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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトⅣ期」 手指デバイスを用いた精神的フレイルの予防・回復支援に 役立つ脳トレシステムを開発しました

カテゴリ:プレスリリース|2024年09月04日掲載


愛知県
公益財団法人科学技術交流財団
愛知産業大学
名古屋工業大学

 愛知県と公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)では、産学行政連携のプロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト1Ⅳ期」を2022年度から実施しています。
 この度、「プロジェクトSDGs2」の研究テーマ「多感覚ICTを用いたフレイル予防・回復支援システムの研究開発3」において、愛知産業大学(岡崎市)の石橋豊教授、名古屋工業大学(名古屋市昭和区)の森田良文教授らの研究チームは、手指デバイスを利用した精神的フレイル(軽度認知障害等)の予防・回復を促す脳力トレーニング(脳トレ)システムの開発に国内で初めて成功しました。
 本システムは、手指の小さな力(把持力)を評価することが特徴であり、開発した手指デバイスを把持する力の大きさを、使用者がプログラムに追従するよう調整し、その追従性により学習の効果を評価するものです。実証研究により、認知機能低下の発見、認知機能の向上、脳卒中患者への回復支援等の可能性が示されました。
 今後、本システムを利用した実証研究の拡大や、リハビリテーション施設、病院等での応用展開が期待されます。また、本システムを提供する名古屋工業大学発スタートアップが今年中に立ち上がる予定です。

1 開発の背景

 高齢化社会の進展にともなう医療・介護の急増に対して、「健康な状態」と「要介護の状態」の中間段階である「心身機能脆弱状態(フレイル)」の予防及びフレイルからの回復が急務な課題となっています。フレイルには身体的、精神的及び社会的フレイルがあります。精神的フレイルの代表として認知障害が挙げられ、大まかに健常者、軽度認知障害(MCI4)、認知症の3段階に区分されます。現在、日本におけるMCIの方は400万人、認知症の方は500万人程度と推定されており、今後さらに増大すると推測されています。認知症の段階ではその進行を止める医学的手法は現時点で確立されていませんが、MCIの段階では回復する事例が報告されており、MCIの早期発見、予防・回復に向けての研究開発が望まれています。
 その中で、愛知産業大学の石橋教授、名古屋工業大学の森田教授らの研究チームは、フレイルの種類(身体的、精神的、社会的)、程度を推定し、回復のための最適なデバイスを推奨するテーラーメイドシステム5と、デバイスの日々の使用結果を記録する予防・見守りシステムを統合化することを目指して研究開発を進めてきました(図1)。本プロジェクトの中で、特に精神的フレイルの予防・回復に取組んできたのが、新たな手指デバイスの開発とそれを利用した脳トレシステムの開発です。

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図1 「多感覚ICTを用いたフレイル予防・回復支援システムの研究開発」実施概要

2 新たに開発した手指デバイスと脳トレシステム及び実証研究

 精神的フレイルは脳の能力の衰えと捉えられていますが、指先も第2の脳と言われるように脳と密接な繋がりがあると考えられています。しかし、手の動作に対しては、これまで握力での評価が主体でした。そこで、森田教授らのグループは、手指の小さな把持力(100g~500g)に着目し、手指で操作するデバイスを開発しました。開発に当たり、高齢者が自宅で使う場合での接続ストレスや、接続ミスによるトラブルを低減するため、構成部品を一体化し、また、外装ケースの触り心地の改善、デザインの変更を行い、研究機器のイメージからの脱却を図りました(図2)。手指デバイス間のばらつきを補正可能な校正機器も開発し、信頼性の向上にも取り組みました。 
 さらに、使用者が手指デバイスの把持力を調整しながら、画面上に表示された所定の把持力に合わせてデバイスを操作する脳トレアプリを開発し、タブレット端末と手指デバイスだけで簡単に脳トレアプリを利用できるようになりました(図3)。

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図2 開発した手指デバイス

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図3 脳トレアプリと手指デバイス

 

この脳トレアプリを用いて各種実証研究を実施しました。1日の課題は、1つの線課題と5つの星課題からなり、いずれも目標値と測定値の差分により評価し、差分が小さいほど把持力の調整能力が高いことを示します。星課題は、目標値をなぞることで星の獲得数が多くなり、5日ごとに星課題の難易度が適切に上昇することで、トレーニングのモチベーションを維持できる工夫がされています。
 対象者ごとの手指デバイスの実証研究の結果を表1に示します。

 

表1 対象者ごとの手指デバイスの使用結果

対象者

手指デバイスの使用結果

若年健常者
高齢者
認知機能低下高齢者(MCI群)

MCI群は目標値と測定値の差分が大きい
MCI群は被験者間のばらつきが収束しない
MCI群のスクリーニングの可能性

地域在住高齢者(健常者)

・把持調整能力の向上
・被験者間のばらつき減少
・認知機能の向上
 → QOL6向上の可能性

脳卒中患者

・手指デバイスを組み合わせたことで上肢運動機能の回復が向上
 → 回復支援の可能性

自閉症患者

・把握力調整能力の改善
回復支援の可能性

 MCI群のスクリーニングに加え、健常者でも認知機能に良い結果を示しQOLの向上の可能性が示唆されました。さらに脳卒中患者や自閉症患者の回復支援に役立つことも示されました。手指デバイスが、認知機能低下の早期発見や効果的な認知機能のトレーニングをはじめとして、精神的フレイルの予防・回復支援等に広く有効であることが示されました。

