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AI手法を導入した全固体リチウム二次電池の効率的な材料探索法を実証 - 材料研究・開発の期間短縮による産業競争力強化にも期待 -

カテゴリ:プレスリリース|2020年07月27日掲載


発表のポイント

〇 材料開発で、最適材料の決定を人工知能AI手法による直接的な探索により可能であることを実証
〇 AI探索により最適材料に到達するまでの実験回数を網羅探索の約1/3に低減
〇 複数の物性を考慮した複雑な組成材料を効率的に探索可能

概要

 本学大学院工学研究科及びフロンティア研究院(材料科学・情報科学)の研究グループは、次世代車載電池として期待される全固体リチウム二次電池(*1)として有力視される固体電解質材料(*2)の研究開発において、材料インフォマティクス研究(従来の材料研究の手法にAIやデータサイエンスのアイデアを加味することで研究開発を効率化する分野)を直接的に材料実験に適用して、材料探索を効率的に決定できることを実証しました。さらに、イオン伝導性と機械特性(焼結密度)などの複数の材料物性を考慮した探索も効率化が可能であることも確認しています。
 これまでの材料インフォマティクス研究では、データ量の豊富な材料シミュレーションを対象としていましたが、シミュレーションで仮定・考慮していない複合的要素が重要になることがしばしばあり、その都度実験による検証が必要になっていました。
 本研究成果は、直接的に材料実験と材料インフォマティクスを連携させた実例であり、その有効性を明らかにしたものです。将来的には合成・加工プロセスに関わる諸条件も最適化するような利用により、電池材料の開発期間短縮が実現すると期待されます。 

研究の背景

 次世代の電気自動車車載電池として、安全性・性能の両立の観点から全固体リチウム二次電池の開発・実装が期待されています。この商用化には、固体電解質と呼ばれる材料のリチウムイオン導電性能向上が求められています。
 固体電解質は、シリコン半導体と同様に、異元素(ドーパントと呼ばれます。)のわずかな添加によりイオン導電性が数桁向上するなどの効果が知られています。従前から、このドーパントの最適な選択や添加量は、研究者の経験と直感による試行錯誤で、膨大な数の繰り返し実験によって絞り込むことを必要とし、開発期間が長期化する結果となっています。研究開発期間の短縮は産業力強化にとっても重要な課題でもあります。

研究の内容

 本研究では、高いリチウムイオン導電性を示し容量の大きい金属リチウム負極に対して安定している固体電解質材料(NASICON型リン酸ジルコニウムリチウム, LiZr2(PO4)3 )に、ドーパントであるCa(カルシウム)イオンとY(イットリウム)イオンを同時に添加することで、イオン導電性と焼結密度の向上を目指しました。二種のドーパントを添加した材料47組成を実際に合成して特性を評価したところ、図1に示すように結晶構造、焼結密度、不純物生成量、リチウムイオン導電特性には複雑な相関関係があることが分かりました。
 このような材料特性を踏まえて、直感や経験に基づいて最適な異元素や添加量を見出すことは、非常に困難であると考えられます。

図1.jpg

図1 カルシウム(Ca:縦軸)とイットリウム(Y: 横軸)の添加量を様々に変化させたときに、実験的に観測される、安定相の結晶構造分布(六方晶構造/単斜晶構造の生成比率を赤/青で表示)、不純物量(不純物量が多いほど濃紫で表示)、焼結密度(機械強度の優れた材料ほど緑色で表示)、リチウムイオン導電性(高いイオン導電性を示すほど黄色)を色彩の変化で図示しています。2種のドーパントの添加量に対する各種材料特性の変化の傾向は一見するだけでは相関がなく、単純な法則から材料特性を総合的に予測することの困難性が示唆されます。


 今回、AI手法の一つであるベイズ最適化(*3)による選択に従ってサンプリングした結果と実験で得られた47組成のデータを比較分析したところ、1/3の実験サンプリング数で99.9%以上の確率で最適解を見出せることを確認しました(図2)。さらに、イオン導電性と焼結密度(材料の機械的特性などに関連)の性能を同時に考慮しながら材料探索をする多目的最適化も可能であることも確認できました。
 従来、研究者の経験と洞察力あるいは勘に基づいて判断されてきた「次に実験すべき組成」の選択を、AI手法の導入により少ないサンプル数で代行できることを実証しました。

図2.jpg図2 カルシウム(Ca)とイットリウム(Y)の添加量を様々に変化させた47サンプルの中から最も高いイオン導電率を示す材料を探索する過程を示しています。(実験回数(横軸)に対する発見確率(縦軸))。47回の網羅的実験結果(黒点線はランダムに材料を選んだ場合の探索結果)に対して、AI手法による材料探索では約15回(全サンプルの1/3)を調査すれば、ほぼ100%の確率で最適材料を発見できます。(赤三角点線)。

社会的な意義

 従来の可燃性の有機電解液を用いたリチウムイオン電池は、発火事故など安全性に課題があります。電解液を不燃性の無機セラミックス材料を用いた全固体化の電池の開発は、安全性の向上に加え、電池容量の向上も期待されています。その鍵となるのが新材料の開発です。
 ものづくりの現場では、安全で高品質・高機能の材料開発に鎬を削っています。組成や合成条件を最適化する作業は製品化のために欠かすことのできないステップであり、研究開発期間の大きなウエイトを占有しています。ベイズ最適化による最適組成探索アプローチは、その開発期間を圧縮することができ、電池材料だけではなく様々な材料への開発に応用することで産業競争力の向上に貢献できると期待されます。

今後の展開

 
 今回は二種のドーパントを添加した材料の最適組成探索を行いましたが、焼成温度や時間などのプロセス条件も最適化するような課題に取り組み、材料研究・開発の短縮化を実現したいと考えています。

 本研究は、日本学術振興会科学研究費の助成等を受けて実施しました。

用語解説

(*1)全固体リチウム二次電池
 従来の可燃性の有機電解液を用いたリチウムイオン電池に代わる、電解液を不燃性の無機セラミックス材料に置き換えた安全性と電池容量を向上させた全固体化した電池です。
(*2)固体電解質材料
 全固体リチウム二次電池における固体電解質材とは、リチウムイオンを流すことのできるセラミックス材料に対応します。全固体リチウム二次電池を実現させるために、高いリチウムイオン伝導性をもつ材料の探索が活発に行われています。
(*3)ベイズ最適化
 AI手法の一つであり、ベイズ推論に基づいて手持ちのデータから次に観測すべき データ点を提案し、探索過程全体のステップ数を最適化する手法。

論文情報

論文名: Bayesian-optimization-guided Experimental Search of NASICON-type Solid Electrolytes for All-solid-state Li-ion Batteries
著者名: 原田真帆(研究当時:生命・応用化学専攻 大学院生)、武田はやみ(特任准教授)*、鈴木進也(情報工学専攻 大学院生)、中野高毅(生命・応用化学専攻、フロンティア研究院 大学院生)、谷端直人(生命・応用化学専攻 助教)、中山将伸(生命・応用化学専攻、フロンティア研究院 教授)*、烏山昌幸(情報工学専攻 准教授)、竹内一郎(情報工学専攻、フロンティア研究院 教授) (*責任著者)
掲載雑誌名: Journal of Materials Chemistry A
公表日: 2020年7月23日
DOI: 10.1039/d0ta04441e
URL: https://doi.org/10.1039/d0ta04441e

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 生命・応用化学専攻、フロンティア研究院
教授 中山 将伸
Tel: 052-735-5189
E-mail: masanobu[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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