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パワーデバイス材料SiCの表面への電流の流れを数値化

カテゴリ:プレスリリース|2020年05月19日掲載


発表のポイント

〇 パワーデバイス材料シリコンカーバイド(SiC)の表面への電気の流れの計測に成功した。
〇 表面への電気の流れを数値化することによりSiCパワーデバイスの設計を容易にした。
〇 SiCパワーデバイスの低価格化と普及により、電力インフラでの消費電力削減が期待できる。

概要

 大電力の電圧変換に用いられるパワーデバイス(※1)として、シリコンカーバイド(SiC)(※2)という結晶材料の採用が期待されています。大きな電力を制御するパワーデバイスを作るには、SiC結晶に均一に電流を流す必要がありますが、結晶には必ず表面が存在し、電流は勝手に表面へと流れてしまいます。本学大学院工学研究科の加藤正史准教授の研究グループはこの表面への電流の流れを、様々な温度や表面の状態において、数値化することに成功しました。この数値はSiCパワーデバイスの設計を容易にし、SiCパワーデバイスの低価格化につながります。

研究の背景

 電車や自動車の速度の制御や、送配電系統の電圧の変換には半導体素子であるパワーデバイスが用いられます。そのようなパワーデバイスを作るための新規結晶材料として、シリコンカーバイド(SiC)の利用が期待されています。すでにSiC結晶によるパワーデバイスは次世代の新幹線などに採用されるなど、一部の分野で実用化が始まっており、大幅な消費電力の削減が報告されています。しかしながら、発電所から送電される電力などの電力インフラにおいては、さらに大きな電力の電圧変換する大電力パワーデバイスが必要です。そのような大電力パワーデバイスを作るには、SiC結晶内部に均一に電流を流す必要がありますが、結晶には必ず表面が存在し、表面再結合という現象により電流は勝手に表面へと流れてしまいます(図1の電子と正孔の動き(※3))。従来この表面への電流の流れは数値化されておらず、パワーデバイスの構造設計を困難にしていました。

研究の内容・成果

 本研究はSiCの様々な結晶表面(図2に示すようにSiC結晶には向きによって異なる表面があります)に対して光照射により電子と正孔を作り、それらの表面において電子と正孔の消える速さを計測しました。そしてその速さを計算モデルと比較することで、表面への電流の流れを数値化しました(図3の縦軸のS(表面再結合速度))。また、その数値の温度依存性や、結晶内の伝導型への依存性も明らかにしました。

社会的な意義

 得られた表面再結合速度の数値は、SiCによる大電力パワーデバイスの構造設計に利用できます。その結果SiCパワーデバイスの設計が容易となり、パワーデバイスの製造コスト削減につながります。

今後の展開

 製造コストが低減された大電力SiCパワーデバイスは低価格化での市場販売が期待されます。低価格の大電力SiCパワーデバイスが普及することにより、将来的には電力インフラでの消費電力の削減が可能となります。

用語解説

(※1)パワーデバイス:大きな電流を流したり、止めたりすることができる半導体素子。ダイオードやトランジスタにおいて許容できる電流・電圧が大きいものを指す。
(※2)シリコンカーバイド(SiC):ケイ素と炭素の化合物である半導体材料。SiCを用いれば従来の半導体材料であるSiに比べて、性能の高いパワーデバイスを製造することが可能となる。一方で、材料の価格や製造歩留まりが低く、コストが高いという課題がある。
(※3)電子と正孔:半導体中で電流を運ぶ粒子。

論文情報

論文名: "Surface recombination velocities for 4H-SiC: temperature dependence and difference in conductivity type at several crystal faces"
著者名: Masashi Kato et al.
掲載雑誌名: Journal of Applied Physics
公表日: 2020年5月15日
DOI: 10.1063/5.0007900
URL: https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0007900

1.png図1: 高耐圧SiCパワーデバイス構造の一例。電流を運ぶ電子と正孔が表面に向かい、表面再結合という現象で電子と正孔が消滅し、本来パワーデバイスの外に流したい電流が失われる。表面再結合現象は避けられないが、それを数値化することで、パワーデバイス構造の設計を最適化できる。



2.png
図2: SiC結晶の構造と表面の関係を示す図。SiC結晶は六方晶という六角柱の構造をしており、六角柱の底面がSi面とC面、側面がm面、m面と直行する面がa面と呼ばれる。




3.png図3: 表面への電気の流れを数値化したもの(縦軸のS:表面再結合速度)。横軸は温度の逆数。温度が上がるとSの値が上がる。


お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 電気・機械工学専攻
准教授 加藤 正史
Tel: 052-735-5581
E-mail: kato.masashi[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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