国立大学法人名古屋工業大学

文字サイズ
検索

News&Topics一覧

ホーム > News&Topics一覧 > プレスリリース:コロナ禍の熱中症搬送者数について ~熱中症搬送者数予測技術からの知見~

コロナ禍の熱中症搬送者数について ~熱中症搬送者数予測技術からの知見~

カテゴリ:プレスリリース|2021年06月30日掲載


名古屋工業大学
東北大学 サイバーサイエンスセンター
東京電機大学

発表のポイント

〇 気象データと計算科学を併用することにより、屋内、屋外での熱中症搬送者数予測ができる
〇 熱中症搬送者数の予測値と実測値の比較により、コロナ禍における搬送者数を評価
〇 屋内での搬送者数は、コロナ禍の影響をほぼ受けない。屋外の搬送者数は、人口動態の影響をやや受けるものの、暑熱順化の問題もあり、ほとんど変化しない

概要

 名古屋工業大学、東北大学サイバーサイエンスセンター、東京電機大学の共同研究グループは、東京都、大阪府、愛知県、宮城県を対象として、気象データと計算シミュレーション技術を融合することにより、一日当たりの熱中症搬送者数を予測、実測値と比較することで、2020年における熱中症搬送者数の影響について考察しました。
 熱中症発症の患者数、および搬送者数は気象の影響、人の暑さ慣れなど複合的な要素が関係するため、過去のデータとの単純な比較では、コロナ禍の影響なのか気象の影響なのかが不明瞭です。気象情報に基づいた熱中症搬送者数予測術を用いることで、気象の影響を取り除いた比較が可能となります。また、人口動態も考慮した予測値も同様に示しました。
 大阪府、愛知県では、屋外からの搬送者は、お盆時期においてはステイホームによる搬送者数の減少がみられましたが、その他の時期については、屋内・屋外搬送者数ともに変化は見られませんでした。コロナ禍の影響で人口動態が変化していますが、その影響が見られない理由として、ステイホームに伴う暑熱順化の遅れや体力低下により、同じ作業を行った場合でも、多くのエネルギーを消費し、体温上昇しやすくなるなどの影響を示唆しています。
 一方、東京都においては、屋内・屋外ともに例年よりも増加傾向にあり、特にお盆期間中の屋内搬送者数が予測値を大きく上回りました。推定式では急激な気温の変化を十分考慮できないことに加え、コロナ禍による帰省の自粛や、ステイホームによる体力低下などが複合的に影響している可能性があります。
 今後、熱中症リスクの低減に向けた啓発活動に利用していくこと、また、救急搬送される患者数の推定などへの応用が期待されます。

研究の背景

 昨今のコロナ禍による影響で熱中症搬送者数は変化したのか、ということに注目が集まっています。図1は、2013年-2020年の月ごとの東京都、大阪府、愛知県、宮城県の熱中症搬送者数を示しています。図より、2020年の搬送者数は、7月は例年に比べ減少していますが、8月では多くなっていることがわかります。ただし、熱中症の患者および搬送者数は、気象の影響が深く関係するため、7月の搬送者数の減少がコロナ禍の影響なのか、年ごとの気象の違いなのかは不明瞭でした。
 名古屋工業大学、東北大学サイバーサイエンスセンター、東京電機大学の共同研究グループは、気象データと計算シミュレーション技術との融合により熱中症搬送者数を予測する手法を開発してきました[1]。この手法は、気象条件からスーパーコンピュータにより深部体温変化・発汗量を推定、人口およびその年齢分布等を考慮して熱中症搬送者数を予測する技術です。この手法を用いることにより、気象の影響を取り除いた比較が可能となります。

Fig11.jpg

図1 月別熱中症搬送者数(2013-2020)

研究の内容・成果

 名古屋工業大学では、東京電機大学の協力のもと、東北大学サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピュータAOBAを用いて夏季期間の深部体温変化・発汗量を推定、各都府県における人口およびその年齢分布を考慮して熱中症搬送者数を予測しました[1]。また、一日当たりの平均気温を用いた場合でも同等の予測精度が得られることも確認しています。今回の事例では、愛知県における予測誤差差異は-0.9人/日でした。図2は、屋内/屋外からの搬送者別に、予測値と実際の搬送者数の比較を示しています。また、屋外からの搬送者数に対し、コロナ禍による人口動態をモバイルデータ[2](7日平均)により考慮した結果(赤線)も同様に示しました。
 大阪府、愛知県、宮城県においては、ほぼ同様の傾向となり、屋内搬送者は、一日当たりの平均誤差が大阪では5.4人/日、愛知で5.0人/日、宮城で2.1人/日であり、予測式とよく一致していることから、ステイホームの影響で屋内にとどまる人の割合は多くなっていましたが、屋内からの熱中症搬送者においては、例年と傾向は変わらないと言えます。屋内の搬送者の7割程度が高齢者であり、ゆえに搬送者数はステイホームの影響を受けないためといえます。
 屋外搬送者においては、お盆明けなど予測値を上回った日がありました。また、人口動態を考慮した予測値(図2右:赤線)に着目すると、お盆時期においてのみよく合致しており(3府県平均誤差:赤5.0人/日,考慮しない場合(青)24.9人/日)、コロナ禍によるステイホーム(外出の自粛)の影響がみられます。一方、それ以外の期間では青線と合致しており、人口動態が異なるにもかかわらず、熱中症搬送者数が減少していません(3府県平均誤差:青5.9人/日,赤5.3人/日)。これは、ステイホームに伴う暑熱順化の遅れ、体力低下により、同じ作業を行った場合でも、多くのエネルギーを消費、体温上昇しやすくなるなどの影響を示唆するものです。
 一方、東京都においては3府県と異なる傾向となり、特にお盆期間中の屋内において予測値を大きく上回る結果となりました。また、屋外においても予測値を上回る傾向となっています。詳しい原因は不明ですが、コロナ禍による帰省の自粛、また3府県と同様、ステイホームによる体力低下などが複合的に影響している可能性があります。加えて、東京都は他の3府県と比べて、お盆前が比較的涼しく、その時期にお盆時期に急に暑くなったことも相まって、推定値との相違が多くなった可能性があります。夏季期間全体では、屋内で10.5人/日、屋外で青:7.8人/日でした。
 以上より、コロナ禍により人口動態は大きく変化しましたが、屋内・屋外の熱中症搬送者数の変化は小さいものといえます。

Fig22.jpg

図2 予測結果と実データとの比較:屋内(左)屋外(右)(2020)
青線が予測式を用いた推定値、赤線が人口動態を考慮した推定値。

プレスリリース情報および関連主要論文

[1] 気象データを使って熱中症搬送者数を予測 ~高齢者の熱中症リスク、連続3日間の熱の蓄積が影響していることを科学的に証明~ 2019年7月17日
https://www.nitech.ac.jp/news/press/2019/7579.html
S. Kodera, T. Nishimura, E. Rashed, K. Hasegawa, I. Takeuchi, R. Egawa, and A. Hirata*, "Estimation of heat-related morbidity from weather data: a computational study in three prefectures of Japan over 2013-2018," Environment International, vol.130, article no. 104907, Sep. 2019.

[2] NTTドコモ モバイル空間統計 https://mobaku.jp/covid-19/


【謝辞】
本研究は、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点、および、革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラの支援による(課題番号: jh210041-NAH)。

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科
電気・機械工学専攻
教授 平田 晃正
TEL:052-735-7916
e-mail : ahirata[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5316
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


ページトップへ