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発蛍光型の乳酸センサー不織布の開発に成功 ~電界不織布の繊維内部が、蛍光センサータンパク質を働かせる場として有効であることの発見~

カテゴリ:プレスリリース|2023年10月30日掲載


発表のポイント

〇 乳酸に対し選択的に応答し蛍光発光する、発蛍光型のセンサー不織布の開発に成功
〇 タンパク質ベースのセンサー分子を水に不溶な不織布のナノ繊維内部に変性失活させることなく保持させ、そこで機能させた例としては世界初
〇 ウェアラブル型、Implantラボ型の医療用センサーデバイスへの利用も期待

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科の加藤 柚奈氏(工学専攻 博士前期課程2年)、水野 稔久 准教授らの研究グループは、東京大学の那須 雄介 助教、Robert E. Campbell教授らとの共同研究により、乳酸の結合で蛍光強度を大きく上昇させる蛍光センサー蛋白質eLACCO1.1(注1)を、分子量依存的な分子浸透性を持つ電界不織布(注2)のナノ繊維内部に固定化することで、乳酸に対する「発蛍光型の蛍光センサー不織布」の開発に成功しました(図1)。水に不溶な不織布繊維内部に蛍光センサー蛋白質を固定化し、その場で機能させた世界初の例となります。

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図1 乳酸センサー蛍光蛋白質eLACCO1.1(右上)をナノ繊維内部に固定化した電界不織布の外観
   (ナノ繊維表面は、Nylon6でナノ被覆されている(中下段の電子顕微鏡画像))


 分子量依存的な分子浸透性を持つナノ繊維内部に固定化することで、観測対象となる乳酸分子は繊維内部に効率よく浸透し蛍光検出される一方、センサー蛍光蛋白質をダメにしてしまうプロテアーゼの侵入は効果的に防ぐ反応が見られました。この性質は、体調や疾病のバイオマーカーとして注目される乳酸の濃度変化を、様々な夾雑物を含む生体サンプル(尿、汗、血液など)中から簡便に定量評価可能な、新たな要素技術として期待されます。近年、手首や腕、体表面に装着するウェアラブル型、体内部に設置し利用するImplantラボ型の医療用センサーデバイスの開発が進んでいますが、これらに対し、識別能の高いセンサー蛋白質を利用できる新たなデバイスプラットフォームとして、将来性も高いものです。

 この成果は、20231010日に英国王立化学会誌「RSC Advances」にて発表されました。

研究の背景 

 乳酸も含め、生体サンプル(尿、汗、血液など)中に含まれる様々な代謝物やイオンの濃度変化を元に、非侵襲的に体調や疾病の診断を可能とする新規診断技術に対するニーズが高まっています。一般に生体サンプルには様々なイオンや生体分子が共存しており、その中から効率的に特定の分子を定量評価するためには、「タンパク質の持つ高い分子識別能」を生かした蛋白質ベースのセンサー分子の利用が合理的です。しかし、タンパク質であるが故の、耐久性の悪さ、外部環境変化に対する脆さが足枷となり、高度な分子識別能を持つタンパク質ベースのセンサー分子を活かしたセンサー材料開発はあまり進んでいません。

研究の内容・成果

 不織布とは繊維の集積化により作製される布状の材料ですが、電界紡糸法を利用することで、均一なナノオーダーの繊維径からなるナノ繊維の集積体(電界不織布)の作製が可能です。水野准教授らの研究グループではこの電界不織布に用いる高分子材料に着目し、これまでにタンパク質を変性失活させることなく不織布ナノ繊維内部に固定化可能とする、特殊な高分子材料の開発に成功し報告していいます。さらにここで用いる高分子材料が分子量依存的な分子浸透性を持つことで、酵素を固定化した場合には、繊維内部に固定化したまま、浸漬溶液に含まれる基質分子に対して高い酵素活性を発揮可能でした。本研究では、このナノ繊維内部を、蛍光センサー蛋白質を働かせる場として利用する検討を行いました。
 電界不織布作製に利用可能な新たな高分子材料として、生体毒性の低い高分子バイオマテリアルとして知られるポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)ベースとした高分子材料polyHPMA/DAMA)を開発し、ここに乳酸の結合により蛍光強度を大きく上昇させる蛍光センサー蛋白質eLACCO1.1を添加し電界紡糸を行うことで、乳酸センサー不織布の作製を行いました。なお不織布への材料強度付与のため、ナノ繊維表面はNylon6でナノ被覆したものを用いました(図1)。
 作製された乳酸センサー不織布は、乳酸濃度の上昇(図2の青矢印)、下降(図2の黒矢印)に応じた可逆的な蛍光強度変化を示し、その強度変化は高い再現性を示しました(図2上段)。またこの応答性は、プロテアーゼの処理後でも全く影響を受けず(図2下段)、不織布繊維の持つ分子量依存的な分子浸透性の効果により、eLACCO1.1がプロテアーゼ分解から保護されつつ、乳酸に対する特異的なセンサー機能は維持可能となることがわかりました。この性質は、体調や疾病のバイオマーカーとして注目される乳酸の濃度を、様々な夾雑物を含む生体サンプル(尿、汗、血液など)から簡便に定量評価可能な要素技術として、非常に魅力的な要素を兼ね備えています。

