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常温常圧での窒素分子切断を達成 〜接続可能な社会の実現につなげる窒素切断反応を発見〜

カテゴリ:プレスリリース|2019年09月10日掲載


発表のポイント

〇 シンプルな配位子をもつモリブデン錯体化合物を一電子酸化することで窒素分子が切断され窒化物が生成することを発見
〇 化学的酸化、電気化学的酸化による窒素分子切断のメカニズムを解明
〇 酸化反応を組み合わせた新規窒素固定法の開発につながる成果
〇 接続可能な社会の実現のための一助となる研究成果

概要

 現在、肥料や様々な化成品などの原料に用いられるアンモニア (用語1)は、工業的にはハーバー・ボッシュ法と呼ばれる手法により、窒素と化石燃料を使って水素を発生させ、高温高圧条件下で生産されている。世界で消費されるエネルギーの約2 %がアンモニア合成に使用されており、持続可能な社会を構築する上で、水を水素源にした低環境負荷アンモニア合成法の開発、又はアンモニアを出発原料として使用しない窒素分子から含窒素化合物への直接変換反応の開発が望まれている。不活性ガスとして知られる窒素(N≡N)分子は、原子同士が三重結合を形成しており、非常に強固で反応性に乏しく、窒素源として直接利用することは極めて難しい。もし、常温常圧でこの結合を切断することが出来れば、温和な条件下でのアンモニア合成法の開発や、窒素ガスから含窒素有機化合物を直接合成することが可能となる。
 今回、名古屋工業大学 (片山 精 博士, 和佐田 裕子 博士, 猪股 智彦 准教授, 小澤 智宏 教授, 増田 秀樹 名誉教授)と山口東京理科大学 (太田 雄大 准教授), 兵庫県立大学 (故・小倉 尚志 教授)の研究グループは、モリブデン(用語2)に窒素が配位結合したシンプルな金属化合物(錯体)に、温和な酸化剤を加えることで、窒素分子(N≡N)の三重結合が切断され、2分子のモリブデン-ニトリド錯体 (用語 3, 4) へと変換されることを発見した。(図1)
 窒素分子開裂反応開始のトリガーとして温和な酸化剤であるフェロセニウム塩 (用語5)を使用できたことは重要な知見であり、これまでにない酸化反応を組み合わせた全く新しい窒素固定法の開発につながることが期待される。
なお、本研究成果は、2019年6月10日にドイツ化学会誌のAngewandte Chemie International Edition (電子版)、Cover Pictureに掲載されている。(DOI: 10.1002/anie.201905299)

研究の背景

 現在、工業的にはハーバー・ボッシュ法と呼ばれる手法により、窒素ガスと化石燃料に由来する水素から、高温高圧条件下でアンモニア(用語1)へと変換し、アンモニアを出発原料として化成品を生産している。水に由来する水素源を用いた低環境負荷アンモニア合成法の開発、アンモニアを出発原料として使用しない窒素ガスから含窒素化合物への直接変換反応の開発は、持続可能な社会の構築につながる。
 1995年にCummins教授ら(MIT)によって、モリブデン(用語2)を用いた窒素分子の切断反応が初めて報告され、その後、窒素ガスから含窒素有機化合物への変換反応が検討されてきた。2019年4月には、東京大学の西林教授らによってモリブデン触媒と窒素と水とヨウ化サマリウムを用いた次世代型のアンモニア合成法開発が示されており、その反応過程でも窒素-窒素三重結合(N≡N)の切断反応を経由することが提唱されている。このような背景から常温常圧条件下での窒素-窒素三重結合(N≡N)の切断反応は、非常に重要な素反応の1つである。

研究の内容・成果

 窒素-窒素三重結合(N≡N)の切断反応を遂行するためには、適切な金属の電子状態、と金属中心周りの構造を選択する必要があり、高度に設計された触媒でしか達成することができていない。工業化を見据えると、シンプルな触媒設計が望ましい。そこで増田秀樹 名誉教授らの研究グループは、古くから知られているモリブデンに窒素が結合した化合物に着目した。(図1) この金属錯体化合物に温和な酸化剤を加え、一電子酸化することで、窒素窒素三重結合(N≡N)の切断反応に適した電子状態をとり、構造変化が起こることを予想した。
 単結晶X線構造解析によるモリブデン錯体の一電子酸化反応後の構造を確認したところ、窒素-窒素三重結合(N≡N)が切断された後に生じるモリブデン-ニトリド化合物であることが明らかとなった。反応過程を検討するために、電気化学的酸化反応過程での共鳴ラマン分光、紫外可視吸収分光測定を遂行したところ、2つのモリブデン化合物が窒素分子を挟み込んで架橋した構造を中間体として経由することが明らかとなった。これらの実験結果は密度汎関数法による計算結果と良い一致を示しており、市販のホスフィン配位子 (depe = 1,2-Bis(diethylphosphino)ethane) を用いたシンプルなモリブデン化合物でも窒素-窒素三重結合(N≡N)の切断反応できることを示した。
 これまでの窒素-窒素三重結合(N≡N)の切断反応とは異なり、世界で初めて温和な酸化剤 (フェロセニウム塩)を窒素分子切断反応開始のトリガーとして使用したことが重要な知見である。

社会的な意義

 今回発表した酸化剤が誘発する窒素-窒素三重結合の切断は、基礎研究の域を脱していないが、持続可能な社会の実現のための化石燃料に依存しない窒素固定法の開発に向けた大きな一歩である。

今後の展開

 これまでにない酸化反応を組み合わせた窒素固定法の開発、温和な条件での低環境負荷型アンモニア合成法の開発、窒素分子から含窒素有機化合物への直接変換反応の礎となる。

用語解説

 *1 アンモニア (NH3): 常温、常圧で無色の気体で、肥料などの原料として利用されている。
 *2 モリブデン: 原子番号42 に位置する金属元素。
 *3 錯体: 金属に有機物が結合した分子性化合物
 *4 ニトリド: 窒化物, N3-
 *5 酸化剤: 酸化過程で電子を奪う作用をもつ試薬

論文情報

論文名 Dinitrogen-Molybdenum Complex Induces Dinitrogen Cleavage by One-Electron Oxidation
著者名 Akira Katayama, Takehiro Ohta, Yuko Wasada-Tsutsui, Tomohiko Inomata, Tomohiro Ozawa, Takashi Ogura, Hideki Masuda
掲載雑誌名 Angew. Chem. Int. Ed., 2019, 58, 11279-11284
公表日 2019年6月10日
DOI 10.1002/anie.201905299 
URL https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/anie.201905299

参考図

190910katayama1.jpg図1

190910katayama2.jpg

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科
小澤・猪股研究室
片山 精
TEL:052-735-5673
e-mail : a.katayama.387[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5316
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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