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気象データを使って熱中症搬送者数を予測 ~高齢者の熱中症リスク、連続3日間の熱の蓄積が影響していることを科学的に証明~

カテゴリ:プレスリリース|2019年07月17日掲載


発表のポイント

〇 気象データと計算科学を併用することにより、熱中症搬送者予測ができる
〇 高齢者の熱中症リスクは、当日の暑さだけではなく連続した3日間の気象条件が影響
〇 梅雨明け後の熱中症リスクは、夏場に比べて2倍以上であることを立証

概要

 名古屋工業大学(先端医用物理・情報工学研究センター長(教授)・平田晃正、小寺紗千子特任助教、
大学院生・西村卓、卒業生・長谷川一馬、情報工学専攻・竹内一郎教授)、東北大学サイバーサイエンスセンターの共同研究グループは、東京都、大阪府、愛知県を対象として、気象データと計算シミュレーション技術を融合することにより、一日当たりの高齢者の熱中症搬送者数を予測可能なモデル式の提案に成功しました。
 気象情報を入力データとし、詳細な人体モデルを対象として大規模シミュレーションにより計算された発汗量、体温上昇をもとに、熱中症搬送者数を都市ごとに予測します。また、従来、搬送者数と関連があるとされてきたWBGTや外気温を用いても、一定の精度で搬送者数を予測できることも確認しました。
 これまでも、熱中症発症リスクは、当日の気温の高さはもちろん、連続した暑熱によっても影響があるのではと考えられていましたが、高齢者では当日のみでなく前2日間の気象条件が影響すること、また、成人では当日の暑さが直接的な要因となることが、科学的に立証されました。
 今後、熱中症リスクの低減に向けた啓発活動に利用していくこと、また、救急搬送される患者数の推定などへの応用が期待されます。

190717hirata1.png図1.高齢者の熱中症搬送者数の予測結果と実際の搬送人員数の比較 (東京:2013-2018 6年平均)

研究の背景

 地球温暖化などの影響から、熱中症の患者数は増加の一途をたどり、日本だけではなく、アメリカやヨーロッパなどでも注目されています。特に、子どもや高齢者は熱中症の高リスク群とされており、一層の注意が必要となります。
 これまでに、名古屋工業大学、東北大学サイバーサイエンスセンター、北見工業大学、一般財団法人日本気象協会の共同研究グループは、乳幼児や高齢者などの個人特性を考慮した熱中症リスク評価のための複合物理・人の生理応答を統合したシミュレーション技術を開発してきました。また、現実的な条件(例えば、アスファルト、運動場など)での熱中症リスク評価や、外国人を対象とした熱中症のリスク評価に関する試算結果(2016年7月25日プレスリリース)についても報告してきました。研究成果の一部は、日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトの一環で熱中症セルフチェック(https://www.netsuzero.jp/selfcheck)としてコンテンツ開発し、広く一般の方にも活用されています(2017年4月25日プレスリリース)。さらに、同じ気象条件でも、暑さに慣れる前(梅雨明け直後)と慣れた後(夏の終わり)では、熱中症のリスクが変わることも科学的に証明しました(2018年5月29日プレスリリース)。これらの大規模高精度計算技術と気象および搬送者数に関するビックデータを融合されることにより、気象データより熱中症搬送者数が予測できれば、さまざまな応用への展開が期待されます。

研究の内容・成果

 名古屋工業大学研究グループでは、2013年―2018年の気象データを用いて、高齢者に対する大規模シミュレーションによって得られた1日の発汗量(参考図1参照)と熱中症搬送人員数を比較、気象情報から搬送者数を推定可能なモデル式を提案しました(予測結果と実際の搬送人員数の比較:図1参照)。また、同様のモデル式を変更することで、入手が簡単な一日平均気温や熱中症評価指標であるWBGTを用いても、一定の精度で予測できることも示しました。特に、高齢者の場合、熱中症リスクは、当日の暑さのみではなく、連続3日間の気象条件によって増大することがわかりました。具体的には、当日の気象条件は約60%、1日前は20%、2日前は10%、それ以前では5%以下程度、熱中症発症リスクへ影響します。また、高齢者であっても暑熱順化(暑さ慣れ)することを科学的に明らかにしました(参考図2参照)。一方、若者の場合では、熱の蓄積による影響はあまり見られず、当日の環境における運動、労働などが影響を及ぼし、年齢によって熱中症リスクの要因が違うということを確認することにもつながりました。高齢者の搬送者数と最も相関が高いのは、発汗量であり、高齢者の熱中症は脱水症状により引き起こされる可能性が高いことを示唆するものです。

社会的な意義

 本技術は、その地域の気象特性や人口の年齢分布なども考慮しているため、所望の地域のデータ(平均気温)を入手できれば、県や市ごとのピンポイントでの熱中症搬送人員数予測が可能となります。これによって、救急搬送者数の予測や、暑い日が続いた場合の熱中症に対する注意喚起を具体的かつピンポイントに行うことが可能となります。

今後の展開

 今回は、基礎的な検討として、主要都市3都市(東京・大阪・名古屋)の過去6年分のデータから、予測式を提案しました。今後は、各県でのデータの蓄積・解析によって、さらに予測可能な地域を増やし、日本全国の熱中症搬送人員数のための予測式を作成する予定です。

用語解説

*1 暑熱順化:気温の変化に伴い、徐々に体が暑さに慣れていくこと。汗の量や皮膚血流量の増加などの変化によって体の外へ効率的に熱を逃がし、体温上昇を抑えられるようになります。

論文情報

"Estimation of Heat-related Morbidity from Weather Data: A Computational Study in Three Prefectures of Japan over 2013-2018" S. Kodera, T. Nishimura, E. Rashed, K. Hasegawa, I. Takeuchi, R. Egawa, and A. Hirata, Environment International, 2019年9月掲載予定,論文番号104907,DOI: https://doi.org/10.1016/j.envint.2019.104907

参考図

190717hirata2.png

参考図1. 体表面温度分布(a, b)と日中の深部体温(赤)と発汗量(青)の変化(c)
((a)気温30度,(b, c)2018年8月1日における東京の天気(最高気温35.1℃))

190717hirata3.png

図2.梅雨明け直後から8/31までの暑熱順化に関する係数.梅雨明け直後を1とした場合,同じ気象条件でも,晩夏には熱中症リスクが5割程度減少する.

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科
電気・機械工学専攻
教授 平田 晃正
TEL:052-735-7916
e-mail : ahirata[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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