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光触媒材料SrTiO3内部の物理を明らかに ー人工光合成に向けた光触媒材料の最適設計に寄与ー

カテゴリ:プレスリリース|2021年06月17日掲載


発表のポイント

〇 人工光合成(※1)用の光触媒材料(※2)であるSrTiO3において電子と正孔(キャリア(※3))の再結合という物理現象を測定した。
〇 2つの異なる波長の光を用いた測定により、結晶表面と内部の再結合寿命を分離・数値化した。
〇 この成果は、再生可能エネルギーを作り出す人工光合成技術の実用化に寄与するものである。

概要

 チタン酸ストロンチウムSrTiO3は人工光合成用の光触媒材料として期待されている、ペロブスカイト型構造を有する結晶材料です。ここで光触媒による太陽光からのエネルギー変換効率を高めるには、光によってSrTiO3内部に生成された電子と正孔(キャリア)の再結合という物理現象が起こる前に光触媒反応に寄与させる必要があります。そのためには再結合寿命を定量化して、その値を基に再結合する前に光触媒反応が起こるように光触媒構造を設計する必要があります。しかしながら、これまではSrTiO3の表面と内部で起こる再結合を分離できておらず、再結合寿命の値が明確にできていませんでした。
 本学大学院工学研究科の加藤正史准教授の研究グループは、光照射において異なる波長の光を用いることで、SrTiO3の結晶表面と内部の再結合寿命を分離して、数値化することに成功しました。さらにはSrTiO3の電気伝導率を上げるために添加される不純物ニオブ(Nb)が再結合寿命に与える影響を明確化しました。
 このように光触媒材料内部の物理現象を定量化したことは、高いエネルギー変換効率を得るための材料構造・不純物濃度の最適化につながります。そのため、この成果は人工光合成技術の実用化に寄与するものです。
 本研究成果は、2021年6月16日にJournal of Physics D: Applied Physicsに掲載されました。

研究の背景 

 太陽光から燃料を生成する人工光合成技術は、貯蔵可能な形で再生可能なエネルギーを作り出す技術として期待されています。その人工光合成技術を実現する手法として、光触媒を用いた太陽光のエネルギーによる水の分解が期待されています。チタン酸ストロンチウムSrTiO3は人工光合成用の光触媒材料として期待されている、ペロブスカイト型構造を有する結晶材料であり、紫外領域の光において量子効率100%近くを示す材料として、近年注目されています[1]。ここで光触媒反応は、光により光触媒内部で生成されたキャリアが、光触媒の外にある水などの物質に受け渡されることにより進行します。したがって、キャリアが光触媒内部で再結合という物理現象により消滅すると、太陽光からのエネルギー変換効率が上がりません。そのため、光触媒の構造をキャリアの再結合を抑制する形状にする必要がありますが、そのためにはキャリアの再結合寿命がどの程度の値なのかを知る必要があります。また、キャリアの再結合寿命は表面と内部で異なるため、それらを分離して数値化する必要と、不純物がキャリア再結合に与える影響を明確にする必要があります。

[1] T. Takata et al., Nature 581, 411 (2020).

研究の内容・成果

 本研究では、SrTiO3に照射する光として2つの異なる波長(266と355 nm)を用い、キャリアの再結合寿命の測定を行いました。図1のイメージのように、波長を変えることでSrTiO3内部のキャリアの分布を変えることができ、266 nmでの測定では表面近くを、355 nmでの測定ではSrTiO3内部の寿命を観測できます。この測定を複数種の結晶面に対して実施し、結晶面の間に大きな相違はないことと、表面での再結合寿命はおおよそ106 cm/sという値、内部の寿命はおおよそ90 nsという値であることを明らかにしました。

f1.png

図1 2つの異なる波長でのキャリア再結合寿命測定のイメージ図。266 nmの光を使う方が355 nmの光を使った場合よりも表面の情報が強く得られる。

 一方、純粋なSrTiO3は絶縁体であり、そのままでは材料内部でキャリアを動かすことができません。そこでキャリアを動かすために不純物を入れて、電気伝導を可能にすることがしばしば行われます。その際の代表的な不純物の一つにニオブ(Nb)があります。一方で、不純物が材料に入るとキャリア再結合寿命も影響を受けてしまいます。そこで、Nb濃度を変化させたSrTiO3に対してキャリア再結合寿命を様々な温度下において測定しました。その結果、Nb濃度が高い場合はキャリア再結合寿命が短くなりますが、図2に示すようにNb濃度を0.01重量%に抑制すればキャリア再結合寿命に与える影響は少ないことがわかりました。

f2.png

図2 Nbなしとあり(0.01重量%)のSrTiO3に対する時間分解フォトルミネッセンス(PL)法(※4)によるキャリア再結合寿命測定データ。線の傾きがキャリア再結合寿命を表すが、Nbなしとありで傾きに大きな違いはない。

社会的な意義

 得られた再結合寿命の値により、人工光合成におけるエネルギー変換効率を高めるためのSrTiO3光触媒の構造・不純物濃度の最適化が可能となります。さらに光触媒製造においてどの程度の構造のばらつきが許容されるのかの指針を得ることができます。このことは光触媒による人工光合成技術の実用化・産業化に向けて、重要な情報を与えるものだと考えられます。

今後の展望

 今後は今回と同じSrTiO3でも表面や不純物状態の異なるものや、他の光触媒材料においてもキャリア再結合の明確化を行い、構造設計の指針を得ていきます。その取り組みにより引き続き人工光合成技術の発展に寄与していきます。

 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業の基盤研究(B)(21H01828)の支援のもとに実施しました。

用語解説

(※1)人工光合成:太陽光のエネルギーを用いて燃料など付加価値のある物質を生成する技術
(※2)光触媒材料:光のエネルギーを用いて、化学反応を起こす触媒材料
(※3)電子と正孔:人工光合成反応を進めるために必要な、光を受けて光触媒内部に発生する粒子。ただし、時間とともに再結合して消滅する。キャリアとも呼ばれる。
(※4)時間分解フォトルミネッセンス法:材料にエネルギーの高い光を照射し電子と正孔を生成し、その後電子と正孔が再結合する際に発する光により、電子と正孔が再結合する速さを観測する手法。

論文情報

論文名: Carrier recombination in SrTiO3 single crystals: Impacts of crystal faces and Nb doping
著者名:Masashi Kato, Takaya Ozawa, Yoshihito Ichikawa
掲載雑誌名:Journal of Physics D: Applied Physics
公表日:2021年6月16日
DOI:10.1088/1361-6463/ac073e
URL: https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6463/ac073e

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学 大学院工学研究科 電気・機械工学専攻
准教授 加藤 正史
TEL: 052-735-5581
E-mail: kato.masashi
[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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