溶剤フリーで常温流通可能な環境配慮型の高耐熱性接着シートを開発
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カテゴリ:プレスリリース|2023年11月29日掲載
発表のポイント
〇 "結合交換"型架橋を導入した高耐熱性接着シートを開発:常温流通可能な無溶剤シート型接着剤
〇 短時間の加熱・加圧処理を行うだけで寸法を保持したまま電子材料を接着⇒長時間の熱処理工程を省くことで生産工程の短縮や省エネルギー化に貢献
〇 シート状で溶剤を含まないことからVOC(揮発性有機化合物)の削減に寄与
概要
名古屋工業大学(名古屋市昭和区、学長:木下隆利)大学院工学研究科 工学専攻(生命・応用化学領域)の林幹大助教らは、東洋紡株式会社(本社:大阪市北区、代表取締役社長:竹内郁夫、以下「東洋紡」)及び東洋紡エムシー株式会社(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長執行役員CEO:森重地加男、以下「東洋紡エムシー」)との共同研究において、電子材料の接着剤用途向けに、"ビトリマー(Vitrimer(※1))"と呼ばれる新しい架橋(※2)樹脂を応用することで、溶剤フリーで常温流通(輸送・保管)を可能にした環境配慮型のポリエステル系高耐熱性接着シート(以下、「本接着シート」)の新たな開発に貢献しました(図1)。"ビトリマー"とは、樹脂の構造の一部に「結合交換性動的共有結合(※3)」を持つ新しい架橋樹脂で、林助教らはその実用応用を目指すための基礎研究・機能開拓を行ってきました。東洋紡及び東洋紡エムシーは、ポリマー間の架橋状態を維持しながら熱可塑性樹脂(※4)のように圧力や熱などに応答可能な"ビトリマー"の特長を応用することで、本接着シートの製品化を実現しました。
図1. 高耐熱性接着シート(ロール)外観
研究の背景および技術内容
フレキシブルプリント基板などで電子部品の接着に用いる高耐熱接着シートは、データ通信の高速化、自動車の電装・電動化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展などを背景とした電子部品の搭載点数の増加や回路の高集積化に伴い、ますます需要が拡大しています。近年、環境負荷低減のため、溶剤を含まない熱硬化型の接着シートの使用要請が高まっていますが、常温で硬化するのを避けるために冷蔵での保管や輸送が必要となるほか、接着シートを貼り合わせた後の被着体との固定に、一定時間の加熱を伴う熱架橋処理を要するなどの課題がありました。
東洋紡との共同研究は、2019年より開始されました(2021年1月にNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「官民による若手研究者発掘支援事業(JPNP20004)」に採択)。林助教らの結合交換型架橋樹脂(ビトリマー)の基礎技術を、東洋紡グループが長年培ってきた樹脂の設計・重合というコア技術と組み合わせることで、電子材料向けの接着剤用途などで展開する共重合ポリエステル樹脂「バイロン®」にビトリマー特有の結合交換部位を導入することに成功し、常温流通可能な無溶剤シート型接着剤の開発に至りました(図2)。
図2. 電子材料用接着シートの種類と特長(熱硬化型接着剤、半硬化型接着シートとの比較)
社会的な意義・今後の展望
従来、溶剤を含まない半硬化型の接着シートは、常温環境下では徐々に架橋が進行し硬化してしまうため、輸送や保管の際に冷蔵による低温環境の維持や、接着時に完全な架橋構造を得るため、加工工程において一定時間の加熱処理(※5)を必要としています。これに対し、ビトリマーを応用した本接着シートは製造時点で既に架橋反応が完了しているため、常温環境下で架橋による硬化が進むことがありません。短時間の加熱・加圧処理を行うだけで寸法を保持したまま電子材料を接着できるため、長時間の熱架橋処理も不要です。シート状で溶剤を含まないことからVOC(揮発性有機化合物)の削減に寄与するとともに、熱架橋工程を省けることで生産工程の短縮や省エネルギー化にも貢献します。2024年前半を目途に、東洋紡エムシーにより本接着シートのサンプル提供、製造販売が開始される予定です。今後も高機能な架橋樹脂"ビトリマー"を応用した製品の研究・開発に注力し、環境配慮型製品の提供を通じて持続可能な社会の実現に貢献できるよう努めていきます。
なお、2023年11月30日から12月1日まで、名古屋国際会議場で開催される「第32回ポリマー材料フォーラム」において、本接着シートについてのポスター発表が行われます。従来の熱硬化型接着剤や半硬化型接着シートとの比較を通じて本接着シート独自の特長などが紹介されます。
謝辞
本研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、官民による若手研究者発掘支援事業(JPNP20004)の一環として行われました。
用語解説
(※1)Vitrimer
「Vitrimer」はFONDS ESPCI PARISの登録商標です。
(※2)架橋
物理的、化学的な刺激によってポリマー同士の性質を変化させ結合させる反応。架橋反応により3次元網目構造となり、強度・耐熱性が向上します。
(※3)結合交換性動的共有結合
共有結合のうち、熱や光などの外部刺激により交換反応が起きる結合種のこと。分子網目構造中に導入すると、刺激により架橋点の組み換えが生じ、分子運動性が増加します。
(※4)熱可塑性樹脂
高温で軟化・流動する性質を有する樹脂のこと。加熱により成形でき、再び冷やすことで固くなります。
(※5)一定時間の加熱処理
一般的な架橋のための熱処理には、150℃で4時間程度必要とされています。
お問い合わせ先
研究に関すること
名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(生命・応用化学領域)
助教 林 幹大
TEL: 052-735-7159
E-mail: hayashi.mikihiro[at]nitech.ac.jp
広報に関すること
名古屋工業大学 企画広報課
TEL: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp
*[at]を@に置換してください。
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