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図2 乳酸センサー不織布の乳酸に対する応答挙動
(上段) 乳酸センサー不織布への乳酸添加後(青矢印)、洗浄除去後(黒矢印)の蛍光強度変化(可逆的で、乳酸濃度に応じた蛍光応答特性が維持されている)
(下段) プロテアーゼ(トリプシン)で処理した乳酸センサー不織布への乳酸添加後(青矢印)、洗浄除去後(黒矢印)の蛍光強度変化(可逆的で、乳酸濃度に応じた蛍光応答特性が、プロテアーゼ処理後にも完全に維持された)

社会的な意義・今後の展望

 現在様々な生体分子に対するセンサー蛍光蛋白質の開発が世界的に進められており、今回検討を行った特殊な高分子部材から作製可能な電界不織布は、様々な夾雑物を含む生体サンプル(尿、汗、血液など)に様々なセンサー蛍光蛋白質を直接作用させることが可能な場として、有効に機能すると期待されます。すなわち、タンパク質であるが故の、耐久性の悪さ、外部環境変化に対する脆さを、固定化する材料側の分子設計により補うことで、高度な分子識別能を持つタンパク質センサーを活かした、より実用的なセンサー材料開発の進展につながります。例えば、手首や腕、体表面に装着するウェアラブル型、体内部に設置し利用するImplantラボ型の医療用センサーデバイスへの利用も期待されます。

 本研究成果は、 公益財団法人 小笠原敏晶記念財団の研究助成金の支援を受けて行われました。

用語解説

(注1)乳酸蛍光タンパク質 eLACCO1.1
那須助教、Campbell教授らが開発。緑色蛍光タンパク質と乳酸結合性蛋白質のアミノ酸配列を適切な位置で複合化し、さらにランダム変異を通した分子進化によって、乳酸の濃度変化に応じて10倍以上の蛍光強度変化を可能とするセンサー蛍光タンパク質の開発に成功している。

(注2)分子量依存的な分子浸透性を持つ電界不織布
水野准教授らが開発。特殊に設計された水溶性高分子を、タンパク質共存下で生体直行反応により架橋させながら電界紡糸を行う(SCES法として、水野准教授らが考案)ことで、架橋高分子ネットワークの中にタンパク質を物理的に閉じ込めたナノ繊維の紡糸とこの集積体となる、水に不溶な電界不織布がOne-potで作製可能となった。またナノ繊維が架橋高分子により作製されることで、低分子は効率よく浸透可能であるのに対して、プロテアーゼのような高分子は内部に浸透できないという、分子量依存的な分子浸透性も付与可能となった。

論文情報

論文名: Construction of the lactate-sensing fibremats by confining sensor fluorescent protein of lactate inside nanofibers of the poly(HPMA/DAMA)/ADH-nylon6 core-shell fibremat
著者名: Yuna Kato, Shuichi Iwata, Yusuke Nasu, Akiko Obata, Kenji Nagata, Robert E. Campbell, Toshihisa Mizuno*
掲載雑誌名: RSC Advances
公表日: 2023年10月10日
DOI: 10.1039/d3ra06108f
URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/RA/D3RA06108F

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(生命・応用化学領域)
准教授 水野 稔久
TEL:052-735-5237
E-mail: toshitcm[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647       
Email:pr[at]adm.nitech.ac.jp

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