軽量高強度構造用材料チタン合金の強度を左右する添加レアメタル近傍の原子移動モデルを解明-チタン合金の高強度化・コストダウンに期待-
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カテゴリ:プレスリリース|2017年4月28日掲載
国立大学法人宇都宮大学山本篤史郎准教授、本学物理工学専攻林好一教授を中心とする研究グループは、公立大学法人広島市立大学、国立大学法人熊本大学、公益財団法人高輝度光科学研究センターとの共同研究により、チタン合金を製造する際に添加されるレアメタル近傍の原子移動モデルを解明し、チタン合金の更なる高強度化とコストダウンに資する合金設計の新たな指針となる知見を得ました。
チタン合金は鉄鋼材料と比べて、比重が約半分、強度が同程度であるため、航空機において高い荷重がかかる部品に採用される動きが広がっています。また、生体適合性が高いため、眼鏡フレームや人工骨などにも用いられています。チタン合金には結晶構造の異なる相が主に2種類あり、α相とβ相と呼ばれています。このうち、β相は結晶構造が体心立方構造で、高強度でありながら機械加工しやすい特徴があり、β相を含むチタン合金の利用が近年急速に広がっています。
β相を含むチタン合金を作製するためには、ニオブ、タンタル、バナジウムなどの高価なレアメタルを添加した上で様々な熱処理を行う必要があります。しかし、その熱処理によってチタン合金の強度を低下させて加工性を劣化させる微細なナノ相(ω相)も同時に生じます。したがって、必要最小限のレアメタル添加量でチタン合金中のω相の生成を抑制すると同時に、β相の割合を最大化できれば、低コストで優れた軽量高強度構造用材料を実用化できます。
チタン合金に添加するレアメタルはこれまで経験的に選択されており、どのレアメタルが最もβ相を生じさせる能力があるかわかっていませんでした。本研究では、チタンとレアメタルの一種であるニオブの2種類の元素からなるチタン合金中に含まれるニオブ原子の周囲の原子配列を、蛍光X線ホログラフィーと呼ばれる原子配列を三次元可視化できる手法を用いて調査しました。その結果、β相中はもちろん、ω相中でさえニオブの周囲はβ相の原子配列に近いことを発見しました。これにより、ニオブを添加することによって、チタン合金中のβ相の割合が増加する効果が、原子配列の観点から実証されました。
今後、チタン合金に添加されることの多いその他のレアメタルについても同じ実験を行うことにより、レアメタルが持つβ相増大効果を比較できるようになり、最適な軽量高強度チタン合金の開発に貢献するものと期待されます。
本研究内容は平成29年4月28日に、金属材料学で最も権威のある雑誌Acta Materialiaにオンライン掲載されました。
■発表のポイント
- ある元素近傍の原子配列を可視化できる蛍光X線ホログラフィーをチタン合金に適用
- 添加レアメタル原子の周りの原子配列が従来説と異なることを発見
- 今後、チタン合金に添加するレアメタルに応じて、その近傍の原子配列を明らかにすることにより、最も効果的・経済的なレアメタルの選択と添加量を設定できる
- チタン合金の更なる高強度化とコストダウン化に大きな貢献が期待できる。またチタン合金の用途の広がりや複数の特徴を有するチタン合金の開発の糸口にもなりえる
■書誌情報
- 雑誌名:Acta Materialia
- タイトル:Local atomic structure near an Nb atom in aged β-Ti alloys
- 著者:T.Yamamoto1、 K.Hayashi2、 N.Happo3、 S.Hosokawa4、 H.Tajiri5
- 所属:1宇都宮大学、2名古屋工業大学、3広島市立大学、4熊本大学、5高輝度光科学研究センター
- doi :10.1016/j.actamat.2017.03.048
■本件に関する問い合わせ先
研究内容について
国立大学法人宇都宮大学 学術院(工学研究科)准教授
山本篤史郎 TEL:028-689-6034
国立大学法人名古屋工業大学大学院
工学研究科 物理工学専攻 教授
材料科学フロンティア研究院 副院長
林好一 TEL:052-735-5308
公立大学法人広島市立大学大学院 情報科学研究科 准教授
八方直久 TEL:082-830-1553
国立大学法人熊本大学 先端科学研究部 教授
細川伸也 TEL:096-342-3353
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 研究員
田尻寛男 TEL:0791-58-2750
報道担当
- 宇都宮大学 企画広報部企画広報課 渡邉文彦 TEL:028-649-5201
- 名古屋工業大学 企画広報課広報室 村上侑 TEL:052-735-5316
- 広島市立大学 事務局企画室 佐々木友則 TEL:082-830-1666
- 熊本大学 マーケティング推進部広報戦略ユニット 早川和明 TEL:096-342-3119
- 高輝度光科学研究センター 利用推進部普及情報課 小西盛也 TEL:0791-58-2785
詳細
プレスリリース(PDF)をご覧ください。
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