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テーラーメイドな形状記憶が可能な透明エポキシ硬化樹脂の開発

カテゴリ:プレスリリース|2020年06月17日掲載


発表のポイント

〇 硬化反応の後でも再成型可能なエポキシ硬化樹脂
〇 無色・透明性で意匠性に優位(可視光領域の透過率は90%以上)
〇 商用モノマーのみで調製可能で、架橋反応条件が比較的穏和(120℃、2時間反応)
〇 好みのデザインに自分で成型でき、その形を記憶できる(変形しても暖かいお湯で戻る)
〇 しわが取れやすく、サイズが変わってもそれに合わせて再調整できる機能性フィルム・生地などとして展開可能

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科生命・応用化学専攻の林幹大助教らは、3官能性のエステル結合含有末端チオール化合物とジエポキシ化合物を、スズ触媒(結合交換触媒)含有下で架橋した、機能性エポキシ硬化樹脂の調製に成功した(※1)。
 本架橋樹脂では、加熱によって結合交換が可能な動的共有結合を用いてポリマーを連結させることで分子レベルにおいてネットワークを形成させ、記憶更新可能な形状記憶樹脂を調製した(特許出願済)(※2)(※3)。ネットワークに導入した動的共有結合は、結合交換触媒含有下で熱を加えると、結合交換が活性化する(※4)。結合交換反応としては、結合の解離と再形成が同時に起こるエステル交換反応を用いた(※5)。そのため、結合交換時にもネットワークの連結性が保持され、高温でも急激に流動することはない(ネットワークの連結性がない従来の樹脂では、流動してしまう)。架橋結合交換が起きる温度以上では、外観としての形はほとんど変わらないものの、分子レベルでは、ネットワークのトポロジー(かたち)が刻々と変化する中で初期ネットワーク構造の記憶が除去されていく(※6)。結合交換温度より高い温度で変形を加えた後に除冷すると、変形した形状が新たな安定形状として記憶される(記憶更新)。また、得られた架橋樹脂は、無色・透明であり、可視光領域において90%以上の透過率を達成した。
 この成果は、学術雑誌ACS Applied Polymer Materials(2020年6月3日, web-published)に掲載されている。

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図1. 本研究の分子設計の概要と架橋フィルムの透明性


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図2. 形状記憶と形状記憶更新

研究の背景

 高分子材料は、ガラス転移点や融点などの軟化温度を境に、ガラス状態⇔溶融状態へと熱可逆的に変化する。未架橋のポリマーは溶融状態の温度では流動してしまうが、ポリマーを架橋した場合、その流動が抑制され、伸縮可能なゴム状態となる。架橋樹脂を変形させると、分子レベルにおいては、エネルギー的に不安定な分子ネットワークとなるが、加熱によりエネルギーを与えゴム状態とすると、未変形状態の安定ネットーク構造へと再び回復する。それに伴って、外観としては、未変形状態の形を取り戻す。このような形状記憶樹脂は、初期の形状が記憶可能であるものの、「その記憶形状を除去し、さらに記憶更新させること」は不可能であった(架橋結合が外れないため)。

社会的な意義

 記憶更新可能な形状記憶樹脂調製の実証例はほとんどない。そのため、本技術により得られる形状記憶-記憶更新性樹脂は、消費者ニーズで所望の形状に変形させ、その新形状を記憶させられるという点で、社会に新しい価値を提供する。また、モノマー化合物の混合と加熱によりワンステップで調製することが可能であり、生産の効率性という点で大量生産にも優位性がある。また、ほぼ無色透明であるため、意匠性の点でも優位性がある。

今後の展開

 フィルム、シート、ファイバー、発泡体などへの展開を見据え、様々な硬さ、柔らかさをもつ形状記憶-記憶更新性樹脂の製造や大量生産に向けた製造条件の検討など、社会実装のための産学官連携活動を推進していく。形状記憶-記憶更新性が付与された樹脂は、衣服、靴、クッションなどへ応用することで、人体にフィットするデザイン性をもった製品を開発できる。また、平面形状で輸送し、輸送後に加温により立体形状へと戻すことのできる持ち運び便利なアウトドア用品や建材などへの用途展開も期待できる。医療製品、フレキシブルデバイス、ウェアラブルデバイス、ロボットなど社会ニーズの高い分野へも活用していきたい。

用語解説

(※1)エポキシ硬化樹脂 
 エポキシ官能基を含むモノマーを一成分として用いて調製される熱架橋型の高分子樹脂の総称。
(※2)架橋 
 高分子鎖(ポリマー)を連結し、三次元網目を形成させる反応。
(※3)形状記憶材料
 変形後にある一定の温度以上に加熱すると元の形状に回復する性質をもつ材料の総称。
(※4)動的共有結合 
 安定な共有結合ではあるものの、熱や光などの外部刺激により、結合解離が起こる共有結合のこと。動的共有結合を架橋点に配置した材料は、解離・再結合挙動が凍結されている通常使用条件では十分な力学強度を示すが、外部刺激下では架橋結合が交換されるため、再成型加工・リサイクル・修復性など、従来の共有結合架橋材料では発現し得ない機能を有する。
(※5)エステル交換反応
 加熱下でエステルとアルコールを反応させた際に、それぞれの主鎖部分が入れ替わる反応であり、通常の場合、酸または塩基が触媒として利用される。
(※6)トポロジー
 幾何学的な意味での形のこと。

論文情報

論文名: Preparation of Colorless, Highly Transparent, Epoxy-Based Vitrimers by the Thiol-Epoxy Click Reaction and Evaluation of Their Shape-Memory Properties
著者名: Mikihiro Hayashi, Akira Katayama
掲載雑誌名: ACS Applied Polymer Materials
公表日: 2020年6月3日 (web-published)
DOI: 10.1021/acsapm.0c00397
URL:https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acsapm.0c00397

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 生命・応用化学専攻
助教 林 幹大
Tel: 052-735-7159
E-mail: hayashi.mikihiro[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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