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光で見る!一軸伸長流動するミセル構造のダイナミクス ― 全視野伸長レオ・オプティクス計測への挑戦 ―

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カテゴリ:プレスリリース|2025年11月 7日掲載


発表のポイント

〇 一軸伸長流れの中で変形する複雑流体を対象に、応力と光学応答を同時にとらえる全視野・非接触型の伸長レオ・オプティクス計測技術を開発。
〇 界面活性剤水溶液(CTAB/NaSal系)で形成されるひも状・ネットワーク状ミセルの流動配向挙動を光学的に可視化。
〇 本新技術により一軸伸長流動下における応力光学則の成立を実証し、応力光学係数の定量化に成功。

概要

液体の中には、流れると形を変える「複雑流体(注1)」と呼ばれるものがあります。こうした流体の性質を理解するには、流れの中で分子がどのように配向し、それがどんな応力を生み出しているのかを同時に調べることが重要です。

界面活性剤水溶液は、濃度や塩の種類によってひも状やネットワーク状のミセル構造をつくり、その構造の違いが粘り気(レオロジー特性)を大きく変えます。これまでミセルの構造変化は主に「せん断流れ」の中で研究されてきましたが、「一軸伸長流動」のように流れが引き伸ばされる場では、空間的に流れが不均一になり、観察が難しいことが課題でした。また、流れによる光学的な変化(複屈折(注2))と応力の関係を示す「応力光学則」がこの条件で成り立つかどうかも、これまで明らかではありませんでした。

名古屋工業大学電気・機械工学類の武藤真和助教と玉野真司教授の研究グループは、液滴の落下によって一軸伸長流れをつくり出し、高速度偏光カメラを用いた「全視野伸長レオ・オプティクス計測技術」を開発しました。この技術を使い、CTAB/NaSal 水溶液中のミセル構造を対象に、伸長応力と位相差(複屈折の空間積算量)の分布を同時に観測することに成功しました(図1)。また、位相差分布を詳細に解析することで、流れの中でどこに応力が集中し、どのようにミセルが配向しているかを把握しました。その結果、エラストキャピラリー領域(注3)と呼ばれる条件下で応力光学則が成り立つことを実証し、一軸伸長流れにおける応力光学係数を算出できることを示しました。得られた係数は、せん断流れでの既存の報告値と一致し、ミセルの濃度が高くなるほど大きくなる傾向が見られました。この新技術により、これまで難しかった伸長流動下でのミセル配向ダイナミクスを可視化できるようになり、複雑流体の構造がどのように形成されるかを理解するための新たな手がかりを提供します。

本技術は、メガネやカメラレンズ、スマートフォンの画面保護フィルムなどに使われる樹脂材料の製造過程で歪みのない透明材料(ゼロ複屈折材料)をつくる技術につながり、光学デバイスや医薬品製造プロセスの最適化にも応用が期待されます。さらに、非接触・非破壊で計測が可能なため、環境にやさしく、リサイクル材や生分解性プラスチックなどの次世代エコマテリアルの品質評価にも役立ちます。

本研究成果は、米国物理学協会(AIP)が刊行する学術誌 Physics of Fluids に2025年10月9日付で掲載され、Featured Article(注目論文) に選ばれました。

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 図1 液滴落下過程における伸長応力および位相差分布の可視化(© AIP Publishing) 

▶詳細(プレスリリース本文)はこちら

論文情報

論文名:Full-field rheo-optical analysis of wormlike and networked micellar structures under uniaxial extensional flow
著者名:Masakazu Muto, Naoki Kako, Tatsuya Yoshino, and Shinji Tamano
掲載誌:Physics of Fluids
公表日:2025年10月9日
DOI:10.1063/5.0290249
URL:https://doi.org/10.1063/5.0290249

用語解説

(注1)複雑流体(Complex fluids)
加える力の大きさや速さによって粘度が変わる流体の総称。血液や蜂蜜、界面活性剤などはその代表例。

(注2)複屈折(Birefringence)
物質の中を光が通るときに、光の振動方向によって屈折率が異なる現象。物体に作用する応力(厳密には主応力差)と複屈折の間には比例関係(応力光学則)があり、その比例定数を応力光学係数と呼ぶ。

(注3)エラストキャピラリー領域(Elasto-capillary regime)
弾性力と毛細管力が釣り合い、液糸が指数関数的に細くなる過渡的領域であり、強い伸長応力が生じるのが特徴。

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学 電気・機械工学類
助教 武藤 真和
TEL: 052-735-5182
E-mail: muto.masakazu[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
TEL: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

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