3 期待される成果と今後の展開

 本システムによる精神的フレイルの予防・回復支援等のため、現在、偕行会リハビリテーション病院(弥富市)、リハビリ専門デイサービスエバーファイン(三重県桑名市)において新たな実証評価を検討中です。また、日本作業療法学会、日本ハンドセラピー学会等での機器展示によるPRを行い、新たな現場(病院2カ所)での利用アイデアと実証評価の協力者を得ています。さらに株式会社セカンドコンセプト(名古屋市中村区)、広島大学(広島県広島市)、名古屋女子大学(名古屋市瑞穂区)等にも貸出をして各種評価を実施しています。加えて、医療系大学(令和健康科学大学(福岡県福岡市)、茨城県立医療大学(茨城県稲敷郡))からは、この手指デバイスを利用して研究を実施したいとの申し出があったことから、有償での提供も実施しており、幅広い利用が期待されます。
 開発した脳トレアプリを含め、手指デバイスを提供する名古屋工業大学発スタートアップが今年度中に立ち上がる予定です。

4 社会・県内産業・県民への貢献

社会への貢献

高齢化社会への移行に伴う、認知症あるいは軽度認知障害の増大を予防・回復することに貢献します。

県内産業への貢献

国立長寿医療研究センター、県内リハビリテーション施設とも共同で研究開発を実施していく予定であり、県内の各種リハビリテーション施設への展開も有望です。

県民への貢献

県内リハビリテーション施設での利用の増大に伴い県民のフレイル予防・回復に貢献できます

用語解説

※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト
高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトⅠ期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトⅡ期」、2019年度から2021年度まで「重点研究プロジェクト期」を実施し、20228月から「重点研究プロジェクトⅣ期」を実施しています。

 

「重点研究プロジェクトⅣ期」の概要

実施期間

2022年度から2024年度まで

参画機関

16大学 7研究開発機関等 88社(うち中小企業59社)(2024年7月時点)

プロジェクト名

・プロジェクトCore Industry
・プロジェクトDX
プロジェクトSDGs

※2 プロジェクトSDGs

概要

SDGs 達成に向けた脱炭素社会・安心安全社会の実現と社会的課題の解決に資する技術開発に取組みます。

研究テーマ

【分野】カーボンニュートラル 
 ① 地域の資源循環を支える次世代の小規模普及型メタン発酵システム
 ② インフォマティクスによる革新的炭素循環システムの開発
【分野】感染症対策・ライフサイエンス
 ③ 健康と食の安全・安心を守る多項目遺伝子自動検査装置の開発
 ④ 多感覚ICTを用いたフレイル予防・回復支援システムの研究開発
 ⑤ 管法則に基づく血管のしなやかさの測定システムの開発
 ⑥ 安心長寿社会に資する認知情動を見守り支える住まいシステム開発
【分野】災害対策・自然利用・複合分野
 ⑦ 地域CNに貢献する植物生体情報活用型セミクローズド温室の開発
 ⑧ 全固体フッ化物電池の開発とその評価技術の標準化
 ⑨ 血中循環腫瘍細胞からがんオルガノイド樹立が可能な1細胞分取装置の開発

参画機関

9大学4研究開発機関等26企業(うち中小企業19社)(2024年7月時点)

※3 多感覚ICTを用いたフレイル予防・回復支援システムの研究開発

概要

急速な高齢化社会の中で、医療や介護の状態が急増するため、「健康な状態」と「要介護の状態」との中間段階である「心身機能脆弱状態(フレイル)」の予防とフレイルからの回復が急務な課題です。本プロジェクトでは、フレイルの早期発見・予防・回復を高効率支援するデバイス・システムを開発します。
フレイル(身体的、精神的、社会的)の種類、程度を推定し、回復のための最適なデバイスを推奨するテイラ―メイドシステムと、デバイスの日々の使用結果を記録する予防見守りシステムを開発します。デバイスとしては手指デバイス(精神的)、歩行支援デバイス(身体的)、メタバース(身体的、社会的)、遠隔書道(精神的、社会的)を開発します。

研究リーダー

愛知産業大学 教授 石橋 豊 氏

事業化リーダー

株式会社セカンドコンセプト 萩原 秀和 氏

参加機関(五十音順)

〔企業〕
株式会社セカンドコンセプト(名古屋市中村区)

〔大学〕
愛知産業大学、名古屋工業大学、名古屋大学

〔公的研究機関〕
国立長寿医療研究センター、あいち産業科学技術総合センター、公益財団法人科学技術交流財団

※4 MCIMild Cognitive Impairment
正常な老化過程で予想されるよりも認知機能が低下している、軽度認知障害と呼ばれる状態です。軽度認知障害から健常な状態に戻ることは可能とされていますが、認知症から軽度認知障害に戻ることは困難です。

※5 テーラーメイドシステム
各個人のフレイルの状態や程度を把握し、さらに個人に応じたデバイスを推奨し、その学習レベルを評価する全体のシステムです。学習の記録とも連動しており、状態に応じてデバイス、学習レベルの変更が可能です。

※6 QOLQuality of Life
生活の質を指し、厚生労働省は「日常生活や社会生活のあり方を自らの意思で決定し、生活の目標や生活様式を選択できることであり、本人が身体的、精神的、社会的、文化的に満足できる豊かな生活」と定義しています。

お問い合わせ先

重点研究プロジェクト全体に関すること

あいち産業科学技術総合センター 企画連携部企画室
担当:村上、佐藤、日渡
電話:0561-76-8306

公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
担当:松村、渡邊、田草川
電話:0561-76-8360

本開発内容に関すること

(プロジェクト全体に関すること)
愛知産業大学 経営学部 
学部長 教授 石橋 豊
電話:0564-48-4511

(手指デバイス、脳トレシステムに関すること)
名古屋工業大学 電気・機械工学類 
教授 森田 良文
電話:052-735-5412 
E-mail:morita.yoshifumi[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
電話:052-735-5647 
E-mail:pr[at]adm.nitech.ac.jp

*[at]を@に置換してください。


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