんじ)
Tel: 052-735-5221
E-mail: kawasaki.shinji[at]nitech.ac.jp

助教 石井 陽祐(いしい ようすけ)
Tel: 052-735-5259
E-mail: ishii.yosuke[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5316
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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