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SiCパワー半導体の性能を決定する物性値を観測 -低消費電力化可能なSiCパワー半導体の実現可能性を示唆-

カテゴリ:プレスリリース|2023年01月13日掲載


発表のポイント

〇 高品質SiC結晶に対して超高耐圧パワー半導体で重要となるキャリア寿命を測定
〇 独自に開発した装置により高い励起キャリア濃度でのキャリア寿命の値を観測
〇 高品質SiC結晶では高い励起キャリア濃度においては従来の値よりも長いキャリア寿命が得られたことにより、高い性能のSiCパワー半導体の実現可能性が示され、電力システムへの搭載による低消費電力化が期待される

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科の加藤正史准教授、田中和裕氏(電気・機械工学専攻 博士後期課程2年)らの研究チームは、超高耐圧シリコンカーバイド(SiC)パワー半導体(※1)の性能を決定するキャリア寿命という物性値を測定しました。測定には独自に開発した装置を用い、高品質な4H-SiC(※2)結晶に対して実施しました。その結果、得られたキャリア寿命は高い励起キャリア濃度では、従来の値よりも長いことがわかりました。この成果は超高耐圧SiCパワー半導体が、従来考えられてきたものよりも高い性能で製造可能であり低消費電力化につながることを示唆しています。
 本研究成果は、Japanese Journal of Applied Physics誌に2023年1月10日に掲載されました。

研究の背景 

 SiCパワー半導体はその省エネルギー性能のため、電車などのモーター駆動用の半導体デバイスとして普及し始めています。またSiCにより、従来のパワー半導体ではなし得なかった10 kV以上の電圧に耐える素子の実現も可能である、将来の電力システムへの応用が期待されています。ただし10 kVを超える電圧においてはSiCパワー半導体を、図1に示すようなバイポーラ構造(※3)と呼ばれる形で作製しなければ電力損失が大きくなります。一方でバイポーラ構造を有する素子では、キャリア寿命と呼ばれる物性値が性能を決定します。これまでもSiCにおいてもキャリア寿命の測定は行われてきましたが、バイポーラ構造での限界性能を決める高い励起キャリア濃度でのキャリア寿命の値については知見が少なく、特に高品質な4H-SiC結晶を用いて高い励起キャリア濃度でのキャリア寿命を観測した例はありませんでした。

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図1.バイポーラSiCパワー半導体の動作時の模式図

研究の内容・成果

 今回、独自に開発した装置を用いて高い励起キャリア濃度でのキャリア寿命測定を可能とし、高品質4H-SiC結晶のキャリア寿命を観測しました。その結果、高い励起キャリア濃度であっても比較的長いキャリア寿命を示すことが確認されました。そして得られた結果から、キャリア寿命を決定する因子であるオージェ再結合(※4)係数を見積もり、図2に示すようにキャリア寿命限界値の励起キャリア濃度依存性を求めました。この結果、5×1018 cm-3以上の励起キャリア濃度では、従来考えられてきた限界値よりも長いキャリア寿命が得られることがわかりました。

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図2.実験結果より求めた4H-SiCにおけるキャリア寿命の限界値の励起キャリア濃度依存性

社会的な意義

 この成果は、高い励起キャリア濃度を注入する構造のバイポーラSiCパワー半導体素子にした場合、低い電気抵抗が得られることを示しています。したがって、超高耐圧SiCパワー半導体素子の限界性能は、従来考えられてきたものよりも高くできると考えられ、電力システムに適用する低消費電力SiCパワー半導体素子の実現に繋がります。

今後の展開

 今後は超高耐圧SiCパワー半導体素子の実現に向けて、詳細な材料評価および素子作製に取り組みます。将来的にはSiパワー半導体素子による電力システムの低消費電力化を目指します。

用語解説

(※1)パワー半導体
電力の制御や変換を行う半導体の総称で、特に高電圧・大電流を扱うことのできる半導体です。近年では電力の無駄を極力少なくし、省エネ・省電力化に貢献するパワー半導体の需要がより高まっています。

(※2)4H-SiC
SiCには複数の構造の結晶が存在するが、4H-SiCはパワー半導体材料として最も普及している結晶構造のSiCです。

(※3)バイポーラ構造
電子と正孔を電気伝導に用いる構造です。従来のSiCパワー半導体では電子のみを電気伝導に用いるユニポーラ構造を採用していましたが、バイポーラ構造にすることで、電子と正孔による伝導度変調という現象が起き、超高耐圧かつ低い電気抵抗の素子を作製することができます。

(※4)オージェ再結合
励起キャリア濃度が高くなった場合に起こる再結合現象で、キャリア寿命を短くする要因になります。オージェ再結合係数は材料固有の物性値ですが、不純物濃度や励起キャリア濃度に対してわずかな依存性を示すため、値を確定するためには詳細な評価が必要となるため、本研究で調査しました。

論文情報

論文名:4H-SiC Auger recombination coefficient under the high injection condition
著者名:Kazuhiro Tanaka, Keisuke Nagaya and Masashi Kato
雑誌名:Japanese Journal of Applied Physics (2022)
公表日:2023年1月10日
DOI: 10.35848/1347-4065/acaca8

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(電気・機械工学領域)
准教授 加藤 正史
TEL:052-735-5581
E-mail:kato.masashi[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647       
Email:pr[at]adm.nitech.ac.jp

*[at]を@に置換してください。


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