糖尿病患者は熱中症リスクが1.4倍 ~全国規模の保険者データベースを用いた大規模調査を実施~
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カテゴリ:プレスリリース|2025年7月 8日掲載
ポイント
〇 全国256万人分の保険データベースを用い、糖尿病患者の熱中症リスクを大規模解析
〇 糖尿病患者は、非糖尿病者に比べて熱中症リスクが約1.4倍
〇 30~59歳の就労世代の男性では、リスクの上昇が特に顕著
〇 北海道などの寒冷地域でもリスク上昇がみられ、地域特性に応じた予防対策の必要性を示唆
概要
名古屋工業大学 電気・機械工学類の平田晃正教授(先端医用物理・情報工学研究センター長)、小寺紗千子准教授、高山陽子研究員、齊藤けい子研究員、山田雄矢協力研究員(日本システム技術株式会社)は、全国規模の保険データベース(日本システム技術株式会社/メディカルビッグデータREZULT)を活用し、糖尿病の有無による、熱中症の発症リスクの違いを明らかにしました。本研究では、2016年から2022年までの約256万人分の保険請求情報(レセプト)を用いて、糖尿病患者約18.8万人と、性別や年齢、地域などを揃えた非糖尿病者の対照群約75万人を比較することで、糖尿病と熱中症リスクの関係を解析しました。
その結果、糖尿病患者は、非糖尿病者よりも熱中症リスクが1.4倍高くなることが明らかになりました。また、30~59歳の就労世代では、最大で約1.7倍までリスクが上昇することがわかりました。特に、大都市圏(東京、大阪など)を対象とした分析では、最高気温が30℃以下と、比較的熱中症リスクの低い日でも、糖尿病群では熱中症リスクが高くなる傾向が示されました。一方、北海道などの寒冷地域でも、糖尿病群においてリスク上昇が認められ、暑熱順化の遅れや冷暖房環境の地域差が影響していると考えられます。
本研究成果は、気候変動の進行に伴う熱中症予防政策の立案や、糖尿病患者に対する個別の対策の推進に役立つと期待されます。
研究の背景
地球温暖化の進行に伴い、熱中症のリスクは世界的に増加しています。糖尿病は、これまでの研究から発汗機能の低下や体温調節機能の障害を伴うことが知られており、これまでも熱波時の死亡率増加などが報告されてきました。しかし、糖尿病と日常的な高温曝露による熱中症リスクとの関連については、地域限定の小規模な研究に限られており、全国規模での包括的なリスク評価は行われていませんでした。
本研究では、全国47都道府県を対象に、性別・年齢・地域別にマッチングされた大規模データを用いて、日常的な暑熱環境下における糖尿病患者の熱中症リスクを定量的に評価した研究は国内で初めてです。
研究結果
糖尿病患者は熱中症リスクが1.4倍に上昇
全国規模の保険者データベースを用いたCox回帰の結果より、糖尿病群は非糖尿病群と比べて1.4倍(HR=1.41, 95%CI: 1.30-1.53)の熱中症リスクを有することが判明しました。
30~59歳の男性に特に高リスク:最大1.7倍
30~59歳の就労世代の男性ではリスクが最大となり、HR=1.69(95%CI: 1.20-2.38)になりました。屋外作業や職場での暑熱暴露が要因として考えられます。
北海道などの寒冷地域でも熱中症リスクが上昇
北海道在住の40-59歳の糖尿病群では1.94倍(HR=1.94, 95%CI: 1.07-3.52)と高い値が示されました。これは、寒冷地における暑熱順化の遅れや冷暖房環境が不十分である可能性があります。
猛暑日でなくても、糖尿病患者では熱中症リスクが上昇傾向
東京では、最高気温が極端に高くなくても、糖尿病群では30代・60歳以上において熱中症罹患率が高い状態が続く傾向がみられました。一方、大阪では30代で同様の傾向が確認され、50代では30℃を超える高温時にリスクの差が表れていました。これは、気温が極端に高くなくても糖尿病患者は都市部において熱中症リスクが高まる可能性が示されています。
※30歳未満は糖尿病患者数が少なく、分析対象外としています。
お問い合わせ先
研究に関すること
名古屋工業大学 電気・機械工学類 教授
先端医用物理・情報工学研究センター センター長
平田晃正
TEL: 052-735-7916
E-mail: ahirata[at]nitech.ac.jp
広報に関すること
名古屋工業大学 企画広報課
TEL: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp
*[at]を@に置換してください。
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